単勝オッズ8.1倍(4番人気)のキタウイングが優勝(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
波乱の決着となった年も少なくないレースだが……
AIマスターM(以下、M) 先週は新潟2歳Sが行われ、単勝オッズ8.1倍(4番人気)のキタウイングが優勝を果たしました。
伊吹 スタートで後手を踏んでしまい、道中は後方の最内を追走。ゴール前の直線で各馬が馬場の外めに持ち出す中、比較的内めに進路を取ってしぶとく伸び、離れたところで競り合っていたウインオーディン(2着)やシーウィザード(3着)を差し切っています。思い描いていたプラン通りの競馬ではなかったでしょうし、戸崎圭太騎手の臨機応変な手綱捌きも、それに応えてみせたキタウイングもお見事というほかありません。
M キタウイングは先々週8月21日の新潟1R(2歳未勝利)を勝ち上がったばかり。連闘での重賞制覇となりました。臨戦過程が特殊だった分、取捨に悩んだ方も多かったのではないでしょうか。
伊吹 単純に連闘を嫌ったわけではないのですが、私自身もこの馬はもう少し高く評価すべきだったと反省しています。近年の新潟2歳Sは今回と同じ距離のレースを経由してきた馬が優勢。2017〜2021年の過去5年に限ると、前走の距離が1600mだった馬は[5-2-4-19](3着内率36.7%)と非常に堅実でしたし、今年の該当馬はこのキタウイングのみだったのです。ただ、小柄な馬や“関東馬”が苦戦しているレースでもあったことから、私はキタウイングを素直に中心視せず、より不安要素が少ない馬に重いシルシを打ってしまいました。注目すべきファクターのひとつと認識していたにもかかわらず、最終的に「今年も前走の距離が明暗を分けるだろう」と判断できなかったのはお恥ずかしい限り。今年のメンバー構成で、なおかつこのくらいの人気にとどまるのであれば、強気に狙うべきだったかもしれません。
M タイトルを獲得したことにより、今後はビッグレースでもそれなりに注目を集めるはず。どのように付き合っていくべきだと考えていますか?
伊吹 例年の新潟2歳Sとは少々趣が異なる、やや特殊なメンバー構成でしたから、その点はしっかり頭に入れておくべきでしょう。とはいえ、1600mのレースはこれまでのところ2戦2勝なので、同じような条件のレースであればこの馬なりのパフォーマンスは見せてくれそう。妙味あるタイミングを見逃さないよう心掛けたいところですね。
M 今週の日曜新潟メインレースは、サマー2000シリーズ最終戦の新潟記念。昨年は単勝オッズ42.8倍(12番人気)のマイネルファンロンが優勝を果たしました。ハンデキャップ競走ということもあり、波乱の決着となる年も少なくない印象です。
伊吹 2012年以降の過去10回を振り返ってみても、3連単の配当が10万円未満だったのは4回だけ、20万円未満だったのも6回だけ。コンスタントに好配当が飛び出しています。単勝人気順別成績を見ると、3着以内馬30頭のうち13頭は単勝7番人気以下でした。
M 過半数の6回で単勝1番人気馬が4着以下に敗れていますし、単勝2〜3番人気馬や単勝4〜6番人気馬の成績もいまひとつですね。
伊吹 2020年は単勝オッズ10倍未満の3頭が1〜3着を占め、3連単の配当が3万2940円どまり。決して大荒れ続きというわけではありません。ただ、その2021年も単勝オッズ4.3倍(1番人気)のワーケアが10着に敗れていますから、上位人気グループの馬は基本的に疑ってかかりたいところ。過小評価されていると思しき馬を積極的に狙っていくべきでしょう。
M そんな新潟記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ヒートオンビートです。
伊吹 意外なところを挙げてきましたね。Aiエスケープは基本的に“穴党”なので、ハンデキャップ競走のここは人気薄の馬を選ぶのではないかと思っていたのですが……。
M まだオープン入り後は勝ち鞍がないものの、2021年の目黒記念で2着に、2022年の日経賞で3着に、同じく2022年の天皇賞(春)で4着に食い込むなど、重賞戦線で健闘が続いています。前走の七夕賞でも2着は確保しましたし、単勝1番人気に推される可能性すらありそうです。
伊吹 これまでにも何度か同様の指摘をしてきましたが、Aiエスケープが実績上位の馬を指名してきたということは、魅力的な伏兵が見当たらないということなのでしょう。こういうレースは得てして堅く収まりがち。好走馬の傾向からも大きく外れていないようであれば、素直に信頼して良いのかもしれません。
M なるほど。ならば、まずはどのあたりのファクターからチェックしていくべきでしょうか?
伊吹 キャリアと臨戦過程ですね。出走数が13戦以内だった馬は2016年以降[4-3-2-18](3着内率33.3%)と非常に堅実。一方、出走数が14戦以上だったにもかかわらず3着以内となった9頭のうち8頭は、前走の距離が2000m、かつ前走の出走頭数が13頭以上でした。
M これはわかりやすい。キャリアにも臨戦過程にも不安がある馬は強調できませんね。
伊吹 まだ底を見せていない新興勢力でなければ、2000m以外のレースや少頭数のレースを経由してきた馬は思い切って評価を下げるべきでしょう。
M ヒートオンビートはキャリア20戦ですが、前走の七夕賞は16頭立ての2000m戦。最初のハードルはしっかりとクリアしています。
伊吹 あとは前走の末脚も見逃せないポイント。2016年以降の3着以内馬18頭中15頭は、前走の上がり3ハロンタイム順位が5位以内でした。
M 新潟芝2000m外が舞台となるだけに、先行力の高さを活かしたいタイプは割り引きが必要ですね。
伊吹 おっしゃる通り。もちろん、大敗直後の馬もあまり高く評価できません。
M ヒートオンビートは前走の上がり3ハロンタイム順位が1位。これまでの戦績からも、コース替わりはプラスに働くと見て良いのではないでしょうか。
伊吹 また、同じく2016年以降の過去6年に限ると、馬格がない馬も苦戦しています。
M 前走の馬体重が470kg未満だった馬は連対なし。大型馬である必要はないかもしれませんが、前走の馬体重が470kgを割っているような馬は過信禁物と見ておきたいところです。
伊吹 ヒートオンビートは前走の馬体重が476kg。これくらいの馬格なら減点する必要はないでしょう。
M 上位人気馬ではあるものの、今週はAiエスケープと伊吹さんの見解が一致しました。
伊吹 心強いですね。今年は他にも有力と見て良さそうな実績馬がいますし、極端な高額配当が飛び出す可能性はそれほど高くないと思います。Aiエスケープや私の見立てを重視するならば、少ない点数でそこそこの配当を狙っていくべきでしょう。