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喋るだけで書ける時代!?

  • 2022年09月08日(木) 12時00分
「エピジェネティクス」→「ビジネステック」
「馴致」→「順次」
「繁殖牝馬」→「繁殖頻繁」
「フィエールマン」→「フィルパン」
「オードリー・ヘプバーン」→「あのー踊りヘップ絆」
「種馬」→「垂れ馬」
「競走馬」→「教祖母」「今日相場」「今日とば」
「突き抜ける可能性」→「好きじゃ可能性」

 何のこっちゃと思われただろうが、私が実際にしゃべった言葉と、文字起こし機能付きのICレコーダーによる表示の対比である。

 先日、美浦トレセンに行ったときのことだった。取材に同行していた編集者が、ちょっと見たことのない、未来的なデザインのICレコーダーを机に置いた。

「そのレコーダー、カッコいいね」

「はい、これは文字起こし機能付きで、ネットにつながなくてもこのレコーダーのなかで文字に変換してくれるんです」

 私は、ネットにつなぐタイプのものも含め、文字起こし機能のあるICレコーダーが存在することを知らなかったので、驚いた。

 ウインドウズ7の時代に、パソコンにつないだマイクに向かって発した音声をテキストにするソフトを使っていたことはあった。が、マイクに口を近づけ、ゆっくり喋っても誤変換が多いし、ウインドウズ7よりあとのOSでは使えず、後継版も出なかったので、ちょっと遊びで使っただけで捨ててしまった。

 あれから15年ほど経った。テーブルで向かい合って普通に話す複数の人間の言葉を録音しながら、私が使っていたソフト以上の精度で文字にしてしまうICレコーダーが数万円で入手できるようになったのだから、すごい世の中になったものだ。

 と、ため息をついたところで、あらためて冒頭の変換例を見ると、「繁殖頻繁」や「垂れ馬」なんかはウケ狙いじゃないかと思うほど面白い。

 ここ数年、仕事全体において、小説やエッセイの占める割合が高まり、ICレコーダーを使ってインタビューする機会は少なくなってきたのだが、私は、新しいモノや高機能なモノにものすごく弱い。

 その編集者に、取材時の文字起こしをメールで送ってもらって読んでみたら、ほしくてたまらなくなった。

 誤変換が多くても、聞こえたとおりに文字化されているので、その場にいた人間なら簡単に修正できる。今使っているICレコーダーは去年買ったばかりだし、ほかにもデータが一杯になっただけで使えるものが3台ほどあるのだが、機種名を教えてもらい、同じものをネットで注文してしまった。

 今気づいたのだが、それが届けば、前に使っていたソフト同様、キーボードを打たなくても、そこに向かって喋れば、ある程度の原稿を作成できるわけか。恥ずかしいことに、私は、キーボード入力で文章を書くようになってから30年以上になるのに、いまだにブラインドタッチができない。

 だから、暗いところで書かなければならないとき――例えば、有馬記念のレースレポートを、引退式などが終わったあとに駐車場の車内で書かなければならないとき(その季節は日が短いのです)などは、大変なのだ。

 キーボードのバックライトが私にとっては曲者で、「親指シフト」という、普通の並びとは違う入力法を用いているためキーにシールを貼っており、ライトがそれらを下から照らして見えなくしてしまい、訳がわからなくなってしまうのである。

 親指シフトキーボードの製造と発売が中止になったため、いつかは手書きに戻さなければならないと思っていたのだが、喋って書けるのなら、助かる。

 喋る、ということに関して、先日、相馬野馬追小高郷副軍師の本田博信さんが、福島民報の告知記事をメッセンジャーで送ってくれた。

 リモートで喋って録画した私の講演が流される高校がそこに記されている。福島県石川町の県立石川高校と、伊達市の聖光学院高校である。

 収録日の前日、聖光学院が甲子園でベスト4入りを果たしていたので、福島民報の人たちは号外での対応に追われるなど忙しそうだったが、とても嬉しそうだった。

 私はもともと、甲子園などは北の学校から順に応援しているのだが、今回はずっと聖光学院を応援していた。準決勝で負けてしまったが、見事に戦い抜いた。

 5年後や10年後、私の話を覚えていてくれる人がひとりでもいてくれたら、とても嬉しい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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