先日、世界最大級の馬の祭「相馬野馬追」の関係者に会うため、福島県南相馬市に行ってきた。
南相馬市役所で相馬野馬追執行委員会の人たちから聞いたところによると、南相馬市議会でも、この地域で繋養されている元競走馬について取り上げられたという。「馬の街」でも、競走馬のセカンドキャリアについて、さらに関心が高まっているようだ。
執行委員会の人が、騎馬武者のシルエットと「そうまのまおい」という文字でデザインされた名刺入れを使っていた。畳の縁でつくられたもので、本来は名刺入れというわけではなく、小物や小銭を入れるためのものらしい。
とても可愛らしいし、洒落ている。素材からして摩擦にも強く、丈夫そうだ。これを競馬場やウインズのターフィーショップで販売したら、喜ばれるのではないか。今、飼料代が高くなって、相双地区で馬を飼育している人の負担が大きくなっている。これにプレミアをつけて、収益の一部を野馬追に出る馬の資料代に回せるようにしてはどうだろう。
今思いついたことなので、誰にも話していないし、実現できるかどうかもわからないが、競馬ファンにとっても、野馬追の騎馬武者にとってもいいことだと思う。
今年の相馬野馬追に初めて出陣して話題になったブラックホール(5歳、父ゴールドシップ)にも会ってきた。
繋養している北郷軍者の濱名邦弘さんのお宅の庭に、厩舎と洗い場、サンシャインパドックと運動場がある。であるから、「庭」といってもかなり広い。
そのパドックに、ブラックホールはいた。柵で隔てた隣には、大井で走った芦毛のモンテドラゴーネ(7歳、父モンテロッソ)がいる。
私たちに気づくと、ブラックホールはモンテドラゴーネと並び、耳をピンと立ててこちらを見ていた。白いモンテドラゴーネと黒いブラックホールが仲よく並んでいるのを見るだけで頬が緩む。
ブラックホールは目をキラキラさせ、ひととおり私たちを観察したら、柵の際に生えている草に口元を寄せる。
そんなブラックホールばかり見て私たちが話していると、ヤキモチを焼いたのか、モンテドラゴーネがブラックホールを鼻先で突つきに来た。
ブラックホールは「何するんだよ」という感じで軽く反撃し、また自分の陣地で、こちらを見るともなく見ている。
私たちが移動すると、ブラックホールは、この敷地をどんなふうに使っているかなどを説明してくれる濱名さんの動きを目で追っていた。また、濱名さんの声と私たちの声に対する反応も明らかに違う。自分にとって誰が重要なのかを理解していると同時に、濱名さんのことが好きなのだろう。
とても大切にされていることがわかり、嬉しくなった。
先週の土曜日、ブラックホールの半妹のライラックが紫苑ステークスで3着になり、秋華賞への優先出走権を獲得した。ブラックホールはクラシック三冠に皆勤し、コントレイルの9、7、5着だった。ライラックも桜花賞16着、オークス11着と牝馬クラシックを走り切った。順調なら牝馬三冠にも皆勤になりそうで、兄のときと同じく三冠を獲りそうなスターズオンアースが出てくるという巡り合わせも面白い。
前哨戦といえば、凱旋門賞に出走を予定しているドウデュースが、ニエル賞で4着に敗れた。道中は何度もノメり、直線に入っても手前を替えず、右手前のまま走っての結果だった。休み明けだったし、現地入りして間がなく、しかも海外初戦。そうした悪条件のなか、直線で一瞬、突き抜けるかに見せたところは、さすがダービー馬である。
どんな課題があるのかを浮き彫りにできたわけだから、試走としては十分だろう。
武豊騎手は、トライアルを次に生かすことにかけても名手中の名手だ。
斤量面で有利なことは変わりない。本番での巻き返しに期待したい。
さて、今週の土曜日、9月17日の朝5時27分から6時5分まで、NHK BSプレミアムで「よみがえる新日本紀行『サラブレッド高原~北海道・日高~』」がオンエアされる。番組の公式サイトにカツラノハイセイコを送り出した牧場と記されていることからわかるように、今年のダービーに生産馬を出走させた鮫川啓一牧場を取材した映像も見られる。こちらも楽しみである。