単勝20.3倍のジャンダルムが勝利(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
まずは上位人気グループの馬に注目した方が良さそう
AIマスターM(以下、M) 先週はスプリンターズSが行われ、単勝オッズ20.3倍(8番人気)のジャンダルムが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いのではないでしょうか。素晴らしいスタートを切った後、内のテイエムスパーダ(15着)や外のファストフォース(10着)を先に行かせて、単独3番手のポジションを確保。4コーナーを周り切ったところで早々と先頭に立ち、残り200m地点のあたりでは完全に後続を突き放して、そのままウインマーベル(2着)らの追撃を退けています。手綱を取った荻野極騎手にとっても、概ね思い描いていた通りのレース展開だったはず。人馬の潜在能力が存分に発揮された、気持ちの良い競馬でした。
M 比較的内寄りのコースを通ってきた人気薄の各馬が上位を占めた一方、4コーナーで馬群の外めを周ったナムラクレア(5着)、メイケイエール(14着)あたりは人気を裏切る結果に。馬場や枠順の影響も大きかったのではないでしょうか。
伊吹 おっしゃる通りですね。今回と異なる馬場や枠順でもう一度レースをしたら、まったく違った結果になるかもしれません。ただ、世間の予想を大きく裏切るような展開ではなかったわけですし、一歩及ばなかったナランフレグ(3着)やダイアトニック(4着)を含め、1〜5着の5頭はいずれも今年に入ってから重賞を勝っている実績馬。結果的に高額配当が飛び出したものの、この決着がまったくの想定外だったという方はそれほど多くないと思います。個人的にも「なぜ私はこちらの目を選べなかったのか……」と考え込んでしまうような、悔しい一戦になってしまいました。
M ジャンダルムは7歳の秋にしてGI初制覇。母のBelieve(ビリーヴ)は2002年のスプリンターズSと2003年の高松宮記念を制している往年の名スプリンターです。
伊吹 個人的には、ラストランとなった2003年のスプリンターズSも印象に残っています。惜しくもデュランダルの末脚に屈したとはいえ、チャンピオンホースらしい堂々たる横綱相撲を見せてくれましたからね。ジャンダルムはデビュー前から種牡馬入りを期待されていたと思いますし、今回は陣営にとっても大きな勝利だったのではないでしょうか。ポテンシャルの高さは折り紙付きですから、またどこかで大仕事をやってのけるかもしれません。
M 今週の日曜東京メインレースは、下半期の大舞台を見据えたトップホースが集う毎日王冠。昨年は単勝オッズ2.6倍(1番人気)のシュネルマイスターが優勝を果たしました。ちなみに、その2021年は単勝オッズ2.7倍(2番人気)のダノンキングリーが2着、単勝オッズ8.7倍(4番人気)のポタジェが3着となったこともあって、3連単の配当が2820円にとどまっています。
伊吹 2020年が3連単3430円、2019年も3連単1000円と、近年は極端に堅い決着ばかりですね。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、人気薄の馬が上位に食い込んだ例はそれほど多くありません。
M 単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となった馬は6頭だけ。基本的には上位人気馬が強いレースと言って良いのではないでしょうか。
伊吹 ちなみに、単勝2〜5番人気の馬は2012年以降[2-7-6-25](3着内率37.5%)、単勝6〜12番人気の馬は2012年以降[1-3-4-58](3着内率12.1%)、単勝13番人気以下の馬は2012年以降[0-0-0-10](3着内率0.0%)となっていました。わざわざ予想を本命サイドに寄せる必要はありませんが、ある程度は人気なりに評価していくべきなのだろうと思います。
M そんな毎日王冠でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ポタジェです。
伊吹 話の流れを考えると、ちょうど手頃なところかもしれませんね。少なくとも、人気薄と言えるようなオッズにはならないはず。
M ポタジェは今春の大阪杯を制しているGIウイナー。先程も名前が出たように、2021年の毎日王冠では3着に食い込みました。人気の中心となるかは微妙なところですが、相応の支持は集まるでしょう。
伊吹 少頭数だけに、このあたりの馬をどう評価するかが買い目作りのポイントになりそうですね。Aiエスケープの注目馬である点を踏まえたうえで、今回も好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを見比べていきたいと思います。
M まずチェックしておくべきポイントはどのあたりでしょうか?
伊吹 コース適性ですね。過去9年の3着以内馬27頭中25頭は、前年か同年に東京、かつ1マイル以上、かつ2勝クラス以上のレースで連対したことのある馬でした。
M これはわかりやすい。東京のレースにこれといった実績がない馬はほとんど上位に食い込めていません。
伊吹 今年は判断の難しい馬も何頭かいるのですが、少なくとも、東京のレースを積極的に使ってこなかった馬は思い切って評価を下げるべきでしょう。
M ポタジェは2021年の白富士Sを勝っている馬。強調材料のひとつと見て良さそうです。
伊吹 あとは年明け以降の戦績も重要。同年のGIやGIIで上位に食い込んでいない馬は、やや安定感を欠いていました。
M 格の高いレースを主戦場としてきた馬が中心、と。
伊吹 一応付け加えておくと“同年、かつJRA、かつ1600〜2200m、かつGI・GIIのレース”において5着以内となった経験がない、かつ出走数が14戦以内の馬は2013年以降[2-0-4-17]で、3着内率が26.1%。この条件に引っ掛かっていても、キャリアが浅い馬であればあまり心配しなくて良いのかもしれません。ただ、実績馬が強いのは事実ですし、人気なども踏まえたうえで注意深く扱うべきだと思います。
M 実績不足の新興勢力が注目を集めてしまうようならば、まさにポタジェのようなタイプを狙った方が良さそうです。
伊吹 私も基本的にはそう考えているのですが、ポタジェは前走の宝塚記念で11着に敗れている点が気掛かり。2013年以降の3着以内馬27頭中26頭は、前走の着順が8着以内でした。
M 前走がGIだったことを考えると、あまり気にしなくて良いような気もしますが……。
伊吹 残念ながら、ビッグレースからの直行組に限っても、大敗直後の馬は期待を裏切りがちです。ここに目を瞑るかどうかが最大の焦点かもしれませんね。
M なるほど。強調材料は複数あるが、不安要素もないわけではない――といったところでしょうか。
伊吹 少なくとも、私はそう認識しています。ただ、今年はこれらの条件を綺麗にクリアしている馬がいませんし、Aiエスケープの評価も考えると、ポタジェは本当に悩ましい存在。連軸候補の一頭として、もう少しじっくりと買い目上の位置付けを考えたいです。