▲今回のクセ馬は菊花賞への出走を予定しているビーアストニッシド(撮影:小金井邦祥)
個性的な馬や携わる人々の思いを紹介する「クセ馬図鑑―愛すべき強者たち―」。クセ馬と聞くと、制御が利かないほどやんちゃな馬を想像する方も多いかと思いますが、今週の菊花賞に出走予定のビーアストニッシドもそんな1頭。しかし、それは身体能力が高いがゆえでもあるのでした。
やんちゃだけど憎めない同馬の調教を、デビュー前から担当したのは柴田未崎元騎手。今年6月に騎手を引退するまでその背中に跨り続け、現在は小原義之調教助手がバトンを受け取っています。インタビュー中の各写真の説明文には担当の佐々木良樹調教助手とのエピソードが盛りだくさん。菊花賞に臨む1頭と3人の思いに迫ります。
(取材・構成=大恵陽子)
柴田未崎元騎手の証言「やんちゃ坊主で、背中がすごくいい!」
──柴田未崎調教助手は今年6月末に引退するまで、騎手として飯田雄三厩舎に所属していました。その厩舎にいたのがビーアストニッシド。デビュー前から(日本ダービーまで)調教に乗っていましたが、第一印象は?
柴田 バネがとてもあって、背中はすごくいいと思いました。けど、もう「やんちゃ坊主」って感じで(苦笑)。急にグルグルと回ってみたり、嫌だと思ったら動かなくなったり、走りながら跳ねたり、と毎回違うことをやるから油断できませんでした。
▲騎手時代にビーアストニッシドの調教を担当していた柴田未崎調教助手。今年6月末に引退し、助手に転向しました。(撮影:大恵陽子)
──技のオンパレードですね(苦笑)。
柴田 賢いといえば賢いですよね。普通はキャンター(駈歩)をしながら跳ねると、着地した時に躓いたりするんですけど、ビーアストニッシドは体が柔らかいからちゃんと着地できて安心していられました。バネは本当にいいモノを持っていると思います。
──そうなると、どのコースで調教をするかというのも難しそうです。
柴田 レースを使う毎にだんだん我を出すようになってきて、最初の頃はCウッドコースでも乗っていたんですけど、向正面で止まっちゃうようになったので、Eコース(一番外周のダート)で半周だけ乗って、それから坂路を1本上るのがパターンになりました。
皐月賞の最終追い切りでは和田竜二騎手に乗ってもらったんですけど、坂路で追い切る予定だったのが途中で止まって動かなくなってしまって、急遽ポリトラックコースに変更したこともありました。
──坂路モニターの前で待っていた記者たちが「ビーアストニッシドがいない!」と騒いでいた記憶があります(苦笑)。以前はコースを2周乗っていた時期もあったそうですね。
柴田 それでも息は全く乱れなかったので、距離はもつだろうなと思っていましたけど、なにせ100m走の選手のトレーニングしかできませんでした。やりたい調教がもっとできれば、さらにいいパフォーマンスができると思っていたのですが、僕が携わっている間はうまく調教ができないままでした。
──柴田助手が騎手時代、「どんなクセ馬を頼んでも快く乗ってくださる」という話を厩舎関係者から聞いたことがあります。