▲秋華賞でGI初制覇を果たした坂井瑠星騎手(撮影:大恵陽子)
秋華賞をスタニングローズで勝ち、GI初制覇を果たした坂井瑠星騎手。2020年にはダノンファラオでジャパンダートダービーJpnIを、今春はドバイでゴドルフィンマイルを勝つなど、25歳にして国内外で活躍する若手ホープが、新たなタイトルをまた一つ手に入れました。
しかし、ここに至るまでの道のりは平坦ではありませんでした。競馬学校時代は「史上最低の期」と言われ、武者修行に出たオーストラリアではレースに乗れない日々。それらを乗り越えて掴んだGI初制覇では一体どんな景色が見えたのでしょうか。スタニングローズと臨むエリザベス女王杯を前に伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
前もってカメラの位置は確認していました
──秋華賞おめでとうございます!
坂井 ありがとうございます。
──スタニングローズには今年はじめにこぶし賞で一度騎乗していましたが、当時の印象は?
坂井 ちょっと牝馬らしい力んだりするところもありましたけど、それでも勝ちきってくれて能力は感じていました。
▲今年2月のこぶし賞で初騎乗し勝利(c)netkeiba.com
──その後、同馬はフラワーCを勝ちオークス2着。秋初戦の紫苑Sで久しぶりに手綱をとることとなりましたが、何か変化は感じましたか?
坂井 明らかに変わっていました。体も増えていましたし、一番は精神的にどっしりしたと感じました。紫苑Sはこぶし賞と同じようなシチュエーションで、前に壁がない3番手外でしたが、全然力むことがなくて、成長を感じました。それはGIを経験したこともあるでしょうし、厩舎サイドや牧場関係者が工夫してくださったおかげと、馬の成長力だと思います。
──外枠で壁を作れなくても折り合えたとなると、秋華賞へ期待も膨らみますね。
坂井 秋華賞に向けてそこを確認できたのもよかったです。
▲紫苑Sでは成長を感じたという(撮影:下野雄規)
──秋華賞では人気馬の1頭で、週中は共同会見にも臨まれました。どんな気持ちで週末を迎えたんですか?
坂井 前哨戦を勝ち、共同会見に出席してのGIということで、すごくワクワクしていました。
──レースは人気馬たちが後ろにいましたが、いつ来るか気になりましたか?
坂井 来るだろうとは思っていたので、特に気にはしていなかったです。
──その言葉通り、半馬身差までナミュールが差してはきましたが、着差以上に強い印象を受ける勝利でした。ゴール後のガッツポーズ、めちゃくちゃカッコよかったです。
坂井 いや(笑)。もっとカッコよくやりたかったんですけど、最高に嬉しくてちょっと興奮気味でした。カメラの位置だけは前もって確認していました。
──お父様の坂井英光調教師が騎手をしていた大井競馬場でジャパンダートダービーJpnIは勝っていましたが、JRAでGIを勝つというのはいかがでしたか?
坂井 ジョッキーになったからにはGIを勝ちたいと思っていて、ずっと夢でした。春にドバイで勝たせてもらった時に「夢が叶いました」と言ったんですけど、また同じような気持ちです。
──ファンからの声はどうでした?
坂井 勝って引き上げてきた時は、ホント全員が「おめでとう!」と言ってくれているような感じで、嬉しかったです。あれは想像以上で、勝った人にしか味わえないものでした。
▲勝った人にしか味わえない喜び(c)netkeiba.com
──2週前には同期の荻野極騎手もスプリンターズSでGI初制覇を果たしていました。お互いにどんな言葉をかけ合ったんですか?
坂井 スプリンターズSの日はフランスに行っていたので会えなかったですけど、「おめでとう」という連絡をしました。僕が勝った時も彼から電話がありました。
競馬学校生時代には「今までで史上最低の期だ」と言われていたので、ちょっとは見返すことができたかなと思います。
「もうあんな経験したくない」追い詰められた武者修行で得たもの
──デビューした頃と比べて急激に顔つきが変わっているように感じるのですが、坂井騎手の中で変わるきっかけとなった大きな出来事は何でしょうか?
坂井 やっぱりオーストラリアに1年間行かせてもらったことです。そこでの経験は「もうこんなにしんどいことはないだろうな」というほどで、大きかったです。
──オーストラリアでは途中で拠点を移したことも大きな決断だったと思います。
坂井 最初にいたメルボルンでは言葉の壁もありましたし、競馬に乗れませんでした。「死ぬ気で頑張ろう」という気持ちでやって、半年ほど経ってようやくアデレードで競馬に乗れそうな雰囲気になってきて、専属契約のオファーをいただき、そこからポンポンと勝つことができました。
──競馬学校時代やデビューしてからも死ぬ気で頑張っていたとは思いますけど、それ以上の過酷さがあったんですね。
坂井 日本では環境が良すぎて、本気で頑張ろうとはなかなか思えないな、ということに海外に出てみて感じました。もうあんな経験はしたくないですけど、あの時に行かせていただいて矢作先生をはじめ周りの方に感謝したいです。
▲その後も積極的に海外で騎乗(撮影:高橋正和)
──さて、スタニングローズとはGI・エリザベス女王杯に臨みます。距離は200m延びますが、再び阪神の内回りコースですね。
坂井 全く心配していないです。オークスでも2着にこられていますし、2000mも全く問題ありませんでした。
──古馬との対決は初めてです。
坂井 相手関係は明らかに強くなると思うので、そこがポイントだと思います。GIを勝った馬とまたGIに臨めるのは初めての経験ですから、楽しみです。勝っても乗り替わりがあり得る時代において、また続けて乗せていただけることはありがたいです。
▲スタニングローズとエリザベス女王杯へ(撮影:下野雄規)
──最後にファンへメッセージをお願いしいます。
坂井 秋華賞を勝たせていただいたスタニングローズとまたGIに行けるということで、僕自身もすごく楽しみにしています。古馬相手でメンバーも強くなりますけど、なんとかいい結果出せるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。
(文中敬称略)