単勝オッズ9.2倍(6番人気)のセリフォスが優勝(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
2017年以降は3連単の配当が2万円を超えていない
AIマスターM(以下、M) 先週はマイルCSが行われ、単勝オッズ9.2倍(6番人気)のセリフォスが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いのではないでしょうか。スタート直後の先行争いには参加せず、3コーナーを14番手で、4コーナーを13番手で通過。ゴール前の直線で大外に持ち出し、並ぶ間もなく先行勢を差し切っています。上がり3ハロンタイムは33秒0で、当然ながら出走メンバー中トップ。2位のジャスティンカフェ(6着)が33秒2、3位タイのダノンザキッド(2着)とシュネルマイスター(5着)が33秒5でしたから、なかなかインパクトのある数字です。道中のレース運びもスマートでしたし、陣営や鞍上のD.レーン騎手としても会心の勝利だったに違いありません。
M セリフォスはGI初制覇。朝日杯FS(2着)やNHKマイルC(4着)で単勝1番人気の支持を集めていたように、もともと現3歳世代を代表するトップマイラーと認識されていましたが、ようやくその評価に相応しいタイトルを獲得しました。
伊吹 前回の当コラムで紹介した好走馬の傾向にも合致しており、私は最終的に重いシルシを打ったのですが、単勝だけでなく連勝式の合成オッズも上位5頭にやや離された6番手どまり。狙っていた側の人間としてはありがたかったものの、さすがに過小評価だったのではないでしょうか。前走の富士S(1着)があまりにも鮮やかな勝ちっぷりだった分、上積みは期待できないと見てしまった方が多かったのかも。ただ、この馬自身は休養明けのレースでも休養明け2戦目のレースでもさほど変わらないパフォーマンスを見せてきたわけですから、結果論ではなく心配され過ぎだったように思います。
M 混戦模様だった中に現れた3歳のチャンピオンということもあって、今後はこの路線の主役として注目を集めることになりそうです。
伊吹 ただ、今年のNHKマイルCと安田記念で4着に敗れている分、来春の安田記念や京都芝1600m外に戻る来秋のマイルCSでは、適性面を不安視されるかもしれません。妙味ある場面で変に疑ってしまわないよう、次走以降もしっかり向き合っていきましょう。
M 今週の日曜東京メインレースは、国内外のトップホースが一堂に会する芝中長距離路線の最強馬決定戦、ジャパンC。昨年は単勝オッズ1.6倍(1番人気)のコントレイルが優勝を果たしました。ちなみに、その2021年は3連単1780円、アーモンドアイが制した2020年も3連単1340円。近年は堅い決着が続いています。
伊吹 ここ5年連続で3連単の配当が2万円を下回っていますし、そういうレースだと割り切ったうえで臨んだ方が良さそうですね。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、人気薄の馬はほとんど上位に食い込めていません。
M 単勝7番人気以下で馬券に絡んだ馬は3頭だけ。極端に前評判の低い馬は、扱いに注意するべきでしょうね。
伊吹 より細かく見ていくと、単勝4〜7番人気の馬は2012年以降[3-5-2-30](3着内率25.0%)、単勝8番人気以下の馬は2012年以降[0-0-1-95](3着内率1.0%)でした。人気薄の馬を狙うとしても、上位人気馬との組み合わせは無難に押さえておくべきだと思います。
M そんなジャパンCでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、テーオーロイヤルです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。上位人気グループの一角を占める可能性は低いでしょうし、単勝9番人気以下にとどまる可能性もありそう。
M テーオーロイヤルは今年のダイヤモンドSを勝っている馬。天皇賞(春)でも3着に食い込みましたが、2走前のオールカマーで5着に、前走のアルゼンチン共和国杯で6着に敗れている分、今回は人気が落ちるのではないでしょうか。
伊吹 単勝人気順別成績の傾向を見る限りだとちょっと心配ですが、ポテンシャルの高さは証明済みですし、適したレースならばGIでも十分に通用するはず。Aiエスケープの注目馬である点を踏まえたうえで、私は好走馬の傾向から、この馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 最大のポイントはどのあたりですか?
伊吹 近走成績でしょうね。2012年以降の3着以内馬30頭中26頭は“同年4月以降、かつJRA、かつGI・GIIのレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M しばらく馬券に絡めていない馬はもちろん、国外のレースやGIII・オープン特別のレースを主戦場としてきた馬も強調できませんね。
伊吹 おっしゃる通り。なお、2017年以降の過去5年に限ると“同年4月以降、かつJRA、かつ出走頭数が12頭以上、かつGI・GIIのレース”において3着以内となった経験がない馬は[0-0-1-44](3着内率2.2%)です。
M テーオーロイヤルは18頭立てだった今年5月の天皇賞(春)で3着に好走。どちらの条件もクリアしています。
伊吹 あとはコース適性も素直に評価した方が良さそう。2017年以降の3着以内馬15頭中14頭は“前年以降、かつ東京、かつGIのレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M これは凄い。好走率にここまで圧倒的な差があるとは……。
伊吹 2021年2着のオーソリティはこの条件こそクリアしていなかったものの、このレースまでに東京のGIIを3勝していた馬。今年は2021年以降に東京のGIで好走している馬があまりいませんし、2020年以前やGII・GIIIのレースにおける実績もある程度は考慮するべきでしょう。
M テーオーロイヤルはこれまでに東京のレースを3戦していて、2021年青葉賞が4着、2022年ダイヤモンドSが1着、2022年アルゼンチン共和国杯が6着という結果。強調材料とするべきかどうかは微妙なところですが、まったく東京実績がないわけではありません。
伊吹 今年のメンバー構成なら、ある程度は高く評価して良いと思いますよ。もともと私はシルシを回すつもりでしたし、人気も今のところだいたい想定通り。あとは枠順がどうかだけです。
M こちらもなかなか衝撃的な数字。外寄りの枠に入ってしまった馬は、思い切って評価を下げるべきでしょうね。
伊吹 当日の馬場がどんなコンディションかにもよるとはいえ、よほど外枠有利な状況となっていない限り、内寄りの枠に入った馬を重視するべきだと思います。
M 何とも言えない部分はありますが、レースの傾向からも無視できない一頭という印象を受けました。
伊吹 Aiエスケープが高く評価しているうえ、穴人気してしまいそうな雰囲気もありませんから、個人的にはとても楽しみです。首尾良く好枠を引けたら、買い目の上でも相応に扱うべきでしょう。