▲「スタート論」後編(撮影:福井麻衣子)
競馬において最も危険であり重要なスタートを決めるために、ジョッキーはあらゆる方法で手を尽くしていることが前編で語られました。後編では10月の毎日王冠で起きたアクシデントを例に、ゲート内での過ごし方から、二の脚のつけ方を解説します。
前編で紹介したゲートを嫌がる馬に限らず、おとなしい馬であってもゲートを待つ時間は苦痛であり悪さをし始めることもあるとのこと。そんなゲートの中でのポイントは「馬の動きを止めない」ことだと言います。
(取材・構成=不破由妃子)
「これはヤバイ!」毎日王冠レイパパレの例
前回に続き、スタートについてのお話です。
最後の馬がゲートに入ってから前扉が開くまでの時間は、よほどのトラブルがない限り、ほんのわずかです。でも、そのわずかな時間に、いいバランスでいいスタートを切るために、僕たちジョッキーはいろいろな策を施しています。その内容は人それぞれで、スタートに対する考え方や馬の動きに対する考え方など、そのジョッキーが何を重視しているかが反映される時間かもしれません。
僕は、ゲートに入ったら、まず馬の首筋を撫でます。狭い空間に入っていくのはストレスが掛かることですから、まずはちゃんと入ったことを褒めてあげる。まさにレースが始まろうとしている瞬間なので、馬の気持ちも高ぶっていますから、落ち書かせるために、という意味合いも大きいです。
その後、ゲートのなかで待つ時間が始まるわけですが、僕が大事にしているのは、馬の気持ちをどう誤魔化しておくかということ。
▲馬の気持ちをどう誤魔化しておくか(ユーザー提供:クロージャーさん)
たとえば、おとなしい馬だったとしても、いつ開くかわからないゲートに真っ直ぐと対峙させていたら、集中力が切れる。その結果、悪さをし始めたり、逆にゲートが開いても出なかったりといったことにもつながります。
だから、「まだ出ないんだよ」「今は待つ時間だよ」ということを伝えるために、僕はうるさい馬であってもおとなしい馬であっても、気持ちを誤魔化すために顔を左右に振らせます。前扉に集中させるのではなく、顔を左右に向けさせ、足踏みをさせながらゲートが開くのを待ちます。
この足踏みというのは、ゴルファーを想像してもらうとわかりやすいと思うのですが、彼らも構えてから実際に打つまで、クラブを握り直したり足踏みをしたり、ちょこちょこと動いてますよね。あれは、自分が気持ちよく構えられて、気持ちよく動き出せる態勢を作っているわけですが、馬も一緒で、ジッとした状態から急に動き出すのはとても難しいんですよ。
競馬の場合、ゲートが開くタイミングこそ自分では決められないけれど