単勝オッズ7.9倍(3番人気)のジュンライトボルトが優勝(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
超人気薄の馬が波乱を演出したケースはあまり多くない
AIマスターM(以下、M) 先週はチャンピオンズCが行われ、単勝オッズ7.9倍(3番人気)のジュンライトボルトが優勝を果たしました。
伊吹 ジュンライトボルト自身だけでなく、オーナーの河合純二氏や鞍上の石川裕紀人騎手にとってもGI初制覇。祝勝会の様子を想像するだけで楽しい気分になってしまうような、観ているこちら側としても非常に感慨深いレース結果ですね。
ジュンライトボルトは好スタートを決めたものの、無理に先手を主張することなく、1コーナーを9番手で、4コーナーを10番手で通過。ずっと馬群の中を追走していたうえ、ゴール前の直線に入っても前や左右をライバルに囲まれていましたから、陣営やこの馬から馬券を買っていた方はやきもきし通しだったのではないでしょうか。
しかし、残り200mの地点を過ぎたあたりでテーオーケインズ(4着)の外に持ち出してからは、溜まりに溜まった末脚が一気に炸裂。先行勢を並ぶ間もなく差し切っています。直近の3戦すべてでタッグを組み、この馬の特徴を完璧に把握していた石川裕紀人騎手でなければ、中途半端な位置取りや仕掛けで自滅してしまっていたかもしれません。
M ジュンライトボルトはこれで3連勝。初ダートだった4走前のジュライSこそ2着どまりだったものの、その後は少しずつ相手関係が強化されたにもかかわらず完勝続きです。
伊吹 そのジュライSは約8か月の休養明けでもありましたからね。1歳時のセレクトセールで1億2960万円の値が付いたうえ、半兄のグルーヴィットは2019年中京記念の勝ち馬。ジュンライトボルト自身も3歳時の橘Sで2着に食い込んでいますし、なかなか条件クラスを勝ち上がることができなかった時期は陣営としてももどかしかったことでしょう。
ただ、この3連勝で一気に国内ダート路線の頂点まで上り詰め、もともと持っていたポテンシャルの高さをしっかり証明したわけですから、次走以降が本当に楽しみ。地方のダートグレード競走に対する適性など、まだ何とも言えない部分はいくつかありますが、今後も今回のパフォーマンスに敬意を表したうえで買い目上の扱いを検討していこうと思います。
M ちなみに、前回の当コラムでAiエスケープが注目馬に挙げたクラウンプライドは、ジュンライトボルトとクビ差の2着。単勝オッズ14.3倍の4番人気にとどまっていましたし、健闘と言って良いかもしれません。
伊吹 私も最終的に重いシルシを打ちましたが、期待通りの走りを見せてくれましたね。道中は終始2番手を追走し、残り400mの地点で先頭に立って、そのまま押し切ろうかという横綱相撲。勝ったジュンライトボルトと同等に評価して良さそうです。まだ3歳ですし、しばらくは主役級の一頭としてこの路線を盛り上げてくれるでしょう。
M 今週の日曜阪神メインレースは、2歳牝馬チャンピオン決定戦の阪神JF。昨年は単勝オッズ5.6倍(3番人気)のサークルオブライフが優勝を果たしました。その2021年は3連単11万4300円の好配当決着だったものの、どちらかと言えば堅く収まりがちな印象があります。
伊吹 2013年から2020年までの計8回はいずれも3連単の配当が10万円未満。さらに言うと、そのうち7回は5万円未満、4回は2万円未満です。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、単勝7番人気以下で馬券に絡んだ馬は5頭しかいません。
M 単勝1番人気馬の信頼度は微妙なところですが、全体的に見れば上位人気グループの馬が優勢と言って良いのではないでしょうか。
伊吹 ちなみに、3連単304万7070円の高額配当が飛び出した2012年を除くと、単勝7番人気以下の馬は[0-2-1-103](3着内率2.8%)でした。超人気薄の馬を狙う場合も、上位人気馬との組み合わせを本線にした方が良いと思います。
M そんな阪神JFでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、マラキナイアです。
伊吹 思い切ったところを挙げてきましたね。現在のところ抽選対象ですが、出走できたとしても上位人気にはならないはず。
M マラキナイアは前走のアルテミスSで勝ったラヴェルから0.3秒差の5着に健闘。前走がデビュー2戦目で、なおかつ休養明けだったことを考えると、なかなか侮れない一頭かもしれません。ちなみに、次点は収得賞金1000万円で問題なく出走できそうなリバティアイランドです。
伊吹 リバティアイランドは単勝1番人気の支持を集める可能性もある馬。対照的な存在ではあるものの、マラキナイアが除外となってしまった場合に備え、両馬のプロフィールを好走馬の傾向と見比べていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと見ていますか?
伊吹 戦績の安定感ですね。過去10年の3着以内馬30頭中27頭は、一度も4着以下に敗れたことのない馬でした。
M これはわかりやすい。大きく崩れてしまったことのある馬は過信禁物と見るべきでしょうね。
伊吹 今年はこの条件に引っ掛かっている実績馬がいるので、扱いに注意するべきだと思います。
M ここまで2戦2連対のリバティアイランドは高く評価できますが、残念ながらマラキナイアの方は減点せざるを得ません。
伊吹 あとは関東圏のレースを主戦場としてきた馬が優勢である点も重要。2013年以降の過去9年に限ると“東京・中山、かつ1勝クラス以上のレース”において2着以内となった経験がある馬は堅実でした。
M 阪神競馬場が舞台であることを考えると、相当に興味深い傾向です。
伊吹 少々意外な気もしますが、この路線は東京や中山で施行される前哨戦の方がハイレベルなメンバー構成になりやすいのでしょう。ちなみに“東京・中山、かつ1勝クラス以上のレース”において2着以内となった経験がなかった馬のうち、“JRA、かつ重賞のレース”において“着順が3着以内、かつ上がり3ハロンタイム順位が4位以内”となった経験もなかった馬は2013年以降[0-1-0-93](3着内率1.1%)。実績ある差し馬でない限り、関西圏やローカル場のレースを主戦場としてきた馬は評価を下げるべきだと思います。
M マラキナイアはこちらの条件もクリアできていません。一方、前走のアルテミスSで2着を確保したリバティアイランドにとっては心強い傾向と言えそうです。
伊吹 マラキナイアについても強調材料を挙げておくと、出走数が1戦以内の馬は2013年以降[0-0-0-12](3着内率0.0%)、4戦以上の馬は2013年以降[0-1-0-48](3着内率2.0%)。キャリア2戦で臨むことになる点は高く評価して良いでしょう。また、距離適性の高さもアドバンテージのひとつだと思います。
M なるほど。1600m以上のレースを勝ち切ったことがない実績馬よりは、マラキナイアのような馬を狙った方が良いのかもしれませんね。
伊吹 なお“JRA、かつ1500m超のレース”において1着となった経験がなかった馬のうち、“JRA、かつ牝馬限定以外、かつ出走頭数が14頭以上、かつ重賞のレース”において3着以内となった経験もなかった馬は2013年以降[1-0-0-67](3着内率1.5%)でした。
M リバティアイランドの方はすべての条件を綺麗にクリアしています。
伊吹 Aiエスケープの優秀さを考えるとマラキナイアも楽しみですが、リバティアイランドは前走が着順以上に高く評価できる内容でしたし、素直に信頼して良いのではないでしょうか。不安要素の見当たらない馬はそれほど多くないので、私は絞った買い目で勝負するつもりです。