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名馬から名種牡馬へ! 父になったキタサンブラックの次なる夢

  • 2022年12月20日(火) 18時00分
第二のストーリー

社台スタリオンステーションで過ごすキタサンブラック(C)netkeiba.com


賢さと精神面の強さを持ち合わせたキタサンブラック


 2017年の有馬記念で有終の美を飾り、北海道安平町の社台スタリオンステーションで種牡馬入りしたキタサンブラック。競走馬時代、演歌の大御所・北島三郎さんがオーナーということでも話題になった。あれから5年の月日が流れ、今年の有馬記念にはキタサンブラックの初年度産駒・イクイノックスが出走し、親子制覇に期待がかかる。

 年が明ければ種牡馬生活も6年目。初年度から大物を送り出して存在感を増したキタサンブラックについて、社台スタリオンステーションの三輪圭祐さんに話を聞いた。

「デビュー自体は3歳でしたから、成長はゆっくりだったのかもしれません。とはいえ3歳の春にトライアルレースを勝っているくらいなので遅咲きではないのでしょうけど、その後の伸びしろが大きかったのだと思いますし、その成長途上で能力を出したというのも素晴らしいと思います」

 三輪さんは競走馬時代のキタサンブラックの印象をこう語り、さらに続けた。

「馬券圏内から外れたのが2回しかなかったように、常に高いレベルで走っていたというイメージです。王道のGIにほぼ顔を出して安定して活躍して、結果的に獲得賞金が歴代1位になりましたからね。出走が叶う状態であれば勝ち続けられるという上限値の高さが凄かったと思います」

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ラストランとなった2017年の有馬記念(撮影:下野雄規)


 三輪さんは、競馬場で競走馬時代のキタサンブラックを2度ほど直接目にする機会があったという。

「馬格があって見栄えのする立派な馬でしたね。当時からおおーっ!という雰囲気を持っていましたけど、スタリオンに実際に来て間近で見るとすごい迫力のある格好の良い馬だと思いました」

 キタサンブラックの父はブラックタイド。そのブラックタイドはディープインパクトの全兄にあたる。ディープインパクトは小柄だったのに対し、ブラックタイドはわりと大柄だった。キタサンブラックの馬格の良さは、ブラックタイドの血が反映されているようだ。

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 2018年の種牡馬展示会にて(撮影:田中哲実)


「現役時代管理されていた清水久詞調教師は、牝馬に対して強く反応することはあまりなく、いつも平常心と聞いていました。ところが、実際試験的に交配した時から牝馬に対して前向きで種牡馬らしい反応を見せていました」

 伝え聞いたような牝馬に対して大人しいというイメージではなく、最初から男馬らしい振る舞いをしたキタサンブラックの姿から、種牡馬としての資質の高さを感じたようだ。それは初年度シーズンにも存分に生かされた。

「良い発情がきている牝馬に対してなど、その時々に応じた反応ができる馬です。メリハリがあるといいますか、オンとオフがわかりやすい馬ですね。例えば休む時には休む、燃え上がる時には燃え上がるというようなオン、オフがしっかりできる馬は名種牡馬の条件の1つとして大事だと思います」

 普段も浮き沈みがあるタイプではなく、精神的にも安定している。

「メンタル面の上がり下がりが少ないことが、競走馬時代の連戦連勝だったり、どんな馬場状態でも安定して走れたことに繋がっていたのでしょう」 

 人間に対しても、それは同じだ。

「当然種牡馬なので勝ち気な面はありますけれど、その中でもわりと扱いやすい馬ですね。悪さをするというイメージもないですし、テンションの上がり下がりもないので、キャリアの浅い若いスタッフが引くなど良い練習にもなっています」

 安定した精神の持ち主ということもあるのだろう。人間に甘える、じゃれつくといった仕草もあまり見せない。

「例えば展示などで馬見せをする時も、ポーズを決めたまま周囲の様子を窺うくらいで、飽きて人にじゃれつくこともないですし、ずっとシャッターチャンスを作り続けてくれています」

 三輪さんが口にするエピソードから、キタサンブラックという馬は自分のするべきことを理解する賢さと精神面の強さを持ち合わせている。そう感じた。

種牡馬になっても、ファンの期待に応えられるように…


 オフシーズンの現在は、朝放牧に出て昼過ぎくらいに厩舎に戻ってくるが、その時々の状況に応じて引き運動をしたり、ロンジングを行うこともあるという。飼い葉もしっかりと食べ、良い意味で問題もなく毎日を過ごしている。イクイノックスが天皇賞(秋)を勝ち、有馬記念での走りにも注目が集まる中で、父は来季に向けてゆったりと英気を養っている。

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馬房でゆったり、英気を養い中…(C)netkeiba.com


「今のところ何の不安もないです。ただちょっと種牡馬としての人気がない時期があったのは寂しかったですね(笑)」

 2020年は92頭と種付頭数が100頭を切る年もあったが、初年度産駒の活躍もあり2022年は177頭と飛躍的に伸びた。

「受胎率も非常に良く、初年度産駒からイクイノックスのような活躍馬がいきなり出てきましたし、このレベルの産駒がたくさん現れるのを願っています。ファンも非常に多いですし、そういう意味でも注目度が高い馬なので、ずっと注目され続けられるように(スタリオン側として)うまく寄り添って頑張っていきたいと思いますね」

 そしてキタサンブラック自身がJRAの獲得賞金歴代1位を記録していることになぞらえて「ハードルはとても高いですけど、産駒の獲得賞金がJRAの種牡馬史上最高のような記録も達成できたらという思いもあります」と三輪さんは大きな夢を明かした。

「イクイノックスは既にたくさんの賞金を獲得しています。これを毎年重ねていけば、その記録もあり得るのかなと考えています」

 いよいよ今週末に迫った有馬記念。キタサンブラック産駒のイクイノックスは順調に調整が進められている。

「あの末脚は目を見張るものがあります。とはいえ、皐月賞では大外枠から当たり前のように割と前めの位置でレースを進めて、直線では早めに先頭に立つという競馬でも2着に入って、ブラックタイド、キタサンブラック的な走りができるところも見せてくれました」

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有馬記念でも大注目、初年度産駒のイクイノックス(撮影:下野雄規)


 東京スポーツ杯2歳S、日本ダービーは後方から、天皇賞(秋)は中団より後ろからの競馬で、いずれも32〜33秒台の上がりで伸びてきているように、どんな競馬でもできるのがイクイノックスの強みのようだ。

「先行もできて差し脚もあって、常に上がりが33秒前後で上がってくる。どこからでも勝てるわけですから、それが1番の魅力でしょうね。できれば有馬記念の親子制覇を成し遂げてほしいですね」

 初年度産駒でこの偉業を達成できれば、キタサンブラックの種牡馬の人気はさらに上昇するのは間違いない。三輪さんが語った産駒の獲得賞金がJRAの種牡馬史上最高という夢の実現も、夢では終わらない可能性も十分あるだろう。

当コラムの次回更新は2月予定です。

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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