単勝オッズ2.3倍(1番人気)のイクイノックスが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
堅い決着が続いている点は大前提として押さえておきたい
AIマスターM(以下、M) 先週は有馬記念が行われ、単勝オッズ2.3倍(1番人気)のイクイノックスが優勝を果たしました。
伊吹 最終的に本命を打った私が言うのも何ですけど、まさかここまで強い競馬を見せてくれるとは……。まずまずのスタートから先行する各馬の後ろにつけ、道中は9番手前後の外めを追走。3〜4コーナーに入るとほぼ馬なりでポジションを押し上げ、ゴール前の直線に入ったところで早くも逃げたタイトルホルダー(9着)や先に仕掛けたエフフォーリア(5着)らを捕らえています。残り200m地点の手前で完全に抜け出し、結局ボルドグフーシュ(2着)に2馬身半の差をつけて入線。こんなレースをされてしまったら、先行勢はもちろん後方待機勢もなす術がありません。少なくともこの日においては、状態面を含むイクイノックスの競走能力が頭ひとつ抜けていたということでしょう。
M イクイノックスは前走の天皇賞(秋)に続いてGI2連勝。上半期の皐月賞と日本ダービーはいずれも2着どまりでしたが、その鬱憤を晴らすかのようなパフォーマンスで古馬を一蹴しました。
伊吹 陣営の尽力やこの馬自身の成長力によってようやく“完成”したのだろうと思いますし、もっと単純に、現3歳世代のレベルが高い可能性もありそうですね。今回の有馬記念で2着に食い込んだボルドグフーシュも3歳馬。3コーナーの入り口ではまだ後方に構えていたものの、そこから大外を周って一気に進出し、2番手まで上がった後もしぶとく伸び続けて、ジェラルディーナ(3着)らの追撃を退けています。イクイノックスに異次元の競馬をされてしまったとはいえ、こちらも単体で見れば十分にインパクトのある内容。このうえ3歳牡馬クラシック競走を制したジオグリフ・ドウデュース・アスクビクターモアもいるわけですから、2023年の古馬中長距離戦線においては他の世代の有力馬よりもやや高く評価するべきでしょう。
M イクイノックス自身の今後も楽しみです。
伊吹 まず間違いなく来年の日本競馬界を盛り上げてくれると思うのですが、これだけの馬になると国内でその走りを観られるチャンスはもうそれほど多くなさそうで、そういう意味ではちょっと寂しい気もしますね。実際、陣営もレース後のコメントで海外遠征を示唆していましたし。国内のレースを使ってくれる場合も、今後は常に断然の注目を集めるでしょうから、壮行レースや凱旋レースでどう扱うかを今のうちにイメージしておきましょう。
M 今週の水曜中山メインレースは、2歳馬による中距離チャンピオン決定戦のホープフルS。
昨年は単勝オッズ3.1倍(2番人気)のキラーアビリティが優勝を果たしました。ラジオNIKKEI杯2歳Sを引き継ぐ形で重賞となったのが2014年、GIに昇格したのは2017年ですが、今のところは堅く収まりがちな印象です。
伊吹 2014年以降の過去8年まで集計対象を広げても、3連単の配当が10万円を超えたのは2014年のみ。その後は7回中4回が1万円未満の決着となっています。単勝人気順別成績を見ても、人気薄の馬はあまり上位に食い込めていません。
M 単勝4番人気以下の馬は優勝例がなく、好走率もかなり低め。上位人気馬が揃って崩れる可能性は高くないと見るべきでしょうね。
伊吹 より細かく見ていくと、単勝4番人気以内の馬は2014年以降[8-6-5-13](3着内率59.4%)、単勝5〜9番人気の馬は2014年以降[0-2-3-35](3着内率12.5%)、単勝10番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-44](3着内率0.0%)でした。超人気薄の馬を狙うにしても、相手本線には上位人気グループの馬たちを指名した方が良いのではないかと思います。
M そんなホープフルSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ハーツコンチェルトです。
伊吹 話の流れからすると面白い一頭と言えるのではないでしょうか。単勝1番人気に推されるかどうかは微妙なところですが、上位人気グループの一角を占めることになりそう。
M ハーツコンチェルトはキャリア2戦。前走の東京スポーツ杯2歳Sは3着どまりだったものの、上がり3ハロンタイム順位は1位でした。その前走で単勝オッズ1.9倍(1番人気)の支持を集めていたわけですし、引き続き注目している方は多いと思います。
伊吹 どちらかと言えば穴党のAiエスケープがこの馬を推してきたということは、裏を返せば妙味ある伏兵が見当たらないということなのかも。その見立てが正しければ、今年も堅い決着となる可能性が高そうですね。この見解を踏まえつつ、レースの傾向を見ていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと思いますか?
伊吹 ノーザンファーム生産馬と重賞ウイナーが強い点ですね。GIとなった2017年以降に限ると、生産者がノーザンファームの馬は[3-4-2-12](3着内率42.9%)。一方、生産者がノーザンファームでなかったにもかかわらず3着以内となった6頭のうち4頭は、“JRA、かつ重賞のレース”において“着順が1着、もしくは1位入線馬とのタイム差が0.0秒”となった経験のある馬でした。
M ここまで好走率に差があるとは……。どちらの条件もクリアしていない馬は強調できませんね。
伊吹 今年はノーザンファーム生産馬だけでも7頭いるわけですし、傾向が覆る可能性は低いと見るべきでしょう。
M ハーツコンチェルトはハシモトフアームの生産馬で、前走の東京スポーツ杯2歳Sは勝ち馬との差が0.2秒。残念ながら、この傾向は不安要素のひとつということになります。
伊吹 あとは、基本的に2勝以上馬が強いレースである点も見逃せません。
M なるほど。新馬・未勝利のレースしか勝っていない馬は割り引きが必要ですね。ハーツコンチェルトはこの条件にも引っ掛かっていますが……。
伊吹 一応フォローしておくと、“JRA、かつ芝、かつ1勝クラス以上のレース”において1着となった経験がなかったにもかかわらず3着以内となった2頭は、いずれも“JRA、かつ2000mのレース”において“着順が1着、かつ2位入線馬とのタイム差が0.4秒以上”となった経験のあった馬。2021年1着のキラーアビリティがそうだったように、今回と同じ距離のレースで圧勝したことのある馬なら侮れない印象でした。この辺は人気も加味したうえで柔軟に判断するべきでしょう。
M 人気薄の馬ならともかく、ハーツコンチェルトは上位人気グループの一角を占めることになりそうな馬。伊吹さんとしてはあまり積極的に買いたくない馬なのではないかと思いますが、実際のところはいかがですか?
伊吹 正直なところ、私は思い切って無印にするつもりでした。強い馬だとは思いますし、前走との間隔に余裕がある点などは高く評価するべきなのでしょうが……。
M 同じくらいの注目を集めそうなミッキーカプチーノらがこの条件に引っ掛かっていますしね。
伊吹 もちろん、思ったよりも人気がなければ無理せず押さえるつもりだったので、あとはもうこの馬自身や私が連軸にする馬のオッズ次第です。
M 少なくとも、断然の1番人気ということはないでしょうからね。
伊吹 他ならぬAiエスケープも高く評価しているわけですし、そもそもGI昇格後はほとんど荒れていないレース。安易に切ってしまわないよう心掛けたいと思います。
当コラムの次回更新は1月2日(月)18時予定です。