今回がまだ7戦目だった4歳馬2頭の本格化はこれから
AJCCを制したノースブリッジ(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
3歳クラシックを展望するグループのスケジュールが大きく変化しているのと呼応するように、4歳以上の古馬陣の年間スケジュールも確実に変わっていることを改めて強く示す今年のアメリカJCCだった。
かつてこのGIIは、負担重量が58-59キロに増量されるトップホース(GI馬)の春のビッグレースに向けた始動戦の色彩が濃かった。だが、今年に限らず最近10年ばかりそういうエース級の出走はごく少なくなった。
今年の負担重量は昨年と変わり、「4歳牡馬56キロ。5歳以上馬57キロ」がベースとなったが、斤量1キロ増だったのは57キロの4歳牡馬ガイアフォース(父キタサンブラック)1頭だけ。この1年間にGIIを制したのはこの馬のみだった。したがって、まだビッグレースには手が届かないが、「今年こそは…」。飛躍を期す馬の対戦になった。
そういう意味では、5歳馬ながらここまで未完で11戦【5-0-1-5】だったノースブリッジ(父モーリス)の快勝は、いかにも近年のアメリカJCCにふさわしい結果だったともいえる。岩田康誠騎手が連続して美浦の調教に駆けつけ、手がける陣営とともにノースブリッジの一段の成長と充実を目ざした努力が実ったのだった。GIIを制して、悲願のGI奪取へ。陣営は早くも4月2日の「大阪杯2000m」を目標にしている。
毎年のようにシャトル種牡馬となって活躍しているモーリス(12歳)は、すでにオーストラリアで2400-2500mのG1勝ち馬を送っているが、日本で2000mを超える距離のGI、GIIを勝ったのは、昨2022年のジェラルディーナ(エリザベス女王杯)だけだった。父モーリス(その父スクリーンヒーロー)の評価はさらに高まることになる。
2着エヒト(父ルーラーシップ)も、ここまではGIII七夕賞(54キロ)を制しただけで、昨年のアメリカJCCは9着にとどまっていたが、今年は前半流れに乗れず置かれたものの、大外を回ってロングスパート。上がり最速の34秒4で最後まで伸びた内容は、勝ち馬に見劣らない中身があった。もう大崩れはないと思える。
3着ユーバーレーベン(父ゴールドシップ)は、2021年のオークスのあと、昨年のドバイシーマクラシック5着(0秒2差)で高い能力を示したくらいで、体調の整え方に苦心したが、これでここ3戦は476-478キロ。「直線もっと伸びそうだったが、少しフワッとしてしまった(M.デムーロ騎手)」という難しさは残るだろうが、スランプ脱出の手ごたえあるレースだった。中山の外回りも合っていた。
4着ラーゴム(父オルフェーヴル)は、前後半「61秒3-(12秒0)-60秒2」の比較的楽な流れにT.バシュロ騎手が巧みに乗せ切った。懸命に追いまくってバテることなく0秒4差は立派。ダート戦で快走してパワーアップしている。全体に時計のかかる芝ならこのあとも侮れない。
成長力とスケールアップが近年のこのGIIの持つ大きな特徴とあって、4歳馬が大きな期待を集めたのは当然だった。だが、1番人気のガイアフォース(父キタサンブラック)、エピファニー(父エピファネイア)の2頭は、5着、11着に凡走してしまった。
ガイアフォースは、気迫を表に出した出走馬が多い中にあって、若い挑戦者らしい覇気に乏しかったかもしれない。スタートでよれたあとの行き脚も、なだめられつつ軽快に好位を進んだセントライト記念と違っていた。
追って鋭いタイプではないので、このペースならC.ルメール騎手は早めに動くかと思えたが、冬場のためだろうか、ガイアフォースも、ルメール騎手も好調時の冴えがなかった印象がある。ぜひ、巻き返したい。
スタートでガイアフォースに寄られて隣のレッドガランと接触したエピファニーは、初の距離が課題だったのに前半から気負ってしまった。レースの中盤では落ち着いたように見えたが、3-4コーナーで後続に交わされるようでは、最初からリズムが崩れていたのだろう。
人気の4歳の2頭にとっては、強敵相手のGI(クラシックなど)で好勝負を演じたわけではない弱みが出てしまった。この点では、アメリカJCCの立ち位置はかなり変化したとはいえ、伝統のGIIで、心身ともにまだ総合力が欠けたということか。評価が下がるわけではない。今回がまだ7戦目だった4歳馬2頭の本格化はこれからである。