単勝オッズ9.5倍(4番人気)のウインカーネリアンが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
昨年のような大波乱決着となった年はかなり少ない
AIマスターM(以下、M) 先週は東京新聞杯が行われ、単勝オッズ9.5倍(4番人気)のウインカーネリアンが優勝を果たしました。
伊吹 陣営はもちろん、手綱をとった三浦皇成騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。発馬自体はそれほど速くなかったように見えましたが、すぐにダッシュがついて難なく先頭のポジションを確保。結果的に、この挙動が最大の勝因だったかもしれませんね。
道中もハナに立ったまま絶妙なペースを演出し、残り400mの地点まではほぼ“持ったまま”の状態。そこから満を持して追いだし、ゴール前で迫ったナミュール(2着)、プレサージュリフト(3着)、ジャスティンカフェ(4着)らの追撃を凌ぎ切っています。
M ウインカーネリアンは自身2度目の重賞制覇。5走前の谷川岳S以降は5戦4勝です。
伊吹 6歳以上の高齢馬が苦戦しているレースということもあって、残念ながら私はこの馬に◎を打つことができませんでした。もっとも、スムーズに先行できればそう簡単には止まらないだろうと思っていましたし、そんな展開が容易にイメージできるメンバー構成だったのも事実。
最終的な買い目の上ではそれなりに高く評価していたものの、6歳馬らしからぬ最近の勢いをもう少し重く見るべきだったのかもしれません。逆に言うと、展開や実績を重視した方々にとっては、思いのほか妙味ある配当だったのではないかと思います。
M 前走のマイルCSこそ12着に敗れてしまいましたが、この調子なら今春以降の大舞台でも活躍を期待できるのではないでしょうか。
伊吹 無事に安田記念まで駒を進めてくるようであれば楽しみですね。定期的にリリースしている拙著『血統&ジョッキー偏差値』シリーズ(ガイドワークス)などでもたびたび指摘している通り、東京芝1600mはスクリーンヒーロー産駒が非常に優秀な成績を収めているコース。
2019〜2022年の4年間に限ると3着内率33.7%、複勝回収率146%だったうえ、先々週2023年01月29日の節分S(4歳以上3勝クラス)でも単勝オッズ67.2倍(8番人気)のルーカスが2着に食い込みました。もっとも、ウインカーネリアン自身は3歳時に中山芝2000m内の皐月賞で4着となった実績がある馬。東京芝1600mなどのいかにも合いそうなコースだけでなく、コース替わりを嫌われるような場面でも、激走を警戒しておいた方が良いのかもしれません。
M 今週の日曜阪神メインレースは、古馬中長距離戦線の強豪が集う伝統の一戦、京都記念。昨年は単勝オッズ51.5倍(12番人気)のアフリカンゴールドが優勝を果たしています。なお、その2022年は単勝オッズ22.7倍(8番人気)のタガノディアマンテが2着に、単勝オッズ8.3倍(6番人気)のサンレイポケットが3着に食い込み、3連単67万9100円の大波乱決着。どちらかと言うと堅く収まりがちな印象を持っていたのですが、認識を改めた方が良いのでしょうか。
伊吹 荒れにくいレースなのは確かなんですよね。3連単の配当が10万円を超えたのはナリタセンチュリーが勝った2005年以来で、実に17年ぶり。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、単勝7番人気以下で馬券に絡んだのは昨年の1〜2着馬だけでした。
M 単勝1番人気馬の成績はやや物足りなく映りますが、単勝2〜3番人気の馬や単勝4〜6番人気の馬はかなり健闘しています。
伊吹 単勝オッズ3倍未満の馬は2013年以降[2-1-3-2](3着内率75.0%)、2017年以降[2-1-2-0](3着内率100.0%)でしたから、人気の中心となっているような馬も無理に嫌う必要はありません。あえて伏兵を狙う場合も、ある程度は前評判が高い馬を買い目に組み込むべきでしょう。
M そんな京都記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ウインマイティーです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。上位人気グループの一角を占めそうな実績馬ですが、単勝1番人気ということはないはず。
M ウインマイティーは明け6歳の牝馬。3歳時にはオークスで3着に健闘しましたし、昨年もマーメイドSを勝っています。ただ、懐疑的に見ている方もそれなりにいそうで、場合によっては妙味あるオッズがつくかもしれません。
伊吹 戦績に安定感のあるタイプではありませんし、評価が割れそうな一頭ですよね。Aiエスケープがこの馬を狙っているという事実を踏まえつつ、これまでの京都記念で好走を果たした馬の傾向を見ていきましょう。
M まず、前走の有馬記念で6着に敗れている点はどう見ますか?
伊吹 不安視する必要はまったくありません。2019年以降の3着以内馬延べ12頭中10頭は、前走の着順が7着以内でした。
M よほどの大敗を喫した直後でなければ、それなりに高く評価して良さそうですね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が8着以下、かつ前走のレースが有馬記念以外だった馬は2019年以降[0-0-0-16](3着内率0.0%)。さすがにこの条件をクリアしていない馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M ウインマイティーは重賞を一度しか勝っておらず、その1勝も牝馬限定のハンデキャップ競走だったわけですが、このあたりは問題ありませんか?
伊吹 こちらも気にしなくて良いと思います。同じく2019年以降の3着以内馬延べ12頭中11頭は、GIで6着以内となった経験がある馬でした。
M これはわかりやすい。ビッグレースで善戦したことのある馬は素直に信頼して良さそうですね。ウインマイティーは3歳時のオークスで3着に、前走の有馬記念でも6着に食い込んでいますから、実績上位の一頭と見て良いのではないでしょうか。
伊吹 あとは血統と臨戦過程も重要なポイント。父にステイゴールド系種牡馬を持つ馬は2019年以降[1-3-1-6](3着内率45.5%)と安定しています。
M ウインマイティーの父はステイゴールド系種牡馬のゴールドシップ。血統も申し分ありませんね。
伊吹 なお、父がステイゴールド系以外の種牡馬だったにもかかわらず3着以内となった7頭は、いずれも前走のグレードがGI・GII、かつ前走の条件がハンデキャップ競走以外でした。
M GIIIやオープン特別から直行してきた馬はもちろん、日経新春杯あたりを経由してきた馬も、疑ってかかった方が良さそうです。
伊吹 おっしゃる通り。このレースと相性が良いステイゴールド系種牡馬の産駒でない限り、前走の格を素直に評価するべきでしょう。
M Aiエスケープが注目馬に挙げているうえ、好走馬の傾向からも特に不安要素が見当たらないわけですから、オッズ次第では相当に面白い存在と言えますね。
伊吹 コース適性などを疑問視する向きもありそうですが、他の出走予定馬はウインマイティーよりもさらに深刻な不安要素を抱えている馬ばかり。もともと私は想定メンバーを見た段階でこの馬に◎を打とうと考えていました。他ならぬAiエスケープが有力と見ているのであれば、ここからさらにもうひと捻りする必要はなさそう。楽しみです。