素晴らしい勝ち時計で牡馬クラシック候補に再浮上
ファントムシーフが優勝(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
クラシックを狙う牡馬の、近年の最大のポイントレースになる共同通信杯を制したのは、ファントムシーフ(父ハービンジャー)だった。
途中からハナを奪ったタッチウッド(父ドゥラメンテ)と、早めに2番手を確保したファントムシーフの決着だったため、単調な行った切りの印象が残ったが、勝ち時計の1分47秒0は、2013年メイケイペガスターの1分46秒0、2019年ダノンキングリーの1分46秒8に次ぐレース史上3位の快時計だった。
近年「2012年ゴールドシップを筆頭に、イスラボニータ、ドゥラメンテ、ディーマジェスティ、エフフォーリア、ジオグリフ」の6頭が共同通信杯からの直行スケジュールで皐月賞を勝っている。単調なレースに映ったものの、ファントムシーフの勝ち時計はこの6頭の共同通信杯の記録を上回っているから素晴らしい。
12月の「ホープフルS」2000mでは18頭立ての1番枠(2番人気)。苦しいインでもまれドゥラエレーデ(父ドゥラメンテ)の0秒2差の4着にとどまったが、今回は連勝した「新馬→野路菊S」と同じような先行態勢から、スピード能力全開。さまざまな牡馬クラシック候補ランキング順位は盛り返すようにアップすることになる。
ファントムシーフの意図的なインブリーディングはもう知れ渡っている。改めて血統表で確認すると、「3×3」の形で登場するデインヒルは、もともとノーザンダンサーの母Natalmaナタルマの「3×3」と、大種牡馬ハイペリオンの「5×5」の意図的なクロスで大成功した名馬。そのデインヒルのクロスに、ともに3代前に「父Kshyasiカヤージ、母Keraliケラリ」の組み合わせの産駒を持つハービンジャーと、牝馬ルパンIIのクロス配合を成立させたので、結果、その産駒の牝馬Hasiliハシリと、Arriveアライヴの全姉妹クロス「3×3」となった。
ノーザンダンサーのクロスは5代血統図では「5×5×5×5」にとどまるが、6代前、7代前まで範囲を広げるとさらに複数回出現する。きわめて特殊で意図的な配合のファントムシーフは、見事に成功したのである。
レース全体のバランスは「前半47秒7-(12秒8)-後半46秒5」。1000m通過60秒5。レース上がりは34秒1。高いレベルで後半が速くなったもので、スローとはいえないが、高速決着なので前に行った2頭には恵まれた展開となった。
3着ダノンザタイガー(父ハーツクライ)、4着タスティエーラ(父サトノクラウン)、5着ウインオーディン(父エピファネイア)のほか、着外のコレペティトール、シルバースペードの上がり3ハロンは、1着、2着馬を上回る「33秒台」だった。みんな成長途上であり、まだ自分のレースの形ができていないから仕方がないが、前に行った2頭(前半競り合ったように見えた)に最初から翻弄された印象も残った。
1番人気で3着にとどまったダノンザタイガーは、大跳びで小足の使えないちょっと不器用なタイプ。前が狭くなって進路変更を余儀なくされるシーンが再三重なった。上がりは最速タイの33秒6。能力を出し切っての1分47秒2(0秒2差)ではないだろう。賞金の加算がなかったので、クラシック出走のためにはどこかでもう一走する必要も生じた。ここまで左回りに絞って4戦、その上がりは「33秒5、33秒9、34秒0、33秒6」。数字はハイレベルだが、皐月賞向きではないかもしれない。
2戦目で2番人気のタスティエーラは、ダノンザタイガーとハナ差の4着で、1分47秒2(上がり33秒7)。最後の伸び一歩だったのはキャリアの差だけで、十分にクラシック級の資質を示した。同じ2戦目のタッチウッドは新馬戦の内容を参考に先手を主張して成功したが、タスティエーラは今回、好スタートを切ったが、今後のレースを念頭に先行策は避けたと思える。あくまで先を見据えてだった。
R.ムーア騎手の新馬勝ちは、レースの厳しさを覚えさせるため、積極的なスパートから勝利を確信しても最後まで息を抜くこと許さない。だから、大きな差がつく。
しかし、2戦目に乗り替わる騎手は、将来のために新馬戦と同じような戦法がベストとは考えないことがある。ムーア騎手の新馬勝ちの馬は、その評価と、2戦目のレース運びを想像するのが難しい。