単勝オッズ9.2倍(5番人気)のヒシイグアスが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
極端な低額配当で決着した年も少なくない皐月賞トライアル
AIマスターM(以下、M) 先週は中山記念が行われ、単勝オッズ9.2倍(5番人気)のヒシイグアスが優勝を果たしました。
伊吹 前回の当コラムでAiエスケープが推奨していた馬ですね。レースの傾向からも特に不安要素が見当たらず、最終的に私も重いシルシを打ったのですが、見立て通りの完勝と言って良いのではないでしょうか。7枠11番からのスタートだったものの、1コーナーで無理なくラチ沿いに寄せ、道中は中団の内から2頭目を追走。3〜4コーナーで少しずつポジションを押し上げ、残り200m地点のあたりで先行勢の外に持ち出し、そのまま差し切っています。ゴール前の直線でインを突いた馬たちとは対照的な、非常にスマートでスムーズな立ち回り。陣営はもちろん、鞍上の松山弘平騎手にとっても会心の勝利だったに違いありません。
M ヒシイグアスは2021年の中山記念を勝っているうえ、前走の宝塚記念でも2着に健闘していた実績馬。しかし、GIウイナーのダノンザキッド(11着)、シュネルマイスター(4着)、スタニングローズ(5着)だけでなく、GIIすら勝ったことがないソーヴァリアント(9着)よりも支持が集まりませんでした。
伊吹 長期の休養明けである点や、明け7歳である点が嫌われたのでしょう。ただ、もともと間隔をあけながら使われてきた馬ですし、その影響もあってこのレースがまだ通算16戦目。我々やAiエスケープが先週の時点で予見していた通り、まったくの杞憂だったようです。2着に単勝オッズ19.9倍(8番人気)のラーグルフが、3着に単勝オッズ17.2倍(7番人気)のドーブネが入ったこともあり、3連単12万9610円の好配当決着。当コラムをご覧いただいている皆様の中にも、大きく儲けた方がいらっしゃるかもしれませんね。
M ヒシイグアスは自身3度目の重賞制覇。今春以降のビッグレースでも活躍を期待できるのではないかと思います。
伊吹 長いところや短いところでの走りを観てみたい気もしますが、おそらくは今後も中距離が主戦場になるはず。右回りでゴール前の直線が短い大阪杯(阪神芝2000m内)や宝塚記念(阪神芝2200m内)を使ってくるようなら、相応に高く評価するべきでしょう。今後も出走するたびに馬齢を不安視されそうですから、積極的に狙っていきたいです。
M 今週の日曜中山メインレースは、1〜3着馬に皐月賞への優先出走権が付与される3歳牡馬クラシック競走の前哨戦、弥生賞。昨年は単勝オッズ6.7倍(3番人気)のアスクビクターモアが優勝を果たしました。少頭数になりがちということもあって、大きな波乱は期待しづらい印象があります。
伊吹 3連単の発売が始まった2005年以降の過去18年を振り返ってみると、3分の1強にあたる7回は3連単の配当が1万円未満で、うち2回は1000円にも満たない超低額配当。一方、3連単10万円超の決着は4回しかありません。やはり、基本的には堅く収まりやすいレースと見るべきでしょう。ただし、単勝人気順別成績を見ると、人気薄の馬も思いのほか健闘していました。
M 3着以内となった全30頭のうち、単勝3番人気以内の支持を集めていた馬は17頭どまり。上位人気馬だけ選んでおけば良いというわけでもなさそうです。
伊吹 一応、2020年以降の過去3年に限ると、単勝4番人気以内の馬が[3-3-2-4](3着内率66.7%)だったのに対し、単勝5番人気以下の馬は[0-0-1-19](3着内率5.0%)。ごく近年は堅い決着が続いています。人気サイドの馬を中心に、極限まで絞った買い目で勝負するというのも、それはそれで有効な作戦かもしれません。
M そんな弥生賞でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、トップナイフです。
伊吹 やはり人気サイドの馬を挙げてきましたね。裏を返せば、妙味ある伏兵が特に見当たらないということなのでしょう。
M トップナイフは前走のホープフルSで勝ったドゥラエレーデとハナ差の2着に健闘。3走前にはオープン特別の萩Sを制しています。他にも注目を集めそうな馬は何頭かいますが、現在のところ単勝1番人気に推されそうな雰囲気です。
伊吹 展開に恵まれた面もあったとはいえ、前走は上々の内容でした。正直なところ、今回はメンバー構成に恵まれた印象。Aiエスケープが注目馬として挙げてきたという事実を踏まえつつ、連軸に相応しい存在か否かという観点で、好走馬の傾向とこの馬の戦績を見比べていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと見ていますか?
伊吹 新馬や未勝利を勝ち上がった後の戦績ですね。2016年以降の過去7年に限ると、3着以内馬21頭中19頭は“JRA、かつ1勝クラス以上のレース”で連対したことのある馬でした。
M 当然と言えば当然の話ですが、新馬や未勝利でしか好走していない馬は強調できませんね。
伊吹 昇級後のレースで苦戦が続いている馬はもちろん、デビューが遅れた馬、勝ち上がりに時間がかかった馬も扱いに注意したいところ。今年はこの条件に引っ掛かっている馬が多いので、実績上位のトップナイフは相応に高く評価するべきでしょう。
M ホープフルSからの直行という臨戦過程はいかがですか?
伊吹 こちらも特に問題ないと思います。同じく2016年以降の過去7年に限ると、前走の上がり3ハロンタイム順位が2位以下だったにもかかわらず3着以内となった10頭のうち7頭は、前年末に行われたGIからの直行組でした。
M なるほど。今年も前走で出走メンバー中1位の上がり3ハロンタイムをマークしていた馬か、前走が朝日杯FSやホープフルSを重視するべきでしょうね。
伊吹 ちなみに、前走のコースがJRA、かつ前走の上がり3ハロンタイム順位が1位だった馬は2016年以降[5-5-1-14](3着内率44.0%)と堅実。ただし、今年はこの条件に該当している馬が1頭(ゴッドファーザー)しかいません。ビッグレースから直行してきた馬たちがそのまま上位を占める可能性もありそうです。
M 他に何か注目しておくべきポイントはありますか?
伊吹 2016年以降の3着以内馬21頭中20頭は、前走の4コーナー通過順が2〜7番手。極端な競馬をした直後の馬は苦戦していました。
M トップナイフは前走の4コーナー通過順が1番手。残念ながらこの条件はクリアしていません。
伊吹 人気薄の馬なら大目に見て良いのかもしれませんが、おそらく単勝1番人気ということを考えると、この点はしっかり減点材料として認識するべきでしょう。
M もっとも、2走前の京都2歳S(2着)は4コーナー通過順が6番手でしたし、逃げなければ力を発揮できないタイプというわけではなさそう。無理に嫌う必要はない気もします。
伊吹 おっしゃる通りですね。今回はより大きな不安要素を抱えた馬たちが出走メンバーの大半を占めているので、この馬を切ってしまうと買い目の作りようがありません。Aiエスケープの評価は高いわけですし、それなりに信頼して良さそうな人気馬として扱うべきでしょう。