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【中村直也調教師】ヤマニンサルバムを金鯱賞へ送り出すのは名門オブライエン厩舎を知る新進気鋭のトレーナー

  • 2023年03月05日(日) 18時01分
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▲ヤマニンサルバムを金鯱賞へ送り出す中村直也調教師(c)netkeiba.com


金鯱賞で重賞初出走のヤマニンサルバム。2022年3月、浅見秀一厩舎の定年解散に伴い中村直也厩舎に移籍しました。特筆すべきは全4勝すべてが中京競馬場という「中京巧者」っぷり。「この馬に合っている条件なので、行かない手はない」と話す中村調教師にとっても重賞初制覇がかかります。トレセンに入る前には、エイダン・オブライエン厩舎で働いた経験があるという中村調教師に伺いました。

(取材・構成:大恵陽子)

「未勝利馬の行き先は厳しい世界」出走回数へのこだわり


──昨春、浅見厩舎から引き継いだ頃のヤマニンサルバムの印象から教えていただけますか?

中村 ヤマニンサルバムはその年の1月にデビューしてすでに何回かレースに使っていて、2着にもきていました。レース内容もよかったので、そんなに時間がかからずに勝ってくれるだろうなと思っていました。

──その通り移籍2戦目で勝つと、昇級初戦も勝って2連勝。2勝クラスでは一度も3着以内を外すことなく、クラスが上がっても力を見せました。

中村 能力がある馬なので、2勝クラスではなかなか勝てなかったですけど、安定して力を発揮していたと思います。調教でもそうなんですけど、一生懸命必死になって走る馬じゃないので、レース後もクタっと疲れが大きく出ることがなく、レース数を使えました。

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▲転厩2戦目で初勝利(c)netkeiba.com


──コンスタントに走っていて、最も間隔が空いたレースでも2カ月弱。馬主孝行な馬だなと感じます。

中村 元々、体力があるという点が大きいでしょうけど、カイバを食べる量が夏場でも落ちることはありませんでした。むしろ、太らせないように気を使うようなタイプですし、どこか痛いところもないので、ずっとコンスタントに走ってくれたと思います。

──出走回数の多い厩舎といえば、矢作芳人厩舎。中村調教師は開業前、そこで研修していたそうですね。

中村 僕は元々、「競走馬はレースに使わないと」と考えているタイプだったので、考え方が合っている厩舎で勉強をさせてもらいました。

──その根底にはどんなお考えがあるんですか?


中村 レースはいつも上手くいくわけではありません。どれだけ状態が良くても、不利があれば着順は後ろになってしまいます。それならば、レースに使えるいい状態なら何回も出走させた方が馬にとっても勝つチャンスが増えます。例えば、未勝利を数回かしか使えずに勝ち上がれなかったら、その馬の行き先は厳しい世界です。それなら、ちょっとでも使ってあげた方が馬のためにもなるんじゃないかなと思うんです。

 馬主さんのためにもそうですね。調教をいくらしても賞金は得られませんし、ましてや調教で怪我をすると損をしてしまいますから。

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▲ちょっとでも使ってあげた方が馬のためにもなる(ユーザー提供:お気楽さん)


──レースは馬場状態や枠だけでなく、不測の事態も多いですから、出走回数を増やした方が自ずと勝てるチャンスも多くなりますね。一方で、クラスや条件によっては除外が多いレースもあります。

中村 レースに使いたくても使えないことはあるので、そのあたりは放牧先と馬を入れ替えてレース間隔を取ったりして、レース数を使えるように回すのが仕事だと思います。

──中村調教師はアイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎で働いたことがあるそうですね。

中村 僕は馬と全く関係のない家庭の出身で、オーストラリアの馬の学校で初めて馬に触りました。その頃は競馬ブームで競馬学校に入りたい人がいっぱいいたので、何かしら箔をつけたり特徴がある方がいいかなと思って、エイダン・オブライエン厩舎に入れてもらいました。

──このインタビューは読みやすいように標準語で書いていますが、実際は関西弁で、「エイダン・オブライエン厩舎」というパワーワードとのギャップがいいですね。

中村 そうですか(笑)。大阪の出身ですけど京都府に近い場所で、京都競馬場にレースを見に行ったりしていました。

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▲世界的なトップトレーナー、A.オブライエン調教師(2017年撮影:高橋正和)


──今年は6勝を挙げ、ユリーシャでエルフィンSを勝つなど好調です。(2023年3月3日時点)

中村 これが続けばいいですけど、そんなに甘くないのでね。1つ勝ってクラス上がれば、また次に勝つのは難しいです。ユリーシャは桜花賞に出られればいいですけど、賞金的にはギリギリかもしれません。体が減り続けていたので、トライアルを使うよりも間隔を空けた方がいいと思い、直行するか、出られなければ別のレースへと思っています。

全4勝が中京の理由


──ヤマニンサルバムはこれまでの全4勝を中京で挙げています。

中村 右回りだとちょっと外に張るので、左回りの方がいいなとは感じていたんですけど、それが結果に繋がりました。普段は乗りやすくて、競馬でも外に張る癖はそこまでひどくはないので右回りでも上位に来ているんですけど、どちらかと言えば左回りの方がいいな、というイメージです。結果もついてきたので、ある程度こだわった方がいいのかな、と最近は左回りのレースを選んでいます。

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▲中京競馬場でこれまでの全4勝を挙げている(c)netkeiba.com


──前走も左回りの東京・白富士S。オープン初戦でしたが、勝ち馬から2馬身弱の3着でした。

中村 4コーナーで後手を踏まされる形になりましたけど、それでも盛り返して最後までしっかり走ってきたので、オープン初戦としては上々だったと思います。

──未勝利の頃は1200mや1400mも走っていましたが、2000mまで距離を延ばすことができたのは、この馬にどんな良さがあるからですか?

中村 折り合いにそこまで苦労しない、という点があります。レースで気持ちがそんなにカッカしなくてゆとりがあるので、逆に2000mでちょっと行きたがるぐらいになった方が最後に脚を使えるのかな、というイメージを最近の競馬から抱いています。

 ここから先は相手が強くなってくるので何とも言えないですけど、乗りやすさと戦法にこだわらない部分はアドバンテージだと思います。

 超スローペースで1ハロン10秒台の脚を求められるようなヨーイドンになるとしんどいかと思いますが、しっかり伸びてくる馬だと思います。

──金鯱賞へ向けて意気込みをお願いします。

中村 中京の芝2000mは勝っている条件なので、行かない手はないな、と思っています。重賞でメンバーが強いということさえ除けば、条件としては向いていると思います。無事に回ってきて、まだこのレベルのメンバーとはやったことがないので、ここでどのくらいの結果がついてくるかな、と見ています。応援よろしくお願いします。

(文中敬称略)

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