▲ボルドグフーシュを阪神大賞典へ送り出す宮本博調教師(撮影:稲葉訓也)
菊花賞を鋭い末脚で追い込み、ハナ差2着だったボルドグフーシュ。初勝利の頃から見せていた末脚を身上に、有馬記念でも福永祐一騎手(当時)を背に2着と、古馬相手に力を見せました。
4歳になった今年、目指すは天皇賞・春でのGI制覇。今週末の阪神大賞典をステップに、ビッグタイトルを狙うのですが、宮本博調教師がタイトルを獲らせてあげたいと願うのには、ボルドグフーシュの“女好き”も関係しているようで……。
(取材・構成:大恵陽子)
ハナ差2着に「競馬の神様が僕にまだGIを獲らせてくれへんのやな」
──ボルドグフーシュは初勝利を挙げたデビュー2戦目での末脚が素晴らしくて、1頭次元が違っていました。
宮本 道中は後方にいたのが、直線だけでゴボウ抜きでしたから、第一印象からガラッと変わって「これは普通の馬じゃないな」と思いました。この馬が走ると一番感じていたのは、その時に乗っていた騎手の松田大作ですよ。「こんな感じの馬、乗ったことない」とずっと興奮していました。
▲「こんな感じの馬、乗ったことない」と興奮(c)netkeiba.com
──その後、ゆきやなぎ賞を勝って京都新聞杯に出走し、3着。日本ダービーへの思いも強かったのでは? と想像します。
宮本 ダービーへの思いは少し持っていました。でもね、やっぱり菊花賞っていうのを僕は思っていたんです。2戦目でシュッて前にいた馬をみんな抜くのを見た時に、「良くなるにはまだもうちょっと時間がかかりそうだから、皐月賞やダービーというより、何とか菊花賞を使えたらいいな」と思っていました。
──そうなると、神戸新聞杯3着で優先出走権が取れた時のお気持ちは?
宮本 脚質的に後ろから行く馬ですけど、どちらかと言うと神戸新聞杯は前残りに近い馬場傾向だったでしょ。それを後ろから来たので、やっぱりさすがだなって思いましたね。あの時点で3勝していましたけど、3着で優先出走権を取れてよかったです。
──2歳10月からずっと目標にしていた菊花賞ではいい脚で追い込み、粘るアスクビクターモアと馬体を並べてのゴールでしたが、ハナだけ及ばず2着でした。
宮本 本当に悔しかったです。直線では「来いっ、来い!」と心の中で叫んでいました。隣がアスクビクターモアの田村(康仁)さんだったんですよ。同い年でもあるんですけど、「田村さんのところが勝ったわ」って言いました。
──ゴールの瞬間、分かるくらいだったんですね。
宮本 「うわー、負けた」と分かりました。でも、ボルドグフーシュはよく頑張ってくれましたよね。競馬の神様が僕にまだGIを獲らせてくれへんのやな、と思いました。「もうちょっと待て」と言われた感じがしました。でも逆にね、有馬記念の2着は嬉しかったです。だって、タイトルホルダーやエフフォーリア、イクイノックスとGI馬がいっぱいいるのに、その中で2着に来たのですごいなと思いました。菊花賞とはまた違った気持ちで結果を受け止めましたね。
▲有馬記念ではイクイノックスに次ぐ2着に(撮影:下野雄規)
ぶーって鳴いて、あれは牝馬が好き(笑)
──3000mの菊花賞、2500mの有馬記念で2着となると、適距離はどう感じていますか?
宮本 やっぱり長い距離はいいと思います。だから、春は天皇賞を目標にしたいなと思っています。ただ、やっぱり強い馬たちは何頭か出てくるので、そう簡単には勝たせてもらえないと思っていて、その中で自分がやれることをやろうと思っています。
──序盤は後ろからゆったり行くタイプというのも、長距離への期待を持ったのでしょうか?
宮本 トモがまだパンとしてないせいか、スタートを上手く切れないんですよね。でも、それも個性です。それに、徐々にトモはしっかりしてきていて、スタートは段々マシになってきています。ここ最近はこの馬にしたら出るようになっているんですけど、二の脚が他の馬たちの方が速いから、そう見えるだけです。トモもだいぶ力がついてきて、3月1日の坂路での追い切りでは51.9秒でしまいが12.4秒。8日の1週前追い切りに川田将雅騎手に乗ってもらう予定だったので、それなりの負荷をかけたらこれだけの時計が出ました。レースを使うごとに馬がどんどん良くなっていて、物覚えがいい馬だと思います。
▲レースを使うごとにどんどん良くなる(ユーザー提供:Sluiceさん)
──トモを含め、しっかりと成長してきているんですね。
宮本 厩舎で乗っている分にはだいぶマシになってきたと感じています。でも、競馬では全力で走るので、ジョッキーの感じ方とズレが生じることもあると思います。なので、調教と競馬でどう違うか、ということも聞きたいなと思っています。
──阪神大賞典、その後のGIに向けてどんな走りを期待していますか?
宮本 追い切りが終わらないと何とも言えないですけど、この馬はタフで仕上がりがいいんですよね。それと、馬っ気がすごいんですよ。
──それは、幼さゆえの? それとも本当に牝馬が好きなタイプですか?
宮本 あれは牝馬が好き(笑)。牝馬を追いかけたりはしないけど、ぶーって鳴いたりして、めっちゃ元気ですよ。見ていて、僕なんかうらやましいくらい。
──ぜひとも種牡馬にさせてあげたくなる馬ですね。
宮本 そうなれるように、タイトルを獲らせてあげたいですね。
(文中敬称略)