▲皐月賞出走予定のベラジオオペラを管理する上村洋行師(c)netkeiba.com
2歳GI馬不在で迎える今年の皐月賞。しかしながら、無敗馬や連勝中の馬が何頭かおり、そのうちの1頭が無敗の3連勝でスプリングSを勝ったベラジオオペラです。デビューからの2戦ではスタートセンスの良さを、スプリングSでは中団で折り合える操作性の高さを見せました。
上村洋行厩舎は開業5年目の今年、全国リーディング2位につけ、3歳世代では17勝も挙げています(4/2終了時点)。その好調の要因の一つは「丁寧な準備運動」。師自らもバリバリに調教に乗るからこそ見える管理馬の特徴もあるといいます。
(取材・構成:大恵陽子)
「1頭だけ2000mみたいな競馬」でスプリングS勝利
――ベラジオオペラはちょうど1年前の千葉セリ(千葉サラブレッドセール)で買われた馬です。2歳馬のトレーニングセールにあたるセリで、2番目に高い4410万円(税別)で落札されました。最初の頃の印象はどうでしたか?
上村 去年の千葉セリはコロナの影響でオンラインだったんですけど、事前に北海道の牧場で何回か見ていて、そこから絞って選びました。そんなに目立つ時計を出したわけでもないんですけど、ロードカナロアの仔にしては骨格が大きくて、ちょっと緩そうな雰囲気もありましたけど奥がありそうでした。オーナーに買っていただく時に「少し緩いので、使い出しは遅くなります」と前もって伝えていました。
――そういった理由でデビューが11月だったんですね。
▲11月の阪神競馬でデビュー勝ちを挙げたベラジオオペラ(c)netkeiba.com
上村 ある程度のところまで仕上がったのでデビュー戦を迎えたんですが、評判馬などメンバーが揃った中だったので、「ここでいいレースをするようなら将来が楽しみだな」と送り出しました。当時はまだまだ馬体が緩かったですけど、スタートも速くて正攻法の強いレースでした。
――そして2戦目は東京に遠征してセントポーリア賞。好スタートから一旦は逃げましたが、向正面で他の馬がハナを取りに来た時にスッと引いて折り合いもついていましたね。
上村 あの辺が操作性の高さですよね。途中で絡まれるシーンがあってもそれにつられて引っ掛かることなく、2番手に控えて王道の競馬をしました。スタートが速いし、コントロール性が高いっていうのは、レースセンスの良さです。
▲“王道の競馬”でデビュー2連勝(撮影:下野雄規)
――スプリングSではさらに控えて中団からの競馬となりました。
上村 あれはジョッキーと相談しての位置取りでした。馬場も悪かったので、ジョッキーも内は走りたくないということで、それなら内の4番枠でしたけど行きたい馬を行かせてから外に出して、あとは任せる、という感じで。ああいう競馬もできるというのが分かりましたし、1頭だけ2000mみたいな競馬をしていましたね。
――セントポーリア賞に続き、ここでも展開やペースに合わせて自在なレースができることを感じさせました。
上村 それができるのがこの馬の強みです。折り合いの心配がないし、動きたい時に動けて、反応もすごく早い。本当にレースセンスが良いですね。
――そうなると、距離が延びても大丈夫でしょうか。
上村 はい、今だったら延びても問題ないと思います。
▲動きたい時に動けて、反応もすごく早い。(撮影:下野雄規)
「トレセンの中でも結構長い方」準備運動で基礎体力を
――上村厩舎からは桜花賞にムーンプローブも出走するなど、この3歳世代は17勝を挙げて好調ですね。
上村 こうして牝馬でも牡馬でもクラシックに出られる馬が出てくることは厩舎にとってもいい影響で、活気がつきますし、他の馬たちもどんどん成績が出てきて、いい歯車が回っているかな、と感じます。
――厩舎全体を見ても、先日100勝を達成するなど、開業から毎年勝利数を伸ばしています。「厩舎の中身ができるのに5年、10年かかる」という話をよく聞きますが、ちょうど5年目ですね。
上村 いま、やっと自分の思っているスタイルで調教ができるメンバーが揃ったな、と思います。それがこうして数字として成績に表れてきたのかなと思います。
――上村調教師ご自身もバリバリに調教に乗っていますが、乗って確かめたい部分もあるのでしょうか。
上村 1日約3頭乗っていて、誰が調教師か分からないくらいです(笑)。今はまだ乗っている方が楽しくて、馬の変化もダイレクトに感じやすいです。馬から降りて、外から馬の状態を見る目を養うのも大事だとは思うんですけど、乗っていると周りの馬の雰囲気も分かります。逍遥馬道(木々に囲まれ、アップダウンのある場所を歩く道)での雰囲気一つとっても、一緒に乗っていると落ち着きのある・なしも分かります。
――追い切りで速く走ることも大切でしょうけど、そうした逍遥馬道での常歩の時間はもっと大切でしょうね。
上村 栗東トレセンの逍遥馬道は自然の地形を利用したアップダウンがあるので、そこを同じリズムで歩くにはそれなりに足腰がしっかりしていないとできません。速く走る調教はたしかに大事ですけど、それ以外の準備運動やフラットワーク、調教後の運動をうちの厩舎はメインとして丁寧にやっています。栗東トレセンの中でも準備運動にかける時間は結構長い方だと思います。
――さて、いよいよ皐月賞ですが、今回は初めて間隔が詰まってのレースとなります。
上村 そこが一番のポイントかなと思います。在厩調整が初めてで、スプリングSが終わってからのダメージはやっぱりあったので、1週間は楽をさせて完全にオフにして、その後、徐々に乗り始めて皐月賞に向けて上げていく調整をしています。順調にはこれているんじゃないかなと思います。
――1週前追い切りには美浦から田辺裕信騎手が来て騎乗しました。
上村 レースでは初めて乗るので、1回は感触を掴んでもらいたいと思いました。緩さを残す馬ということは本人も聞いていたようですけど、実際に乗ってみて「緩いですけど、思ったほどじゃなかったです」と話していました。「乗りやすくて操作性も高いし、反応も早くてすごくいい馬ですね。今の状態でこれだけ動けるなら、今後どういう風に成長していくかは分からないですけど、面白い馬になっていくんじゃないでしょうか」と話していました。
▲田辺裕信騎手との初コンタクトとなった1週前追い切り(撮影:井内利彰)
――皐月賞、そしてその先へと楽しみが広がりますね。
上村 3戦負けなしで臨む馬ですから、厩舎としてもそういう馬に巡り合うことはなかなか難しいです。ましてや、自分で選んで買っていただいた馬が思っていたように成長していることは自信にもなります。まずは、いい状態で皐月賞に持っていければと思います。ここまで来たらいい状態で本番に出してあげたいですし、それに結果がついてくればなおさら嬉しいです。
(文中敬称略)