1番人気に応え桜花賞を勝利したリバティアイランド(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝二桁人気クラスの馬はほとんど馬券に絡んでいない
AIマスターM(以下、M) 先週は桜花賞が行われ、単勝オッズ1.6倍(1番人気)のリバティアイランドが優勝を果たしました。
伊吹 2着のコナコーストとは3/4馬身差でしたが、内容的には完勝と言って良いのではないでしょうか。スタートがあまり良くなかったこともあって、向正面では後方の15番手を追走。ただ、パトロールフィルムを見ると鞍上の川田将雅騎手はレースの序盤から馬群の外めに持ち出すチャンスを窺っていましたし、3〜4コーナーで自身の外があくと、躊躇うことなく大外へ持ち出しています。
4コーナーを周り切ったところでもまだ16番手にいて、残り200m地点のあたりでは先団から抜け出したコナコーストやペリファーニア(3着)がそのまま押し切りそうな態勢だったものの、そこから異次元の末脚で両馬を捕らえ、逆に1馬身近い差をつけてゴール。こんな競馬をされてしまったら、もう他の馬はなす術がありません。
M リバティアイランドの上がり3ハロンタイムは32秒9で、当然ながら断然のトップ。ちなみに、2位のキタウイング(12着)は33秒6、3位のシンリョクカ(6着)は33秒8でした。
伊吹 見た目のインパクトはもちろんのこと、数字の面でも驚異的ですね。ちなみに、YouTubeのJRA公式チャンネルでは、今春からの新しい試みとして、リバティアイランドに騎乗した川田将雅騎手のジョッキーカメラ映像が公開されています。騎手の視点から見るレースの迫力はもちろん、リバティアイランドの繰り出した末脚がどれだけ圧倒的なものであったのかも存分に体感できるはず。まだチェックしていない方はぜひご覧になってみてください。
余談ながら、私としては川田将雅騎手が入線後にリバティアイランドを止めるところで「はいはい、はいお嬢さん。終わりです」と優しく語りかけていた点も印象的。ジョッキーカメラというシステムがなければ記録に残らなかったであろう、この時代ならではの名シーンと言えるのではないでしょうか。
M リバティアイランドはこれでGI2連勝。次走以降もかなりの注目が集まりそうです。
伊吹 母のヤンキーローズは現役時代にオーストラリアでGIのATCサイアーズプロデュースSとATCスプリングチャンピオンSを勝っている馬。施行距離は前者が1400m、後者が2000mでした。
これまでのレースぶりやドゥラメンテ産駒である点を考えても、距離には融通が利きそうなタイプ。3走前のアルテミスSで2着に敗れているとはいえ、東京が向いていないということもまずないでしょうから、オークスに出走してきたら逆らえません。
M 今週の日曜中山メインレースは、3歳牡馬クラシック競走の第一関門、皐月賞。昨年は単勝オッズ9.1倍(5番人気)のジオグリフが優勝を果たしました。荒れやすいという印象はないレースですが、実際のところはどうなっていますか?
伊吹 2000年代あたりの時期は波乱の決着が少なくなかったものの、2010年以降の過去13回に限ると、3連単の配当が10万円を超えたのは2017年(106万4360円)と2018年(37万2080円)の2回だけです。
M ただ、過去10年の単勝人気順別成績を見ると、3着以内馬30頭のうち9頭は単勝7番人気以下。人気薄の台頭も警戒しておいた方が良いのではないでしょうか?
伊吹 これが難しいところで、単勝7〜9番人気の馬は2013年以降[3-2-3-22](3着内率26.7%)と健闘していたものの、単勝10番人気以下の馬は2013年以降[0-0-1-82](3着内率1.2%)でした。わざわざ買い目を人気サイドに寄せる必要はないと思いますが、単勝二桁人気クラスの伏兵が上位に食い込んでくる可能性は低いと言わざるを得ません。
M そんな皐月賞でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ダノンタッチダウンです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。単勝二桁人気ということはまずなさそうな一方で、今回は人気の盲点となりそうな雰囲気でもあります。
M ダノンタッチダウンは昨年末の朝日杯FSで2着に食い込んだ馬。特別登録を行った馬のうち、GIで連対経験があるのはこの馬とトップナイフだけですから、実績上位の一頭と言って良いでしょう。
ただ、計6頭の重賞ウイナーや皐月賞トライアルで好走した馬たちにもそれなりの支持が集まるはず。ダノンタッチダウン自身もまだ1600mのレースしか使ったことがないうえ、今回は約4か月の休養明けですから、中心視しようと考えている方はそれほど多くないかもしれません。
伊吹 見方によって大きく評価が分かれそうですね。人気の中心となっているようであれば疑ってかかるべきだと思いますが、妙味あるオッズがつくようならばむしろ狙い目なのかも。少なくともAiエスケープはそう考えているようですし、私も好走馬の傾向を踏まえたうえで慎重に取捨を判断したいと思います。
M 最初にチェックしておくべきポイントはどのあたりでしょうか。
伊吹 馬格と直近のパフォーマンスです。2018年以降の3着以内馬15頭は、いずれも前走の馬体重が490kg以上だったか、前走の着順が1着、かつ2位入線馬とのタイム差が0.2秒以上でした。
M なるほど。馬格があるわけでも、前走を完勝しているわけでもない馬は強調できませんね。
伊吹 この条件に引っ掛かっている馬は、たとえ実績上位であっても評価を下げるべきだと思います。
M ダノンタッチダウンは前走の馬体重が536kg。超大型馬と言っても良いくらいですし、今回はその馬格がプラスに働くのではないでしょうか。
伊吹 あとは出走数も見逃せないファクターのひとつ。同じく2018年以降の3着以内馬15頭中14頭は、キャリア4戦以内でした。
M これはわかりやすい。キャリア5戦以上の馬は割り引きが必要ですね。
伊吹 このくらいの時期に施行されるビッグレースだと、豊富な経験はそれほどアドバンテージにならない模様。むしろ、少ないレース数で効率的に出走権を確保した馬の方が信頼できます。
M ダノンタッチダウンはキャリア3戦。3戦連続で収得賞金の積み増しに成功していますし、まだ底を見せていません。
伊吹 ただ、経験に関して言うと、ダノンタッチダウンはまだ中京以西のレースしか使っていない点が気掛かり。2018年以降の3着以内馬15頭中13頭は“東京・中山、かつ重賞のレース”において“着順が2着以内、かつ4コーナー通過順が2番手以下”となった経験のある馬でした。
M そもそも、ダノンタッチダウンは栗東の安田隆行厩舎に所属する関西馬。遠征の影響は少なからずあるでしょうね。
伊吹 私としては、中山芝2000m内に対する適性よりも、初めての関東遠征にどれだけ対応できるかを心配しています。
M 強調材料と不安要素をそれぞれ挙げていただきましたが、総合的な見解としてはいかがですか?
伊吹 今回は他の馬を中心視する予定なのですが、マイナス材料がちゃんとオッズに反映されそうですし、無理に嫌う必要はないかもしれません。おそらくAiエスケープも、能力や臨戦過程に関しては問題なしと見ているのでしょう。妙味ある伏兵の一頭として、しっかり買い目に組み込んでおきたいと思います。