▲天皇賞(春)出走予定のシルヴァーソニックの“相棒”池本啓汰調教助手(撮影:大恵陽子)
昨年、天皇賞・春のスタートで落馬し、ゴール後は外ラチを飛び越えて倒れたシルヴァーソニック。一時は全く動かず、心配した方も多かったことと思います。しかし、奇跡的に大きな怪我はなく、「寝ながら草を食べていたという噂も(笑)」というほどの大物。
復帰後はステイヤーズSで重賞初制覇、初海外となったサウジアラビアでレッドシーターフハンデキャップを快勝と、さらなる進化を見せています。再び挑む天皇賞・春を前に、担当する池本啓汰調教助手(池江泰寿厩舎)に伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
「来たよ」ファンレターやお守りはシルヴァーソニックに報告
──天皇賞・春以来となった昨年12月のステイヤーズSは、4コーナーで前が壁になる中、内ラチ沿いでジッと耐えに耐えて、直線は最内の狭いスペースから抜け出て勝利。レースぶりにシビれました。
池本 あんな競馬もできるんや、と思いました。元々は結構ズブさがあって、3〜4コーナーで他の馬がスピードを上げた時についていけず、でも追って追って最後はジリジリ来る、というレースでした。それが、直線でパッと前が開いて GOサインが出ると、スパーンと反応してくれました。
──天皇賞・春のアクシデントが尾を引いていないか心配していたファンもいると思いますが、レースぶりは進化したんですね。
池本 調教のタイムにも変化がありました。CWコースは自動計測化によって時計の出方が全体的に少し変わりましたけど、それでもズブさがあってラスト11秒前半で上がってこれるような馬じゃなかったのが、ステイヤーズSの前は11秒1で上がってこれるようになりました。成長なのかな、と思います。
▲調教の動きからも成長が伺えるシルヴァーソニック (撮影:大恵陽子)
──今年2月にはサウジアラビアへ遠征。シルヴァーソニックにとって初めての海外遠征でしたが、様子はどうでしたか?
池本 飛行機での輸送は待たされることもあるので、たぶんワン・アクシデントあるだろうな、と覚悟していました。そこからいかに現地で立て直すかを考えていたんですけど、めちゃめちゃ綺麗な体で到着したので「これは大丈夫だ」と思いました。賢かったみたいで、環境の変化などには動じながらも、乗り越える何かがあるんですかね。
■元気いっぱい! サウジでの調教風景 (提供:池本啓汰調教助手)
──そのおかげで、無事にレースへと向かえたわけですね。
池本 枠順抽選会の時、まだ池江先生が来ていなくて僕が行ったんですけど、最後の2〜3頭まで順番が回ってこなくて、内か外しか残っていない状況でした。「どうせなら内枠を引きたいな」と思って引いたら、一番枠を引けて、「これはいけるかも」と、その時にどこかで確信はありましたね。
──実際、好スタートから内枠を上手く利用して好位のインで運んで見事、勝ちました。
池本 勝って初めて泣きそうになりました。日本ではいつもゲート裏までついて行くんですけど、サウジではスタンドで見ていて、直線は「行けっ行け!」って叫んでいました。はたから見たら相当うるさかったと思いますけど、ゴールして現地のお手伝いさんと抱き合いました。
▲レース勝利後、シルヴァーソニックに駆け寄る池本助手(C)netkeiba.com
ゴール後転倒のまさかのアクシデント。その舞台裏
──昨年の天皇賞・春では相棒の死を覚悟したところからの海外重賞制覇ですものね。
池本 天皇賞のゴール後、外ラチを飛び越えて倒れて微動だにしないのが見えていましたから、そこに向かう途中は「これでお別れなんや…」と、ちょっと涙が出そうになりました。
──初めてデビュー前から担当した馬で、思い入れもひとしおのことと思います。しばらくすると起き上がってくれて、ホッとしました。
池本 奇跡ですよね。寝ながら草を食べていた、という噂も聞きますけど(笑)。
──えっ! 多くのファンが心配して見守っていましたが、想像の斜め上をいくマイペースっぷり(笑)。
池本 実際はどうか分からないですけど、草を食べながら待っていたなんて、あの子らしいなと思いました。でも僕はこれだけの馬でGIに臨めるということでレース1週間前からドキドキして、パドックでも吐きそうなくらい緊張して、レース後にこの出来事ですから、次の日は初めて寝込んでしまいました。原因不明の下痢になったりボロボロ。幸い、馬は何ともなくて打撲程度で済んだのでよかったです。
▲マイペースなシルヴァーソニック(提供:池本啓汰調教助手)
──あの直後も普通に歩けていたんですか?
池本 すぐに獣医さんと池江先生も駆けつけてくれてみんなで見たんですけど、歩様はいつも通りで、大きく崩れた感じはありませんでした。ただ、その後に目黒記念を予定していたところ、骨瘤が出て回避したので、目に見えない部分でかばっていたのかもしれないですし、見つけてあげられませんでした。
──ファンからも心配する声が届いたのではないですか?
池本 天皇賞の後に小さい女の子からすごく可愛らしいお手紙をいただいて、それでだいぶ僕も救われました。他にもファンレターやお守りもいただいて、それらは全部サウジに持って行って、レース当日は胸ポケットに全てのお守りを入れていました。
──ファンの応援がサウジでの勝利を後押ししてくれていたんですね。
池本 ファンレターやお守りは本当に嬉しくて、ちゃんとシルヴァーソニックにも「来たよ」って見せています。お守りはね、噛みつこうとしていました(笑)。ちゃんと読ませていただいています、とファンの方に伝えたいです。本当にありがとうございます。
■サウジのレース前…おまもり? たべれるの?(提供:池本啓汰調教助手)
今回もお守り持参で
──父オルフェーヴルも同じ厩舎でした。池江調教師や担当者から何か聞いていますか?
池本 話はいろいろ聞いていて、似ているとこもあるのかな、と感じます。一番似ているのは、馬房で捕まえに行くとぶわ〜って立ち上がって威嚇してくることです。天皇賞に向けた1週前追い切りの翌朝も、厩舎周りを運動中に5〜10分、ずっと立ち上がっていました。怪我をさせないようにドキドキですけど、落ち着いたらめちゃめちゃ可愛いです。
──その1週前追い切りも動いていましたね。
池本 動いていましたね。全体時計で見ると、タイトルホルダーにはちょっと劣りますけど。
──ライバルのことは気になって見てしまいますか?
池本 そうですね。新聞を見て「動いてるなあ」と。でも、競馬はやってみないと分からないですし、楽しみです。
──改めて現在の状態を教えてください。
池本 サウジでは検疫や輸送もあって、そんなに調教では攻めていませんでした。今回は、しっかり攻められているかな、と思うので、サウジ以上にさらに良くなってくれていると思います。元々は細くて今も460kgくらいしかないですけど、今回は放牧から帰ってきた時にふっくらと大きく見せていました。体重はそこまで増えていないですけど、体はしっかりしているのかな、と感じました。牧場さんでもしっかり乗り込んでくださったんだろうなと感じています。
──昨年の無念を晴らしたいですね。
池本 サウジで環境が変わってもあれだけ走ってくれたので、天皇賞(春)は何とか無事にレースに出て、無事にゴールしてくれれば、たぶんいい結果はついてくるんじゃないかな、と思っています。サウジの後もまたお守りをいただいて、今回も持っていこうと思っています。
▲ファンの方々の想いと一緒に…いざ、天皇賞(春)へ!(提供:池本啓汰調教助手)
(文中敬称略)