▲あの日、5分経っても電話が鳴らなかった… (提供:白浜由紀子)
障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、昨夏の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く新連載。
通常、落馬があると最速で検量室に連絡が入り、家族にも電話がいきます。ところが、その日は5分経っても電話が鳴りません。
長年バレットとして検量室にいた経験から、わかってしまうその“意味”。「今回の落馬はかなり大事になるかもしれない…」そう察した由紀子さんは──。
「最悪の事態もあり得る」子供たちを連れて小倉へ
2022年8月27日。あの日は、実家の両親が奈良にある祖母の家に行っていて実家に帰ることができなかったので、私と子供たちは滋賀県の自宅にいました。
騎手の子供のなかには、幼少期から競馬に興味を持ち、幼稚園のお迎えに来た同級生のパパでもあるトップジョッキーの姿を見て、「〇〇騎手だ!!」と興奮する子もいます。しかし、我が家の6歳の長男と4歳の長女は競馬に興味がないらしく、私がパパのレースを見るためにテレビを付けると「しんのすけにして!」「ダメ!しまじろう見るの!!」と騒ぎ出します。
あの日も「パパの応援ができたらおやつにするから! 一緒に応援しようよー!」と、騒ぐふたりをなだめつつ、ゲートが開くのを待っていました。
正直、レースの内容はよく覚えていません。スタートしてからの位置取り、レース運び、どこで落ちたのか……何もかもが思い出せないのです。
通常、落馬があると、人馬の状態を確認して救護するためにJRAの担当の方が現場に駆け付け、状況を検量室にいる職員さんに報告します。落馬した騎手が次のレースにも騎乗予定がある場合、乗れるのか、乗り替わるのか、乗り替わるのであれば騎手は誰になるのか、鞍は付け替えるのかなど、バレットが関係することだけでもすぐに決めて準備しなければならないことがたくさんあります。