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替えたくなければ替えなくていい──手前を替える本当の重要性は最後の直線にあらず【In the brain】

  • 2023年05月11日(木) 18時01分
“VOICE”

▲「手前は替えた方がいいのか?」川田騎手の見解は? (撮影:稲葉訓也)


「手前は馬が勝手に替えるもの? それともジョッキーが替えさせるもの?」という疑問に、川田騎手は「どちらのケースもある」と回答。

「手前を替えたくないなら替えなくていい」というのが川田騎手の持論だそうで、アーモンドアイのように何度も手前を替えるのも「馬の選択」だと話します。

とはいえ、それはあくまで最後の直線の話で、道中となると話は別。「道中はむしろ替えたほうがいい」というその理由についても伺いました。

(取材・構成=不破由妃子)

「手前」はロスのない競馬を組み立てる際の大事な要素


 ご存じの通り、陸上のトラック競技は左回りです。その理由には諸説あるそうですが、「人間は心臓が左側にあるため、左半身に重心がかかりやすい。よって反時計回りのほうが走りやすい」というのも一説だと聞いたことがあります。

 いっぽう、馬の心臓は前肢の上、体の中央にあるそうですが、何かに怯えて突発的に逃げる際は、ほとんどのケースで左に逃げると言われています。つまり、自らの命を守る際、本能的に左に逃げることがインプットされている。そういう習性を踏まえると、多くの競走馬は左回りのほうが走りやすいのではないかと僕は考えています。

 ただ、これはあくまでも動物としての習性をベースとした話であり、馬によって得手不得手はあれど、実際は右手前、左手前とその都度軸足を替えながら走っているわけで、いい状態でバランスよく走れる馬にとって回りは関係ない、というのが、ジョッキーとしての僕の実感です。実際、レースを組み立てる際に、右回りか左回りかを強く意識することはほとんどありません。

 回りによって、コーナリングがスムーズにいかないという馬は確かに存在します。でもそれは、もともと体に歪みがある、あるいはどこか痛いところがあって庇っているなど、理由があってのものだと僕は思います。先ほども書きましたが、ちゃんと身体が動き、身体全体を使って走れる馬であれば、回りを問わずにどちらの手前でも上手に走れますから。

“VOICE”

▲理由があってコーナリングがスムーズにいかないという馬は確かに存在します (撮影:稲葉訓也)


 というような話をしていたら、編集部の方から「手前は馬が勝手に替えるもの? それともジョッキーが替えさせるもの?」という質問が。「どちらのケースもある」というのが答えですが、本来は馬が自発的に替えるものです。

 この「手前」という言葉。「手前を替えてからグンと伸びた」「手前を替えずに伸び切れなかった」「手前を替えないまま勝った」など、勝因や敗因、あるいは新聞のレース回顧などでも頻繁に登場する単語ですよね。そこで今回は、この「手前」にまつわる僕の見解を少々書きたいと思います。

 これは人によって考え方が違い、何が正解というものではありませんが、最後の直線だけを切り取ると、「手前を替えたくないなら替えなくていい」というのが僕の持論です。なぜなら、一番苦しい最後の直線をどちらの手前で走るのか、替えるのか替えないのかは、馬が一生懸命に体を伸ばして頑張って走っているなかで、走りやすい方を選択していると思うから。

 アーモンドアイのように、何度も手前を替える馬もいますが、それも彼女の選択。無理に替えさせることなく、馬が走りやすいほうの手前で走ったほうが一番早くゴールラインに辿り着くと僕は思っていますし

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1985年10月15日、佐賀県生まれ。曾祖父、祖父、父、伯父が調教師という競馬一家。2004年にデビュー。同期は藤岡佑介、津村明秀、吉田隼人ら。2008年にキャプテントゥーレで皐月賞を勝利し、GI及びクラシック競走初制覇を飾る。2016年にマカヒキで日本ダービーを勝利し、ダービージョッキーとなると共に史上8人目のクラシック競走完全制覇を達成。

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