いよいよダービーウィークである。
先週のオークスでは「一強」のリバティアイランドが期待に応えて圧勝した。同じくダービーで「一強」と見られているソールオリエンスは、皐月賞同様、度肝を抜くような走りを見せてくれるだろうか。
終わってみれば、リバティアイランドはオークスで2着を6馬身突き放す前に、伏線というか、あとで振り返ると圧勝の「証拠」となる動きを見せていた。それは桜花賞の直線だけではなく、オークスの本追い切りのラスト1ハロンにもあった。川田将雅騎手「ストレッチする程度に走った」という強度だったにもかかわらず、10秒8というとてつもない時計を叩き出した。
このように、ビッグレースを完勝する馬は、終わってみればここにつながる強さを見せていた、という「証拠」を残していることが多い。最近の例で言うと、エフフォーリアの場合は、皐月賞まで、相手が強くなるたびに2着との着差をひろげていたこと。アーモンドアイの場合は、桜花賞後、クリストフ・ルメール騎手が「残り300mからずっと加速するのは珍しい」とコメントしていたことなどだ。こう見ていくと、飛び抜けて強い馬は、「証拠」を残すことが多いというより、「証拠」を残さずにはいられないのだろう。
ソールオリエンスもいくつもの「証拠」を残している。皐月賞のラスト3ハロン35秒5は2番目に速かった馬をコンマ9秒も上回っていた。過去20年の皐月賞で2番目の上がりに大きな差をつけて勝ったのは、2020年にコントレイルがコンマ5秒、2015年にドゥラメンテがコンマ6秒の差をつけているくらいで、2005年のディープインパクトでさえコンマ2秒差だった。というか、そもそも上がり最速の馬は過去20年の皐月賞でソールオリエンスを含めて7頭しか勝っていない。これらの数字が、ソールオリエンスの末脚の破壊力が絶対的であることを示している。
その他、1枠1番から勝ったのは、過去20年では2020年のコントレイルだけで、過去30年まで遡っても1994年のナリタブライアンが加わるだけ。2頭とも三冠馬だ。4コーナーで17番手から逆転して勝った馬も過去30年では見当たらず、2桁順位からの逆転勝利も、2016年ディーマジェスティ(10番手)、2011年オルフェーヴル(11番手)、1993年ナリタタイシン(12番手)の3頭のみ。
また、重馬場以上に悪化した馬場での勝利も、不良馬場だった1989年のドクタースパート以来のことだった。さらに遡ると1983年には三冠馬ミスターシービー、1980年にはハワイアンイメージが不良馬場で勝っている。そして50年前の1973年には、重馬場でハイセイコーが勝っている。
つまり、「重馬場」の皐月賞ということに限定すれば、ソールオリエンスの勝利は、ハイセイコー以来50年ぶりだったわけだ。
これも馬場不問ということで、ソールオリエンスの強さの「証拠」になり得ることではあるのだが、実は、微妙な部分もある。
大井から鳴り物入りで中央入りした「怪物」ハイセイコーは、9戦全勝で皐月賞を制したあと、NHK杯勝ちを経て臨んだダービーで、3着に敗れてしまったのだ。
先週の当欄にも書いたように、そのダービーを制したのが、谷川牧場生産のタケホープだった。
今年のダービーにも谷川牧場生産のファントムシーフが参戦する。「怪物」がいるというあたりも50年前に重なるし、鞍上がダービーで史上最多の6勝を挙げている武豊騎手というのが、他馬陣営にとっては怖い材料だ。昨年のドウデュースも、2002年のタニノギムレットも、そしてダービー初勝利の相棒となったスペシャルウィークも、ファントムシーフと同じく、皐月賞では3着だった。
「ダービーには勝ち方がある」という武騎手の言葉が真実であることは、結果が示している。
ソールオリエンスに乗る横山武史騎手は、まだダービーの勝ち方を知らない。それは人に教わるものではなく、馬に教わるものだ。武騎手だって最初は勝ち方を知らず、デビュー前に牧場で跨ってダービーを意識したダンスインザダークで2着に敗れる悔しさを味わい、「武豊はダービーだけは勝てない」などと言われた。しかし、2年後、スペシャルウィークが勝ち方を教えてくれた。今度はソールオリエンスが横山武史騎手に勝ち方を教える番か。
横山武史騎手は、一昨年、圧倒的1番人気に支持されたエフフォーリアで鼻差の2着に惜敗した。間違いないのは、あの敗戦を味わったことで、あのときの彼とは違う、さらに成長した騎手になっている、ということだ。
武騎手がダンスインザダークで敗れてからスペシャルウィークで勝つまで2年。横山武史騎手も、エフフォーリアからソールオリエンスのダービーまで2年。
タケホープからファントムシーフまでは50年。
歴史はどのように繰り返されるのか。90回目の「競馬の祭典」は、とてつもなく面白いレースになりそうだ。