この先の戦線に期待が高まった名レース
安田記念を連覇したソングライン(撮影:下野雄規)
GI勝ち馬が10頭も集結。まれにみる好カードとされた今年の安田記念は、想像された以上の中身を秘めた素晴らしいマイル戦となった。上位を占めたグループを中心に期待以上のレースが展開された結果だろう。
マイルGIの頂点に立つ「安田記念、マイルCS、ヴィクトリアマイル」は、エース級が簡単には崩れないレースとして育ってきた。もう分かりすぎたことだけに、いまさらリピーターに注意などとみんな言えなかったが、近年になるほど激しくリピーター大活躍のGIとなった。
最近10年に限定しても、今年のソングライン(22年1着、23年1着)、シュネルマイスター(21年3着、22年2着、23年3着)を筆頭に、「グランアレグリア、インディチャンプ、アーモンドアイ、アエロリット、ロゴタイプ、モーリス、ショウナンマイティ、グランプリボス」。計10頭が、2回以上3着以内に快走した馬になる。
今年のセリフォス(父ダイワメジャー)は、「22年4着、23年2着」なので、まだ複数回馬券に絡んだリピーターではないが、今回が10戦目の4歳馬。惜しい4着だったガイアフォース(父キタサンブラック)とともに、秋のマイルCS、来季の安田記念では当然のように主役に成長しているだろう。
快勝した5歳牝馬ソングライン(父キズナ)は、連覇を達成すると同時に、これで東京の1600m5勝目(GI3勝)。東京1600mではもまれない利がある外枠も味方したが、昨年よりずっと強かった。充実著しいキズナ産駒で、4代母は名牝ソニックレディ(マイルG1を3勝)。昨年はアクシデントで断念したが、今秋はアメリカのBCマイルに挑戦の可能性が高い。すでに海外遠征(サウジアラビア)で勝っているタフな牝馬であり、海外で活躍したディアドラと同じ一族でもある。
1番人気で3着のシュネルマイスター(父Kingmanキングマン)は、心配された馬場は回復、気負うレース前のロスも少なかったが、上がり32秒8の数字は最速でも、いつも以上に直線の反応が鈍かった。惜しい3着というより、ゴール寸前は4着ガイアフォースの追撃を受けて危うい3着の印象があった。中間に太め残りとされた馬体は理想の490キロだったが、絶好調時より迫力が乏しかった気がした。
一方、そのガイアフォースは惜しい4着。初のマイル戦だった前回と同じように中団追走。直線は馬群を切り抜けなければならない苦しい展開になったが、前走の1分31秒5(自身の上がり33秒2)に続き、今回も1分31秒6(上がり33秒3)。この距離に方向転換してまだ2戦目ながら、もうトップマイラーの記録である。同じ4歳セリフォスとともにまだまだスケールアップが望める。
初めての1600mの流れは厳しいのではないかと思われたジャックドール(父モーリス)は、1000m通過57秒6で主導権を主張したウインカーネリアン(父スクリーンヒーロー)を追って、自身は「57秒7-34秒0」=1分31秒7。慣れないペース追走とあって最後の追い比べで屈したが、初のマイル戦とすれば文句なしの内容だった。守備範囲が広がったのはこれから大きな強みになる。陣営は、「この秋の最初の目標は天皇賞(秋)の2000m」としている。
同じように強気な先行策に出たソダシ(父クロフネ)は、最後に鈍って「57秒8-34秒2」=1分32秒0。差は少ないが7着。初めて間隔の詰まった出走(中2週)がきつかったのか、追い出して苦しくなったが、意欲的に挑戦したのだから仕方がない。
この10年間では3位(史上4位)の勝ち時計1分31秒4以上に、今年の安田記念は接戦の好カードだった。秋の「1600-2000m」の重賞路線はさらに白熱するだろう。