世界の名手が集う「ワールドオールスタージョッキーズ」に出場する地方競馬代表騎手が今週6日、選定される予定です。
選定レースとなる「地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ」は2ステージ計4レースで行われるのですが、盛岡ステージ2戦を終えて暫定1、2位は20代の福原杏騎手(浦和)と落合玄太騎手(門別)。近年、全国の地方競馬場で見られる若い力の台頭を表しているようでもあります。世界戦へのたった1枚の切符をかけた戦いの「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
かつての同期と勝利を手にした落合玄太騎手
8月26日、27日にJRA札幌競馬場で行われるワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)。2015年に香港からジョアン・モレイラ騎手が参戦してその勝負強さを見せたほか、19年にはフランスからミカエル・ミシェル騎手が参戦し、“ミシェル・フィーバー”を巻き起こしました。
日本にいながら世界各国の名手を見られるWASJ。そこには地方競馬の騎手も1名参加することができます。
しかし、そのたった1枠への参加は1年間をかけた戦いの先にあり、あるトップジョッキーは「WASJに出場できたら引退してもいいくらい」と話します。
そんな貪欲さを持っているくらいですから、実現したとしてもきっと引退はしないんでしょうが、それほどまでに夢見る舞台だということです。
その理由の一つが選定方法。
まず、所属する競馬場でリーディング1位(年間ではなく年度)に立つことが第一条件になります。
そして、各地のリーディングが集う地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ(JCS)に出場し、優勝すること。
この2つの関門を突破してたどり着けるのがWASJなのです。
第二関門である地方競馬JCSはファーストステージが5月23日に盛岡競馬場で2レースが行われました。
第1戦を勝ったのは落合玄太騎手(門別)。
デビューした18年に57勝を挙げてホッカイドウ競馬の新人騎手最多勝記録を塗り替えたホープです。所属する田中淳司厩舎も何度も同競馬年間最多勝記録を塗り替え、JRAでもハッピーグリンで勝つなど押しも押されぬトップステーブル。
ハイレベルな厩舎でルーキーの頃から期待に応え続け、5年目の昨年、初めて門別リーディングに輝いたのでした。
▲ダートグレード競走でも勝利を挙げる落合玄太騎手。中京競馬場近くの高校で馬術部に在籍していたことも。現在25歳。
さらに、落合騎手とJRAとのつながりでいうと、20年北海道スプリントカップJpnIIIでは自厩舎のメイショウアイアンでマテラスカイ(JRA)にハナ差勝ってダートグレード初制覇。
また、サウジアラビアのリヤドダートスプリントを勝つなど活躍するダンシングプリンス(JRA)には同馬が地方在籍時に騎乗経験があったため、昨年の北海道スプリントCでコンビ再結成し、見事勝利を収めました。
地方競馬JCS第1戦では騎乗したチベリウスを担当するのが騎手候補生時代の同期とあって、「一緒に勝てて嬉しい」と思いも強かったようです。
▲かつての同期と勝利を掴んだ落合玄太騎手。残念ながら顔が隠れてしまっていますが、チベリウスを曳く赤いジャンパーの彼が同期です。
第2戦を勝ったのは福原杏騎手(浦和)。
落合騎手の翌年にデビューし、ルーキーイヤーの浦和での勝ち星は地元騎手の中でトップでした。
それにより、地方競馬JCSへの出場権を初めて手にした20年は減量騎手によるヤングジョッキーズシリーズ(YJS)とのダブル参加という史上初の出来事。
「みんなタイトに回ってきて、YJSとは違って内を狙ったりしぶとく行ったりしていると感じました」
当時、わずか3日間で両レースを経験したからこそ感じた点もあるようです。
ただ、当時はまだ地方競馬JCSには「参加させてもらっている」という雰囲気で、最下位で終えました。
ところが、3年経った今年は雰囲気に飲まれることなく、以前よりちょっぴり堂々と振る舞えていたように見えました。
レースでは1番人気馬をピタリとマークする3番手外から運び、直線で追い比べを制しての勝利。
▲第2戦は青柳正義騎手(金沢)との追い比べを制した福原杏騎手(浦和)が勝利。
「20年に初出場した時はいい着順じゃなかったので、勝ててよかったです。
昨日、トレーニングセールの公開調教を見学に行っていて、札幌競馬場でWASJ優勝騎手の手形を見て『自分も』と思っていました」
そう、WASJでは表彰式の後、優勝騎手の手形を取っていて、札幌競馬場内に飾られているのです。
それを見てモチベーションがさらに上がった福原騎手は、第1戦8着との合計34ポイントを獲得し、暫定1位でセカンドステージの7月6日園田競馬場へと向かいます。
▲22歳の福原杏騎手は史上初の「地方競馬JCSとYJSダブル出場」も経験。現在は地元・浦和を離れ、門別競馬場で期間限定騎乗を行っています。
「想像していた騎手人生よりも早くこの立場に」20代ゆえの苦悩
一方、第1戦を勝った落合騎手も第2戦1ポイントを加算し、合計31ポイントで暫定2位。
また、デビュー7年目で23歳の渡邊竜也騎手(笠松)も暫定4位22ポイントで、十分に優勝が狙えます。
笠松競馬は数年前に不祥事が起き、一気に騎手が引退。
渡邊騎手は不祥事の前から若手ホープとしてリーディング上位にランクインしていましたが、それによって押し出されるような形で笠松リーディングに立つことになりました。
本人も「自分が想像していた騎手人生よりもちょっと早めにこの立場になってしまった」と感じていて、戸惑いもあったことと思います。
しかし、そんな時に自身を奮い立たせてくれたのは笠松競馬年間最多勝記録を更新できる可能性と、常時交流のある名古屋競馬のトップジョッキー・岡部誠騎手の存在でした。
前者は昨年、164勝を挙げて新記録樹立を果たし、岡部騎手を憧れの存在としながらメンタル面など強化を続けています。
▲今年すでに100勝以上を挙げ、笠松リーディングを走る渡邊竜也騎手はまだ23歳ですが、少しずつトップとしての自覚が芽生えてきているようです。
それだけ20代の騎手が地元トップとして活躍し続けることは様々なプレッシャーと戸惑い、目標の置き方など難しい部分があるのでしょう。
全国のトップジョッキーが集うレースに20代の騎手が出場すること自体が珍しいですし、優勝となれば17年に25歳で出場した中野省吾騎手(引退)以来となります。
あの時は若さあふれる勢いと、感覚派とも天才肌とも感じられる言動に、衝撃を受けました。
ファーストステージを終えて上位にいる20代たちがこのまま優勝へ突っ走るのか、あるいは暫定3位宮川実騎手(高知)や同6位吉村智洋騎手(兵庫)などのベテラン・中堅たちが意地の逆転を果たすのか。
優勝者が決まる地方競馬JCSファイナルステージは7月6日、園田競馬場で行われます。