▲函館2歳Sに出走予定のバスターコールを管理する田村康仁調教師(C)netkeIba.com
デビュー前から好評判だった田村康仁厩舎のバスターコールが函館2歳Sに挑戦します。
「気性が激しい」というバスターコールの調教や新馬戦の振り返り、函館2歳S参戦の経緯などについてお話を伺いました。
また、先日JRA通算600勝を達成した田村調教師が開業から27年間大事にしてきたと話す、“諦めないで馬と接する”という厩舎の信条にも迫ります。
(取材・文=デイリースポーツ・刀根善郎)
今までやったことのない形に対応できたデビュー戦
──デビュー前から評判の馬でしたが、初見の印象は?
田村 デビュー前に北海道に行った時、厩舎長をはじめとした牧場スタッフから「すごく動きがいいんですよ。絶対に先生が気に入るような走りをしますから」と聞いていたのです。実際に厩舎に来たら、まさにその通りでしたね、よく乗り込まれていて、走りも非常に前向き。初めてウッドコースで追ったら、いきなり単走で5F66秒台を出せるくらい動けていました。
──調教で気をつけていたところはありますか?
田村 気性が激しいので調教が難しいところはあるのかもしれませんが、うちの厩舎のエース(高木大輔助手)が調教を担当しているので大丈夫です。彼は馬術にも長けていて、直近でもアスクビクターモアの調教を担当しています。私が“その鐙の長さだと危なくないの?”と心配しても「大丈夫ですよ。自分の手中に入っているから、絶対に持ってかれたりしません」と言いながら、鐙を長くしてフワッと乗ってきますよ。
坂路を使える時期は坂路を使ったり、下(コース)を使ったりして調教に幅を持たせながら、馬に無理強いをしないように調整していました。それがここまでうまくいっているのかなと思っています。
──6月4日・東京芝1400mの新馬戦を勝利しました。レースの印象はどうでしたか?
田村 スタートから前に行き過ぎていると思っていました。1000mの通過ラップが57秒8。函館の1000mを勝ったレースが57秒5だったことを考えると、この馬はそれより少し遅い程度のラップで、そこからさらに400m走っているのですから。
しかも気性が激しい馬なので、今まで目一杯追うような調教をしていませんでした。それなのに最後の直線は3頭併せの真ん中でがっちり追われるような、今までやったことないことにも対応したのだから大したものです。普通の馬だったら最後はバタバタになっていたでしょう。それを最後までしのぎ切るというのは、傍で見ているより相当タフなはずです。よく勝ち切ってくれました。
▲デビュー戦を勝利したバスターコール(撮影:下野雄規)
──前走後はノーザンファーム天栄への放牧を挟み、函館2歳Sに向かいます。参戦の理由を教えていただけますか?
田村 選択肢はたくさんありました。新潟にいいレースがあったりだとか、札幌に重賞があったりだとか。秋の中山にもマイル戦が組まれているでしょうからね。そんな色々な選択肢の中に函館2歳Sがありました。先ほど申し上げたように、1000mの通過ラップが速いレースを勝ち切ったことなど、色々なことを総合して考えると、1200mへの対応は十分に可能だろうと。そう判断した上でオーナーサイドと相談して決めました。
──6月30日に牧場から直接、函館競馬場に入厩しました。現地での馬の雰囲気はどうですか?
田村 初めての場所ですが、非常に頭が良くて学習能力が高い子なので問題ありません。コントロールが利く中で、角馬場での運動やダートコースでの調教がきちんとできていますので、ここまでの過程には満足しています。
──今回の重要なポイントはどんなところにありますか?
田村 洋芝に関しては特に心配していません。それよりも、気性の激しさや初めての環境で走るということで、まずは平常心できちんとレースに臨み、うまくゲートのスタートを決められるかということが最も大事です。距離に関しても1400mで勝ったとはいえ、1200mに対応できないことはないと思っています。
──将来の活躍ビジョンはどう描いていますか?
田村 デビュー戦の1400mを基準にして、今回は1200mに使いますけど、1400mを基準にすれば、マイルも大丈夫だろうと私は思っています。やはりマイルまでは持たせたいという気持ちもあって1400mから使い出したわけですからね。今回の結果次第にもよるのでしょうが、ここでいい結果が出れば、暮れの大きなレースが視野に入ってくるでしょう。ただ、今は目の前のレースでいい結果を出すことが大事です。
▲「今は目の前のレースでいい結果を出すことが大事」(撮影:下野雄規)
開業時から大事にしてきた“諦めないで馬と接すること”
──6月25日の東京2R(シルバーニース)でJRA通算600勝を達成されました。たくさんの馬を管理してきた中で、どんなことを大事にしていますか?
田村 これは開業の時からずっと言い続けていることなのですが、“諦めないで馬と接すること”ですね。調教師が諦めたらそこで終わりですし、スタッフにも絶対に諦めちゃいけないという話をしています。
例えば未勝利でどうにもならない馬でも何とかなるんじゃないのかと思いながら試行錯誤してもがくことが大事だと思っていて、それは未勝利や1勝クラスとか関係なく、一頭一頭が厩舎の礎になっていくのです。
こういう馬の時はこうだったよね、こういう馬の時はこうした方がいいよね、という引き出しをたくさん持っておくことが大事だと、27年前に開業した時から言い続けてきました。いい馬に巡り会えた時に対応できるようにするために、もがき続けること。
メジャーエンブレムが大きなタイトルを取ってくれたことが鮮明に残っているから、アスクビクターモアの菊花賞につながったのだと思いますし、そういう馬がいてくれたからこそ、バスターコールのような才能のある馬に出会った時でもきちんと調整できるのです。今は有名な馬の名前を挙げましたが、ここで名前を出さなかった馬たちも全部が厩舎の宝になっています。
▲2016年のNHKマイルCを制したメジャーエンブレム(撮影:下野雄規)
(文中敬称略)