▲過去に乗った4頭の名馬について振り返る(撮影:山中博喜)
これまで、調教などでも幾多の馬に乗ってきたという古川吉洋騎手。一時期は関東の名門・藤沢和雄厩舎の調教を手伝っていたそうで、シンボリクリスエスやゼンノロブロイとも意外な接点がありました。
その他にも、“ある出来事”さえなければ新馬戦でコンビを組む予定だったという桜花賞馬ラインクラフトや、実際に騎乗した“世界の”ロードカナロアの新馬戦での裏話についても、じっくりとお話しいただきました。
(取材・構成=不破由妃子)
藤沢和雄厩舎を手伝っていた過去「シンボリクリスエスとゼンノロブロイは真逆」
佑介 古ちゃんは、調教だけでもかなりいろんな馬に乗ってきていますよね。そのなかで、いまだにあの馬は忘れられへんなとか、すごかったなとか印象に残っている馬といえば?
古川 調教に乗ったなかでパッと出てくるのは、シンボリクリスエスとゼンノロブロイ、あとはラインクラフトかな。
──藤沢和雄厩舎を手伝っていたんですか?
古川 2カ月間くらいだったかな、一時期調教を手伝わせてもらっていたんです。初めてクリスエスに乗ったのは、確か3歳の秋。天皇賞の前の週か当週の軽いところを乗って。
佑介 僕がデビューする前かぁ。どんな背中だったんですか?
古川 まずは跨って、常歩(なみあし)をして、ダク(速歩)に下ろして…。調教助手さんが後ろにいたんだけど、ダクに下ろした瞬間、「え? 俺、この馬乗っていいの?」って。
──それくらいよかったということですか?
古川 いえ、逆です。めっちゃ歩様が悪かった。トモがもう本当にグラグラで、あれは衝撃的だったな。
佑介 もともと緩い馬だったんですね。
古川 そうそう。助手さんは、「これでもよくなったんだよ」って言ってたけどね。
▲「めっちゃ歩様が悪かった」と古川騎手が話すシンボリクリスエス(撮影:下野雄規)
佑介 それであの強さか…。
古川 引退前にも一度、速い追い切りに乗ったんだけど、その時点でもまだグラグラだった。でもね、そんな状態でも追い切りの終い11秒とか12秒なんて余裕しかないのよ。この馬、まだ全然ギアが上がり切ってないな、みたいな感覚。化け物やなって思ったよ。競走馬として完成している感じはまったくないのに、そのまま全部勝ってたんだから。
佑介 (クリスエスの成績を見ながら)すごい成績やけど…。
古川 まだ全然出来上がってないのに、引退するんや、みたいな(笑)。
佑介 その有馬記念は、2着以下を1秒5もぶっち切ってますからね。
古川 化け物だったと思うよ。あの馬を知ってからね、緩い=悪ではないんだなって思うようになった。逆に、ゼンノロブロイの印象は、典型的な“走る馬”。
佑介 真逆だったんですね。
古川 まさに真逆だった。1勝クラスを勝つ前に乗ったんやけど、乗りやすい、背中がいい、バネが利いているという「Theいい馬」。間違いなく走るよねって思ったよ。あそこまで全部そろっている馬はなかなかいない。
佑介 のちに天皇賞・秋、ジャパンC、有馬記念と、3連勝したんですもんねぇ。
古川 そんな馬なのに、1勝クラスを勝つ前に俺が乗って上がってきたら、厩務員さんが「この馬、500万を使うんだけど大丈夫かな?」って。心配性で、馬を大事にするすごくいい厩務員さんだったんだけど、「500万なら何の心配もいらない。目を瞑っていても勝ちますよ」って言ったの。条件クラスとはいえ、そこまで断言できたね。それくらい、いい馬だった。競馬では乗ったことがないけど、「本当のいい馬」という感触が今でも残ってる。
▲山吹賞(500万下)を横山典弘騎手とのコンビで勝利したゼンノロブロイ(撮影:下野雄規)
幻となったラインクラフトとのコンビ
──もう1頭はラインクラフト。