▲エルムSに出走予定のワールドタキオンを管理する斎藤誠調教師(C)netkeiba.com
デビューが遅れ、わずか1戦で地方競馬に移籍したワールドタキオン。移籍先の園田競馬でも勝ったり負けたりを繰り返していましたが、JRAに再転入すると3連勝で一気にオープンまで駆け上がりました。
その快進撃に「正直、ここまで成長しているとは」と、斎藤誠調教師も驚く進化っぷり。活躍の根底には、サマーセールで目を惹いた馬体のバランスの良さと理想的な成長がありました。
重賞初挑戦となるエルムSへ向けて、斎藤調教師に伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
「次にきっと良くなる」と思った矢先の悲劇
──ワールドタキオンは3歳4月にデビュー。すでに新馬戦が終わった季節でしたが、デビューが遅れた理由は?
斎藤 体が緩くてデビューが遅れてしまいました。デビュー戦は既走馬が相手で、そうなるとスタートの出方も違いますし、レースについていけないことも多いので、「ここを叩いて次にきっと良くなるよね」と横山武史騎手と話していたのを覚えています。
──レース経験がない分、ダッシュはあまりつきませんでしたが、直線で何頭か交わして10着でした。
斎藤 やはりそういう競馬になったんですけど、直線でちょっと伸びたんですよね。勝ち馬からは2秒3遅れましたけど、「最初としては上出来かな。次、頑張ろう」と話していたら、骨折をしてしまいました。
──さぁここから、というタイミングで残念でしたね。
斎藤 骨折したのが4月で、全治6カ月予定。そうなると、もうJRAでの未勝利戦(9月1週目まで)には間に合わないので、地方競馬に行くことになりました。
──そうして園田・姫路競馬の碇清次郎厩舎に移籍。園田では展開に恵まれず敗れるレースも何度かありましたが、最終的に4勝を積み上げました。
▲園田競馬場で4勝を挙げたワールドタキオン(写真はサルビア賞C1勝利時)(ユーザー提供:hirosukeさん)
斎藤「この馬でも負けるのか」と思いましたが、馬群に入ったり砂を被った時に負けてしまったのかな? と感じました。いま、JRAに戻ってきて3連勝していますけど、(斎藤)新には「スムーズな競馬をしてくれ」と伝えています。
──実際、3連勝ともにそういうレースになっていますね。
斎藤 先行できる器用さがあるので、外目のいいポジションを取れます。競馬が上手ですよね。再転入しての2勝は福島、新潟のローカル開催だったのでちょっと半信半疑だったんですけれど、本場の東京で勝った前走が王道の競馬で強かったので「本物だな」と。
──その前走は本場の3勝クラスで一気にメンバーも骨っぽくなりましたが、2馬身差で完勝でした。
斎藤 少しハイペースだったので、早めに先頭に立ってタレちゃうかな、と直線半ばまでは心配していたんですけど、後ろに脚を使わせる競馬になったので、強い内容だったと思います。
▲6月25日の東京10R甲州街道S(3勝クラス)を制した(撮影:下野雄規)
「こういう馬だからこそマル地になって花を咲かすのかな」
──地方からの出戻りで1〜2勝する馬はちょくちょく見かけますが、3連勝というのはかなりすごいことです。
斎藤 近年、競馬全体のサイクルが早くなっているので、こういった「成長してから」というタイプの馬にとっては辛いですけれども、だからこそマル地(地方競馬からの再転入)になって帰ってきて花を咲かすのかな、と思います。
──サラブレッドオークションの活況や、地方競馬の賞金増額などがあり、JRA未勝利馬は手放されたり地方へ完全移籍させるパターンも多いかと思いますが、オーナーサイドがJRAに戻す決断をされたことも大きかったでしょうね。
斎藤 最近は馬主さんも早い時期に諦める方が多くなっているのは事実です。ですので、ワールドタキオンも「よく戻ってきてくれたな」と思います。組合馬主さんで、初めて所有したのがこの馬。園田に行った後、JRAに帰れそうな状態なら戻そうという思いがあったようです。
──斎藤調教師も以前から期待を寄せていた馬なんですか?
斎藤 サマーセールで体のバランスが良くて選ばせてもらった馬なんです。セリの早い時間帯で、目の前を通った時に「これだ!」と目を惹く感じがありました。
▲サマーセールの時点から目を惹く体のバランス(ユーザー提供:柊アズキさん)
──では、地方から帰ってきてもかなりやれる手応えを持っていた、と?
斎藤 正直、ここまで成長してくれているとは思っていませんでした。園田での最後のレースは2着を1秒も離して勝ち時計も速かったですけど、それまで何度か負けていたので、「JRAではキツいんじゃないかな?」と感じていました。
でも、いい状態でこちらに渡してもらい、バランスのいい馬体に上手く筋肉が乗っていました。それを見て「これなら1勝クラスで通用するな」と思いました。再転入初戦の追い切りも結構いい走りで「これならいい勝負をする」と思ってはいましたけど、まさかポンポンと上まで行けるとは思っていませんでした。
──いい意味で予想を裏切ってくれたんですね。エルムSに向けての期待のほどはどうですか?
斎藤 ここ数日、美浦はだいぶ暑くなっていますけど、夏負けも見られず元気に調教を積めています。新ももう3回も乗っていますし、よく考えていると思うので、戦法は癖だけを伝えようと思います。馬主さんが息子(斎藤新騎手)のことを快く乗せてくださって、非常にありがたいです。
重賞で相手が強いので安易に強気なことは言えませんが、自分の競馬ができれば期待はできると思います。小回りでも対応できると思うので、鞍上と大きいところを狙ってほしいなと思います。
(文中敬称略)