8月1日、高知県南国市の田んぼで高知競馬の騎手と子どもたちによる稲刈りが行われました。今年で11回目となる今回もJRAの舞台で活躍したトップジョッキーから新人騎手、騎手生活36年の大ベテランまでほぼ全騎手が参加して、たくさんの笑顔を見せました。
子どもたちへの食育と、騎手の地域社会との関わりを目的とした稲刈りにまつわる「ちょっと馬ニアックな世界」を、たくさんの写真とともに振り返ります。
作業着で本気モードのジョッキーも!?
はじまりは2007年に赤岡修次騎手がワールドスーパージョッキーズシリーズ(現ワールドオールスタージョッキーズ)に出場し、総合3位となったことでした。
JRAでの世界戦を終えて高知に帰ってきた赤岡騎手は「何か社会活動をしたい」と考えはじめたところ、賛同したのが高知県南国市の農家・吉本正仁さんでした。
そこで、観劇や様々な体験活動を行う「NPO法人・高知市こども劇場」の子どもたちを招いて吉本さんの田んぼで田植えと稲刈り体験がスタート。
今では高知競馬のほぼ全騎手だけでなく、期間限定騎乗中の村上弘樹騎手(愛知)や所蛍騎手(船橋)も参加するなど、一大イベントとなっています。
騎手と子どもたちはペアを組んで稲刈り。騎手は自身の勝負服柄のマークを目印に持ち、子どもたちと田んぼへ向かっていきました。
稲刈りの方法は2種類で、コンバインによる機械刈りと、鎌での手刈り。
まずコンバインに乗ったのは井上瑛太騎手と女の子。
女の子がハンドルを握り、その横で井上騎手がサポートします。
▲競走馬ではなくコンバインに騎乗する井上瑛太騎手。
井上騎手はデビュー3年目の若手。
祖父が元騎手で、当時厩務員として高知競馬場で働いていたことから、自身も騎手を目指しました。祖父がそうだったように、井上騎手も骨太で体重調整に苦労した時期があり、減量特典を自主返納しました。
しかし、それによって減量を生かした逃げ切りだけに頼るのではなく、ペースや馬場を読んで控える競馬も収得。騎乗技術を磨いていき、好位や中団から差す競馬が目立っています。
続いてこちらは農協職員さんと子どもたち……ではなく、作業着は石本純也騎手。
▲慣れた手つきで稲を刈る石本純也騎手と子どもたち。「農家の嫁に来てほしい」とスカウトされるほど稲刈りが上手な子どももいるとか。
この作業着は園芸高校に通っていた当時のものだそう。
石本騎手は高校を中退して地方競馬教養センターに入所したのですが「どうせやるなら、一生懸命楽しくやりたいですよね」と、毎年この作業着で参加。
初めてこの服装で登場した時にはホンモノの農家の吉本さんからも「どこの農家か農協職員かと思った!」と冗談を言われていましたが、今ではすっかり定着して、人一倍、本気を見せています。
▲「岩手競馬のみなさんに元気な姿を見せちゃって」と、岩手から2019年に移籍してきた木村直樹騎手に声をかける石本純也騎手。
▲カメラを向けると不思議なポーズを決めた木村直輝騎手。高知に来て入籍もし、元気にしています。
今年4月にデビューした阿部基嗣騎手も参加。
初勝利を挙げた夜には所属厩舎の西山裕貴調教師がケーキを用意して自宅でお祝い会を開いてくれたそう。永森大智騎手や井上騎手も駆けつけるなど、先輩たちに可愛がってもらいながら奮闘中です。
この後には子どもから「あべきしゅへ」と書かれた可愛いお手紙をもらっていて、きっとレースを頑張るモチベーションになることでしょう。
▲初々しい笑顔を見せる阿部騎手。ファンからは下の名前で呼ばれたいようで「もっくん」「もっちゃん」などがニックネーム候補。
JRAで活躍したジョッキーたちも参加
ベテランやトップジョッキーも率先して参加するのが高知けいばイベントの特徴。
発起人の赤岡騎手は稲刈りをしつつ、地元テレビ局や新聞社の取材対応もして汗を流していました。
▲収穫されたお米は赤岡修次騎手が「ファーストキッス」と命名。
こちらはワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)コンビ。
8月下旬にJRA札幌競馬場で行われるJRAと世界選抜ジョッキーによる戦いに地方代表騎手枠が1つあるのですが、永森騎手(左)は2016年に出場。最終戦をメイクアップで勝ち、総合3位に輝きました。
稲刈りの直前の調教中に指を骨折したため、この日は見守り役でしたが、しっかり盛り上げていました。
その永森騎手が「僕はJRAで勝ちましたからね」とニヤリと煽った相手は先輩の宮川実騎手(右)。
今年、予選を勝ち抜いてWASJ地方代表騎手の座をゲットしました。
8月26日、27日に行われるWASJは宮川騎手にとってJRA初騎乗。後輩の茶化しに「勝ちたいんですけどね。行ってみないと分からないです」と、控えめながらも闘志を燃やします。
▲2016年WASJでミルコ・デムーロ騎手、武豊騎手に次ぐ総合3位だった永森大智騎手(左)と、今年のWASJへ出場が決まった宮川実騎手(右)。
そして、コンバインを一生懸命操作するのは騎手生活36年の大ベテラン・嬉勝則騎手。真冬に「寒い」と言いつつもクロックスを履く元気なベテランで、最近は一発逆転ファイナルレースで大活躍。ファイナルでは特に目が離せない存在になっています。
▲嬉勝則騎手は54歳の大ベテラン。それでいながら、後輩騎手からイジられるなど愛されキャラです。
この日、収穫されたコシヒカリ「ファーストキッス(赤岡修次騎手命名)」は、今後、高知県内各所や競馬場などでプレゼントされる予定です。
「今年のデキは完璧! 災害に遭わず、みずみずしくて美味しくできました」と農家の吉本さん。
ファンプレゼントなどで手にする機会もあるかと思いますので、ぜひみなさんも味わってみてください。
▲騎手と子どもたちで刈り取ったお米。