単勝オッズ6.8倍のアヴェラーレが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝1番人気馬があまり勝ち切れていない点をどう見るか
AIマスターM(以下、M) 先週は関屋記念が行われ、単勝オッズ6.8倍(4番人気)のアヴェラーレが優勝を果たしました。
伊吹 着差以上の完勝と言って良いのではないでしょうか。スタートが決まり、一旦は前に行きそうな素振りも見せましたが、無理せず先行勢を先に行かせ、道中は中団のインコースを追走。すぐ前を走っていたディヴィーナ(2着)らがゴール前の直線に入っても進路を阻む形となり、なかなか先行勢との差を詰められなかったものの、残り200m地点のあたりでロータスランド(12着)とラインベック(3着)の間に持ち出し、そこから鋭く伸びてディヴィーナを差し切っています。枠順や脚質を考えると、他の勝ち筋はあまりなかったはず。戸崎圭太騎手の冷静な手綱捌きも、それに最高の形で応えてみせたアヴェラーレも、お見事と言うほかありません。
M アヴェラーレは2走前の豊橋Sを勝ってオープン入りを果たしたばかり。久々の重賞挑戦となった前走の京王杯SCで4着に健闘していましたが、半信半疑だった方も少なくないはずです。
伊吹 ただ、この距離や左回りのレースに対する適性の高さは証明済みでしたし、5歳とはいえまだ今回が通算14戦目で、伸びしろは十分。そのうえ、先週の当コラムで紹介した好走馬の傾向にも合致している馬でしたからね。ちなみに、前回挙げた3つのポイントを綺麗にクリアしていたのは、アヴェラーレ・ディヴィーナ・ラインベックの3頭だけ。ある意味、極めて順当な決着だったと言えるでしょう。
M 重賞制覇を果たしたことで、次走以降はさらに注目度が高まるのではないかと思います。
伊吹 母のアルビアーノはHarlan's Holiday産駒の外国産馬で、現役時代に重賞を2勝。3歳時のNHKマイルCで2着、4歳時の高松宮記念で3着となった実績もある馬です。今回の勝ちっぷりや血統的なポテンシャルの高さを考えると、大舞台でも十分に通用しそう。今後が楽しみで仕方ありません。
M 今週の日曜札幌メインレースは、下半期のビッグレースを見据えた中長距離路線のトップホースが集う注目の一戦、札幌記念。昨年は単勝オッズ4.6倍(3番人気)のジャックドールが優勝を果たしました。豪華なメンバー構成になる年が多い分、伏兵の台頭はそれほど多くない印象ですが、やはり堅めの決着をイメージしておいた方が良いのでしょうか?
伊吹 そんなことはないと思いますよ。単勝1番人気の支持に応えて優勝を果たしたのは、現在のところ2011年のトーセンジョーダンが最後。人気の中心となっているような馬だけでなく、単勝4〜6番人気あたりのゾーンも好走率はやや高めです。
M なるほど。前評判通りの決着ばかりではない、と。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気の馬は2013年以降[5-1-0-4](3着内率60.0%)、単勝3〜8番人気の馬は2013年以降[5-4-6-45](3着内率25.0%)、単勝9番人気以下の馬は2013年以降[0-1-1-63](3着内率3.1%)となっていました。単勝二桁人気クラスの超人気薄まで手を広げる必要はないかもしれませんが、妙味あるオッズがついている実績馬を見逃さないよう心掛けるべきでしょう。
M そんな札幌記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ウインマリリンです。
伊吹 話の流れを考えると、ちょうど手頃なところかもしれませんね。単勝1〜2番人気の支持を集める可能性は低いものの、単勝二桁人気クラスの超人気薄ということはないはず。
M ウインマリリンは昨年末の香港ヴァーズでG1初制覇を果たしたばかり。国内においても、2022年のエリザベス女王杯や2020年のオークスで2着となった実績があります。ただし、前走のドバイSCで6着に敗れてしまったうえ、休養明けでもある今回は、懐疑的に見ている方もそれなりにいらっしゃるのではないでしょうか。
伊吹 昨年の札幌記念は2着のパンサラッサから1馬身1/2差の3着でした。バッサリ切ろうと考えている方はそれほど多くないと思うのですが、今年もかなり強力なメンバー構成ですし、積極的に狙おうとしている方は案外少ないかもしれません。もちろん、Aiエスケープが注目馬に挙げてきたくらいですから、実力的にもオッズ的にも、狙う価値は十分にあるはず。この評価を踏まえたうえで、私はレースの傾向からウインマリリンの好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 単純に実績馬が強いレースである点は押さえておきたいところ。2018年以降の3着以内馬15頭は、いずれも既にGIやGIIのレースを勝ち切ったことがある馬でした。
M これはわかりやすい。重賞未勝利馬はもちろん、GIIIのレースしか勝っていない馬も強調できませんね。
伊吹 今年もこの条件をクリアしている馬はさほど多くないので、手を広げ過ぎてしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M ウインマリリンは国内でも2020年のフローラS、2021年の日経賞、同じく2021年のオールカマーを勝っている馬。実績上位の一頭と見て良さそうです。
伊吹 似たような話になりますが、同じく2018年以降の3着以内馬15頭中13頭は、ビッグレースからの直行組でした。
M 前走がGI以外のレースだった馬は3着内率4.9%。相当に苦戦していますね。
伊吹 ちなみに、前走との間隔が中6週以内だった馬は2018年以降[0-0-0-29](3着内率0.0%)と3着以内なし。サマー2000シリーズの対象レースではあるものの、シリーズチャンピオンを目標としているような馬はしばらく上位に食い込めていません。
M 先程も触れた通り、今年のウインマリリンはドバイSCからの直行を選択。前走との間隔は中20週ということになりますが、この臨戦過程を不安視する必要はなさそうです。
伊吹 おっしゃる通り。あとは馬齢が6歳である点をどう見るかでしょう。
M こちらもはっきりと明暗が分かれています。
伊吹 馬齢が6歳以上だったにもかかわらず3着以内となったのは、2020年2着・2021年3着のペルシアンナイトだけでした。ご存じの通り、ペルシアンナイトは2017年のマイルCSを制しているうえ、同じく2017年の皐月賞でも勝ったアルアインとクビ差の2着に健闘した実績があった馬。よほどこのレースが向いていそうな実績馬でない限り、高齢馬は疑ってかかるべきなのかもしれません。
M ウインマリリンもG1ウイナーですし、昨年の札幌記念で馬券に絡んでいるわけですから、このレース向きと見ても良さそうですが……。
伊吹 ただ、今年はこれらの条件を綺麗にクリアしている馬、すなわち比較的若い実績馬がそれなりにいますからね。もちろん、私も無印にするつもりはありませんでしたし、Aiエスケープが高く評価しているのであれば、ある程度は素直に信頼して良さそう。問題は、連軸に相応しい存在か否かという部分でしょう。このあたりは、上位人気馬との力関係や最終的なオッズも踏まえたうえで慎重に判断したいところです。