▲今回のテーマは「脚質」について(撮影:稲葉訓也)
競馬ファンが予想をする中で、多くの人が注目する“脚質”について。その馬の基本性能や返し馬での感触、メンバー構成、馬場状態、枠順といった全ての要素を加味して競馬を組み立てると話す川田騎手が考える“脚質”の概念に迫ります──。
そして最後には、今週末の札幌記念でコンビを組むプログノーシスが追い込み馬たる所以についてもお話しいただきました。
(取材・構成=不破由妃子)
イクイノックスは「どんな競馬もできる馬」には当て嵌まらないと想像
──8月の競馬は2週が終わったところですが、開催4日間で18回騎乗して12勝。勝率66.7%という異常ともいえる数字を叩き出しています。
川田 確かに数字だけを見ると異常ですね(笑)。でも、そういう馬たちに乗せていただいていますし、その馬たちを勝ち切らせるのが僕の仕事ですから。
──「The川田将雅」という騎乗が多いなか、珍しいなと思ったのが、8月5日のティルドーン(新潟8R・3歳上1勝クラス・ダ1800m)。それまで逃げたことのないティルドーンを、テンから押して押して逃げさせて、そのまま逃げ切り勝ち。川田さんの場合、そもそも逃げること自体が珍しいと思うのですが、それ以上にテンから主張していったのが珍しいなと思って。
川田 1枠1番でしたし、返し馬の感触から、たとえば内々の2、3番手で外から被せられながらも脚をタメて…というタイプではないと判断したので。もし外枠だったら、違う競馬の選択もありました。
──「初めての逃げ」は、馬にとってリスクもありますよね? たとえば戸惑ったり。
川田 馬によりますね。たとえば、返し馬ですごく物見をしている、周りを気にして進まないという馬は、レースでハナまで行けたとしても、やはり進まない。それに、もし物見をして外に飛んで行ったりしたら、周りに迷惑を掛ける可能性があるので、そのリスクを背負ってまでハナに行かせることは絶対にしません。その点、ティルドーンは、返し馬でちゃんと1頭で走れていた。1枠1番という枠に加え、返し馬で見極めた結果、逃げるという選択をしました。
▲結果、1馬身半差で逃げ切り勝ち(撮影:下野雄規)
──なるほど。予想紙では、逃げ・先行・差し・追い込みと4つにカテゴライズされている脚質ですが、川田さんのなかでは、そもそもそういった概念はない?
川田 基本性能として、ざっくりとは意識しますよ。まずは、それまでどういう競馬をしてきたのかを事前に把握したうえで、実際に返し馬で乗り、ああこういう馬なんだなと把握する。その日感じたことでベターだと思う選択した結果、それまでしてきた競馬とは違う競馬をすることもあります。
以前にもお話ししたことがありますが、僕にとって返し馬とは、何ができて何ができないのかを把握する時間であり、それが競馬につながっていく。ティルドーンのように、そこにその日のメンバー構成、馬場状態、枠順を加味して組み立てた競馬が、その日の競馬、その日の走りということですね。あと、厩舎によっても脚質のカラーがありますよね。
──ああ、かつて松田博資厩舎の馬が、ゆっくり加速していくよう作られていたように。
川田 そうです。逆に、前々で競馬ができるように馬を作っている厩舎もあります。それは馬の特性を見極めて…というより、厩舎としての作りがそうさせているということですね。
──そう考えると、脚質とは「人が作っているもの」という側面もある。ジョッキーによって、戦法の得手不得手もあるでしょうし。
川田 逃げて勝つことは、ジョッキーにとって楽な選択でもあります。逆に、人が作った流れに乗っているほうが楽な選択、というレースもある。一概にどちらのほうが簡単とは言い切れませんが、少なくとも馬群のなかで競馬をし、そこから勝ち切るためには、「ここがこうなるから、ここにスペースができるな」とか、ペースや周りの流れを読む能力が必要になってくる。それができなければ、差す競馬で勝つ確率は下がりますよね。
逃げる馬、一番後ろから追い込む馬というのは極端な例であり、18頭のうち2頭しかできない競馬。16頭はそれ以外の競馬をするなかで、毎度ポジショニングが違う競馬をしているわけです。だから、対応できることが多ければ多いほどいろんな競馬ができて、より勝つことに近づく。僕がたくさん関われる環境で素直な馬であれば、どんな競馬にも対応できるように教えていきたいなとは思いますけど、そういう馬は少ないのが現実です。だからこそ、その馬ができることとできないことを正しく感じて、その日のレースに対応することが大事になってきます。
──いろんな競馬に対応できるというと、それこそイクイノックスのような。
▲初めて逃げる形となったドバイシーマCでも圧巻の走りを見せたイクイノックス(撮影:高橋正和)
川田 イクイノックスは、またちょっと違うと僕は思います