単勝オッズ3.7倍(1番人気)のアスコリピチェーノが新潟2歳Sを制覇(撮影:小金井邦祥)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
伏兵の台頭も警戒しておきたいハンデキャップ競走
AIマスターM(以下、M) 先週は新潟2歳Sが行われ、単勝オッズ3.7倍(1番人気)のアスコリピチェーノが優勝を果たしました。
伊吹 新潟2歳Sにおける前走の距離が1400m以下だった馬の成績は、2013〜2022年が[2-2-3-66](3着内率9.6%)、2019〜2022年が[0-1-0-21](3着内率4.5%)。近年の傾向からは強調しづらい臨戦過程だったのですが、アスコリピチェーノはむしろコース替わりがプラスに働いた印象です。
デビュー戦と同じく、今回も序盤は行きたい馬を先に行かせる形となり、道中は中団の外めを追走。ゴール前の直線に入ってからも、迷わず馬場の外めに持ち出しています。逃げたショウナンマヌエラ(2着)が懸命に粘り込みを図っていて、残り200m地点のあたりではまだ少し差があったものの、そこからさらにしぶとく伸び、最後は逆に1馬身の差をつけてゴール。
能力や適性の高さを信じていたかのような北村宏司騎手の手綱捌きもお見事でしたし、着差以上の完勝と言っても良いのではないでしょうか。
M アスコリピチェーノは無傷の2連勝で重賞初制覇。半兄にオープン特別を2勝したアスコルターレが、近親にローズSを勝ったタッチングスピーチやJBCレディスクラシックの勝ち馬ファッショニスタらがいる血統で、デビュー前からそれなりに注目を集めていました。
伊吹 実は私も、いわゆる「POG本」などでこの馬を推奨していたのですが、思ったよりも人気になってしまい、プライベートのPOGでは指名することができなかったんですよね。
POG期間中の勝ち馬率や一頭あたり賞金が高いダイワメジャーの産駒ですし、母のアスコルティもJRAでデビューした産駒がすべて勝ち上がりを果たしている優秀な繁殖牝馬。「ドラフト中位くらいで指名できれば理想的だな……」などと考えず、ドラフト上位の枠を惜しみなく使って獲りに行くべきだったのかもしれません。
M この後はおそらく阪神JFを目標に調整されるのではないかと思います。
伊吹 新潟2歳Sに出走し、なおかつJRA2歳GI(阪神JF・朝日杯FS・ホープフルS)で優勝を果たした馬は、現在のところ2008年朝日杯FSを制したセイウンワンダーが最後。2009年以降に限ると、新潟2歳Sに出走した経験がある馬のJRA2歳GIにおける成績は[0-3-0-43](3着内率6.5%)、新潟2歳Sで連対した経験がある馬のJRA2歳GIにおける成績も[0-3-0-14](3着内率17.6%)です。
ただ、こうした傾向が不安視されるようだと、年末の大舞台で実力を過小評価される可能性もありそう。今回のパフォーマンスを冷静に評価したうえで、どう扱うべきかを慎重に見極めましょう。
M 今週の日曜新潟メインレースは、サマー2000シリーズ最終戦の新潟記念。昨年は単勝オッズ22.0倍(10番人気)のカラテが優勝を果たしました。
なお、その2022年は2着が単勝オッズ21.7倍(9番人気)のユーキャンスマイル、3着が単勝オッズ7.5倍(3番人気)のフェーングロッテンで、3連単70万9120円の高額配当決着。波乱含みのハンデキャップ競走という印象ですが、単勝人気順別成績はどうなっていますか?
伊吹 過去10年の3着以内馬30頭中12頭は単勝7番人気以下。人気薄の伏兵を積極的に狙って良いレースと言えそうです。
M 上位人気馬の成績が極端に悪いわけではないものの、単勝4〜6番人気あたりの馬があまり上位に食い込めていませんね。
伊吹 ちなみに、単勝14番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-39](3着内率0.0%)ですが、単勝4〜13番人気の馬は2013年以降[5-6-7-82](3着内率18.0%)で、単勝回収率が151%、複勝回収率が108%でした。単勝二桁人気クラスの馬にも十分チャンスがあると見るべきでしょう。
M そんな新潟記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、プラダリアです。
伊吹 話の流れからすると少々悩ましいところを挙げてきましたね。今年のメンバー構成なら実績上位ですし、おそらく上位人気グループの一角を占めることになりそう。
M プラダリアは昨年の青葉賞を勝っている馬。その後は勝ち切れていないものの、格の高いレースで善戦し続けており、前走の宝塚記念でも6着に健闘しています。他にも注目を集めそうな馬がいるとはいえ、場合によってはかなりの支持が集まるかもしれません。
伊吹 人気薄を狙いたくなるレースではあるものの、おそらくAiエスケープは、妙味ある伏兵が見当たらないと見ているのでしょう。この見解を踏まえたうえで、私はレースの傾向からプラダリアの好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 最大のポイントはどのあたりですか?
伊吹 まずは近走成績を素直に評価したいところ。前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.3秒以上だった馬は2019年以降[3-2-0-40](3着内率11.1%)ですし、3着以内となった5頭のうち4頭は“同年の、JRAの、GI・GIIのレース”において6着以内となった経験がある馬でした。
M 大敗直後、かつ年明け以降に格の高いレースで善戦した実績もない馬は強調できませんね。
伊吹 おっしゃる通り。直近のパフォーマンスに何らかの不安がある馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M プラダリアは年明け以降にGI・GIIのレースを4戦しており、いずれも6着以内に好走。ついでに言うと前走の1位入線馬とのタイム差も0.4秒でしたから、この傾向は強調材料のひとつと言えそうです。
伊吹 もうひとつチェックしておきたいのは、古馬重賞における実績。2019年以降の3着以内馬12頭中9頭は、“JRAの、3歳以上・4歳以上の、重賞のレース”において2着以内となった経験がある馬でした。
M 厳密に言うと、プラダリアはこの条件に引っ掛かっていますね。
伊吹 まだ重賞で連対を果たしたことがない馬はもちろん、2歳・3歳の重賞でしか優勝を争ったことがない馬も、疑ってかかった方が良いかもしれません。
M ただ、プラダリアは3歳時の5月に青葉賞を勝っているわけですし、今年に入ってからも日経新春杯と京都記念でそれぞれ3着に健闘している馬。無理に嫌う必要はなさそうですが……。
伊吹 確かに、この一点だけをもって軽視するのは悪手でしょう。個人的には、血統や脚質の方が気掛かり。同じく2019年以降の過去4年に限ると、父がサンデーサイレンス系種牡馬、かつ前走の4コーナー通過順が5番手以下だった馬は期待を裏切りがちでした。
M こちらもなかなか興味深い傾向です。
伊吹 今年はこの条件に引っ掛かっている馬が意外と多いので、例年以上に注意した方が良いと思います。
M 人気を集めてしまいそうなうえ、レースの傾向からも強調しづらいとなると、危険な実績馬と見ておいた方が良いのかもしれませんね。
伊吹 もっとも、これだけの実績馬ですし、他ならぬAiエスケープが有力と見ているわけですから、極端に評価を下げる必要はないでしょう。私自身、オッズや当日の馬場コンディションなども踏まえたうえで、買い目上の最終的な位置付けを決めるつもりです。