高知競馬でいま一番の話題はユメノホノオという3歳馬。先日、14年ぶりの高知三冠馬に輝いたのですが、そのレースぶりは衝撃的で、カメラに映らないほどの出遅れをしたかと思えば、2周目向正面ではポルシェのような異次元の加速力で一気に先頭に立って勝利を挙げました。オルフェーヴルのような破天荒さとも、ディープインパクトのような優等生な強さともまたちょっと違った魅力を持った馬。
そんなユメノホノオの高知三冠の歩みを「ちょっと馬ニアックな世界」で振り返っていきましょう。
蹄に弱さを抱えるも、怪我の功名で試行錯誤の末…
ユメノホノオがデビューしたのは昨年7月の高知競馬。
今でこそ9連勝で高知三冠馬に輝きましたが、デビュー戦は4着で、2戦目で初勝利を挙げました。
その後、3連勝で臨んだ重賞・黒潮ジュニアチャンピオンシップは序盤に砂を被って嫌がり、中団やや後方までポジションを下げました。実はその前走で3番手内から抜け出して勝っているのですが、逃げ馬より少し内を通ることで砂を被っておらず、今回が初めての経験。向正面で砂を被らない外に出すと脚を伸ばしたのですが、先頭までは届かず4着でした。
「全然進んでいかなかったです……」
と、鞍上の郷間勇太騎手は悔しそうな表情。
残念ながら、様々な要因から次走からは吉原寛人騎手が手綱をとることになりました。
しかし、この敗戦が糧となり、その後の連勝街道へとつながったのです。
吉原騎手との初コンビは昨年11月の準重賞・土佐寒蘭特別。
最内枠で序盤はやはり進みが悪かったですが、外に出して追い出されると8馬身差で圧勝します。
さらに年末の重賞・金の鞍賞は2秒1もの大差をつけて圧勝。
「一か八かで外に出してステッキを入れたら、ギュイーンとすごい脚を繰り出してくれました。郷間騎手が乗って敗れた日は外が伸びづらい馬場でしたし、僕はたまたまいいタイミングで乗せていただきました。気難しさも感じますが、すごい馬ですね」
そう話した吉原騎手。
エンジンがかかってからの脚は驚異的な一方、気持ちが乗らずに不発のまま終わる可能性も孕んでいることが、レースを重ねるたびに明らかになっていきました。
さらにもう一つの不安は、距離。
こういった末脚を生かす馬ですから、長距離の方が競馬はしやすいと吉原騎手も考えていました。
ところが、高知三冠の一冠目・黒潮皐月賞は1400m。
ここは避けて通れず、何とか機嫌を損ねずに真面目に走ってくれれば、と願うところに強敵が出現します。
それは、兵庫ジュニアグランプリ(JpnII)3着の実績を持つデステージョ。
ユメノホノオが来るのをインで待ち構え、4コーナーからは大接戦。実況の橋口浩二アナウンサーが「火が出るような叩き合い」と言うほどの激しい追い比べとなりました。
馬体を併せたままのゴールは、ユメノホノオがアタマ差で勝利。のちに連勝を9まで伸ばすユメノホノオが、その連勝中で最も他馬に迫られたレースでした。
これだけ迫られたのには、距離ともう一つ理由がありました。
管理する田中守調教師はこう話します。
「前走後、レース時の接触か何かでトモ(後肢)を地面に着けられなくなり、1週間ほどしっかり休ませました。元々、蹄に弱さを抱えていたのですが、この機会に蹄を削る角度を変えたり、新しい蹄鉄を試すなどして、それが上手くいきました。ただ、状態は正直、まだまだ良くなる途上でした」
そういった状況でも接戦を制したのですから、底力を改めて感じます。
吉原騎手も「12番枠で中途半端な外々の競馬になり上手に乗ってあげられなかったのに、馬の底力だけで凌いで勝ってくれて、改めてすごい馬だと思います」と、ホッとした笑顔を見せました。
「普段は亀みたいにのそのそ歩く」も、ポルシェのような加速力
何とか底力で高知一冠目を手にしたユメノホノオは徐々に状態もアップ。
南関東から強豪馬を迎えた高知優駿ではゲートの出を良くするため、「尾持ち」という、ゲートの後ろで厩務員などが尻尾を引っ張り上げることで馬の態勢を整え、スタートを切れるようにする方法が取られました。
この尾持ち、ゲートが開くタイミングに合わせて尻尾を離さねばならず、その呼吸を合わせる点に難しさがあったり、馬によっては嫌がったりマイナスに働くことも稀にあります。
そして、ユメノホノオはまさかの後者。
少しトモを落としたような中途半端な態勢で固まってしまい、大きく出遅れてしまったのです。
場内はどよめきに包まれましたが、腹を括った吉原騎手はユメノホノオを急かし過ぎることなく後方から運び、向正面に入った瞬間、追い出しました。
すると、軽自動車をポルシェが追い抜いていくような、圧倒的なスピードで一気に先頭に立つと、南関東で重賞2勝を挙げるポリゴンウェイヴ相手に2秒1差をつけて楽勝して見せたのです。
▲ポルシェのようなスピードで高知優駿を制覇したユメノホノオ
調教を担当する元騎手の山頭信義厩務員は
「日々ケアをしてくれている担当厩務員と装蹄師のおかげです。普通の馬の2倍の頻度で来てもらっていました。普段は亀みたいにのそのそ歩くんですけど、基礎スピードが違う馬で、他馬では耐えられないような内容の調教をこなしています」
と話すと、安堵の笑顔を浮かべました。
▲引き上げてきて担当の山頭厩務員と喜びを分かち合う吉原騎手
その後、14年ぶりの高知三冠がかかる黒潮菊花賞には当初の予定通りぶっつけで出走。
課題のゲートも、全馬一団となって好スタートを切りました。
スタートさえ出ればきっと大丈夫、とひと安心したところ、「今日もユメノホノオ、後方からとなりました」という実況。
実は、他馬がスタートした時、ユメノホノオはまだゲートの中に留まっていて、中継カメラに映らないほど出遅れていたのです。
それでもやっぱり向正面に入った瞬間に加速スイッチが入ると、一気に先頭に立ち、食い下がるデステージョを抑えて優勝。
衝撃的なレースで高知三冠馬に輝いたのでした。
強いけど、必ずどこかでハラハラさせてくれるユメノホノオ。
レース中はジェットコースターに乗っているような緊張感と興奮を与えてくれます。
関係者にとっては「もっと安心できるレースをして」と願いたくなるでしょうが、このレースぶりもまたユメノホノオの魅力なのです。
現在は休養中。
しっかり英気を養って、また高知でどきどきハラハラのレースを見せてくれる日を楽しみに待っています。
▲ユメノホノオと吉原騎手のコンビのこの先が楽しみだ