単勝オッズ3.7倍(2番人気)のソウルラッシュが京成杯AHを制覇(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
超人気薄の伏兵が波乱を演出した例も少なくないレース
AIマスターM(以下、M) 先週は京成杯AHが行われ、単勝オッズ3.7倍(2番人気)のソウルラッシュが優勝を果たしました。
伊吹 貫録勝ちですね。好スタートを決めて流れに乗り、道中は積極的に出していった各馬のすぐ後ろを追走。残り600m地点のあたりでポジションを3番手に押し上げ、余裕のある手応えでゴール前の直線に入っています。残り200m地点を過ぎたところでウイングレイテスト(2着)が完全に抜け出し、そのまま押し切られそうな態勢に見えたのですが、そこからさらに力強く伸び、最後は完全に捕らえ切って入線。結果だけ見ればタイム差なし(クビ差)の接戦だったものの、ソウルラッシュの負担重量が59kg、ウイングレイテストの負担重量が57kgだったことを考えても、着差以上の完勝と言えるのではないでしょうか。
M ソウルラッシュは2022年の読売マイラーズC以来となる自身2度目の重賞制覇。GI・GIIのレースで馬券に絡んだことのある馬はこのソウルラッシュとウイングレイテストだけでしたし、順当と言えば順当な決着だったのかもしれません。
伊吹 さらに言うと、重賞を複数回勝ったことがある馬は、今回と同じ中山芝1600m外のターコイズSを2連覇しているミスニューヨーク(3着)のみでした。ソウルラッシュは単勝2番人気、ウイングレイテストは単勝5番人気、ミスニューヨークは単勝8番人気にとどまっていて、最終的には3連単3万3920円の好配当決着となりましたが、これまでの実績を素直に評価した方からすると、妙味十分だったのではないかと思います。ハンデキャップ競走という特殊な条件でなければ、この3頭の組み合わせにはもう少し多くの支持が集まっていたでしょう。
M ソウルラッシュはこれまでに出走したGI競走でもそれなりに注目を集めていた馬。5歳馬ではあるものの、今後が楽しみですね。
伊吹 2022年の安田記念(13着)、2022年のマイルCS(4着)、2023年の安田記念(9着)は、好走馬の傾向からやや外れていたこともあり、私自身はそれぞれ過信禁物と見ていました。結果的にその見立ては正解だったわけですが、今回のパフォーマンスからもわかる通り、GIで上位に食い込むことができるくらいの素質馬であるのは間違いありません。この馬の強みや弱みをいま一度しっかり復習したうえで、次走以降の扱い方を考えていこうと思います。
M 今週の日曜阪神メインレースは、1〜3着馬に秋華賞の優先出走権が付与されるトライアル競走のローズS。昨年は単勝オッズ2.7倍(1番人気)のアートハウスが優勝を果たしました。その2022年は3連単の配当が1万7780円にとどまったものの、リアアメリアが勝った2020年は3連単113万9000円の高額配当決着。やはりある程度は伏兵の台頭を警戒しておくべきなのでしょうか。
伊吹 過去10年の3着以内馬30頭中12頭は単勝7番人気以下。人気薄の馬を積極的に狙っていきたいレースです。
M 単勝1番人気馬は3着内率60.0%とそれなりに健闘していますが、単勝4〜6番人気あたりの馬があまり上位に食い込めていません。
伊吹 単勝2番人気の馬は2013年以降[1-2-2-5](3着内率50.0%)、単勝16番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-16](3着内率0.0%)だったものの、単勝3〜15番人気の範囲内はどのゾーンも3着内率に大きな差がなく、2013年以降[5-7-7-107](3着内率15.1%)でした。魅力的な伏兵が見つかったら、たとえそれが単勝二桁人気クラスでの人気薄であっても、強気の姿勢で勝負するべきでしょう。
M そんなローズSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ブライトジュエリーです。
伊吹 話の流れからすると悩ましいポジションの馬を挙げてきましたね。人気の中心ということはなさそうですが、上位人気グループの一角に入ってきそうな気も。
M ブライトジュエリーはデビュー2戦目のフローラSで3着に食い込んだ実績のある馬。前走のマカオJCTで2勝目をマークし、収得賞金の上積みに成功しています。特別登録を行った馬のうち、重賞で馬券に絡んだことがあるのはこの馬を含めてもわずか4頭。実績上位の一頭と見る向きもあるでしょうから、相応の支持を集めると見ておいた方が良いかもしれません。
伊吹 重視するにしても軽視するにしても、買い目作りのポイントとなりそうですね。Aiエスケープが高く評価していることを踏まえたうえで、ここから先はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきましょう。
M 最大のポイントはどのあたりだと見ていますか?
伊吹 今年は前走の距離が明暗を分けそう。2018年以降の過去5年に限ると、1800m以下のレースを経由してきた馬は苦戦していました。
M 2020〜2022年の施行コースは中京芝2000mだったので、その影響もありそうですが……。
伊吹 阪神芝1800m外で施行された2018〜2019年に限っても、前走の距離が1800m以下だった馬は[0-1-0-11](3着内率8.3%)。2017年に該当馬がワンツーフィニッシュを決めた例はあるものの、2016年以前まで遡っても、1800m以下のレースを経由してきた馬の好走率はそれほど高くありません。
M なるほど。ブライトジュエリーは前走の距離が2200mですから、高く評価して良いのではないでしょうか。
伊吹 あとはこれまでの実績や直近のパフォーマンスも素直に評価したいところ。“JRAの、GIのレース”において13着以内となった経験がある馬は2018年以降[4-2-3-20](3着内率31.0%)と比較的堅実でしたし、この経験がなかったにもかかわらず3着以内となった6頭は、いずれも前走の着順が2着以内、かつ前走の上がり3ハロンタイム順位が2位以内でした。
M ブライトジュエリーはまだGIのレースを使ったことがない馬で、前走の着順こそ1着ですが、前走の上がり3ハロンタイム順位は3位。厳密に言うとこの条件をクリアできていません。
伊吹 まぁ、前走の上がり3ハロンタイム(35.2秒)は2位の馬と0.1秒差でしたし、この一点だけをもって大きく評価を下げる必要はないと思います。
M 今回は前走から中9週での参戦となりますが、この点についてはいかがでしょう?
伊吹 こちらは不安要素のひとつと見ておいた方が良さそう。オークスからの直行組を除くと、前走との間隔が中8週以上の馬は期待を裏切りがちでした。
M 確かに、この傾向を見てしまうと少々気掛かりですね。
伊吹 余談ながら、今年は前走との間隔が中2週以内の馬もそれなりにいるので、該当馬は扱いに注意しましょう。
M これらの状況を踏まえたうえで、伊吹さんはこの馬をどう評価していますか?
伊吹 正直に言ってしまうと、積極的に狙いたい馬ではありません。ただ、他ならぬAiエスケープが推奨しているわけですし、今回は思いのほかメンバー構成に恵まれた印象。最終的なオッズを確認したうえで、無理に嫌うメリットはないと判断できた場合は、素直に押さえるつもりです。