▲スプリンターズSにテイエムスパーダとのコンビで出走する富田暁騎手(C)netkeiba.com
セントウルSをテイエムスパーダで勝利し、見事重賞初制覇を飾った富田暁騎手。師匠の木原一良調教師との記念すべき勝利に思いもひとしおです。
デビューから6年半…悔しい思いを重ね「このまま勝てないのかな」という気持ちを打破するきっかけとなったのは、あるレースでの敗戦だったといいます。次の大舞台スプリンターズSを前に、現在の心境と意気込みをうかがいました。
(取材・構成:不破由妃子)
「格別だった」師匠・木原調教師との重賞初勝利
──セントウルSでは、14番人気テイエムスパーダで鮮やかな逃げ切り勝ちを決めました。重賞初勝利、本当におめでとうございます!
富田 ありがとうございます!
──藤岡佑介騎手との対談「with佑」でお話をうかがったばかりで、そのときに「ここから這い上がれるかもしれないし、落ちていくかもしれない。僕は今、その狭間にいるんじゃないかと思っているので。まだそれほど楽しめてはいないんですけど、狭間にいるからこそ、今の状況をもっと楽しめるようになりたい。たぶん重賞を勝ったりしたら、もっと楽しくなると思うし…」とおっしゃっていたのが印象的です。霧が晴れたようなところはありますか?
富田 そうですね。ひとつ目標としていたことがクリアできたので、それは素直にうれしいです。
▲14番人気での鮮やかな逃げ切り勝ち「素直にうれしい」(C)netkeiba.com
──しかも、セントウルS当日は、特別戦ばかりを3戦3勝。5番人気(能勢特別・アレグロモデラート)、9番人気(オークランドTRT・メイショウミツヤス)、14番人気(セントウルS・テイエムスパーダ)ですから、なんかゾーンに入っていたような…。
富田 どうなんですかね(苦笑)。2つ目を勝ったとき、確かに「あれ?」っていうような感覚はあったんですけど、「でもな…」と思って。けっこう周りからも「次(セントウルS)ももしかしたらあるんじゃない?」と言われましたが、人気もなかったですし、「さすがにそんな上手くはいかないですよ」なんて話をしていたら…。
──その「もしかしたら」が現実になった。
富田 もちろん、馬が頑張ってくれたからこそですが、こんな日もあるんだなって思いました。
──しかも、テイエムスパーダは自厩舎の馬ですからね。記念すべき重賞初勝利として、これ以上のシチュエーションはない。3月に五十嵐忠男厩舎から転厩してきた1頭ですが、どんな印象を持っていましたか?
富田 北海道に行く前に2〜3回跨って、「いい馬だな」という印象を持っていました。北海道から帰ってきて久々に乗ったのが追い切りだったのですが、以前よりさらに馬がよくなっていたので、いい感触を持ってレースに臨めましたね。
──6枠11番からのスタート。何が何でも行くぞ! という気概が見て取れました。
富田 レース前に先生から「この馬のレースを」という言葉をいただいていたので。僕も勝つならこの形しかないと思っていたし、攻めていったというか、「この馬の競馬をしよう」と腹を括っていたところはありました。道中のペースも、オープンであの週の馬場を考えたら速くはなかったですし、かといってあんまり引きつけ過ぎても…と思っていたので、一番いい形になったと思います。
──勝利を確信したのは?
富田 ターフビジョンをチラッと見たら、思ったより後ろと差があって。そこで「このまま行ければ…」と勝ちを意識しました。
──終わってみれば、1馬身の余裕を持ってのトップゴール。師匠の木原調教師にとっても格別の勝利だったでしょうね。
富田 先生にとっても、ちょうど重賞10勝目という区切りの勝利だったんです。めちゃくちゃうれしそうにされていましたし、「暁と勝ててよかった」と言ってくださって…。
去年のアイビスサマーダッシュのシンシティもけっこう自信があって、「先生と一緒に勝てるかな」と思っていたんですけどね。2着に負けてしまって、すごく悔しい思いをしました。そんな思いを経てのセントウルSだったので、本当に格別でした。
▲弟子との記念すべき勝利に木原調教師も「暁と勝ててよかった」(C)netkeiba.com
1番人気での敗戦をきっかけに強まった“後悔のない競馬”への意識
──デビューから6年半、重賞は49回目の挑戦でした。振り返ると、長かったなぁという印象も?
富田 後輩が続々と重賞を勝っていくなかで、正直、もう勝てないのかと…。今年のエルムSは1番人気だったじゃないですか(ペプチドナイル13着)。そこでも勝てなくて、本当に悔しい思いをして…。「このまま勝てないのかな」と思ったりもしました。でも、あのエルムSがきっかけになったのは確かです。後悔のない競馬、自分のしたい競馬をしなければと思いましたし、自分自身、変わりたい、変わらなければと強く思えたので。
──セントウルSは、その気持ちが前面に出ていましたね。
富田 エルムSでのあの経験がなかったら、たぶんああいうレースはできなかったと思います。悔しさも含め、これからもずっと心に残っていくレースだと思いますし、改めてすべてがつながっていることを感じますね。
──セントウルSの成功体験が、今度はスプリンターズSにつながっていく。ジャスパークローネ、モズメイメイなど同型がいますが、今の富田騎手に迷いはないのでは?
富田 はい。速い馬がいるのはわかっていますが、僕も自信を持って出していきたい。とにかくテイエムスパーダの競馬をしたい、それだけです。
──重賞をひとつ勝ったことで、“風”が変わったのは確かです。今後は、「狭間にいる今」をもっと楽しめるようになるのでは?
富田 どうなんですかね(笑)。まだ(重賞を勝って)間もないので…。ただ、楽しく乗ろうという意識が強くなっているのは感じます。まずはスプリンターズSですが、もっとGIに乗れるようになりたいし、何より勝ちたい。そのためには、僕自身まだまだ変わる必要がありますし、変わっていきたいと思っています。頑張りたいです。
(文中敬称略)