現れた“新星”ママコチャと短距離戦線の今後
スプリンターズSを制したママコチャ(撮影:下野雄規)
行きたい馬がそろい、厳しいペースの展開から1分07秒台前半の高速決着も予測されたが、開催最終週とあって今週は全体に少しソフトなタイムのかかる芝コンディション。
また、先行タイプの徹底先行がなく、早めに隊列が決まったこともあり、ペースはあまり速くならず前後半「33秒3-34秒7」(最後12秒3)=1分08秒0。勝ち時計は必ずしも速くはなかったが、レースの中身が平凡ということはまったくない。
短距離界の新星ママコチャ(父クロフネ。この日引退が発表されたソダシの全妹)が勝ってGI制覇を達成し、ハナ差2着に惜敗のマッドクール(父ダークエンジェル)も4歳の上がり馬。9頭も出走していた4歳馬が上位7着までのうち6頭を占め、スプリント界の勢力図が変わりつつあることを示す結果となった。
1200m挑戦がまだ2戦目だったママコチャ自身の内容は「33秒5-34秒5」。1分07秒4(小倉)で乗り切った前走の北九州記念とは前半の行きっぷりからして異なり、他馬と接触して行く気になったこと、猛ペースではなかったこともあり、4コーナーではもう先頭に並びかけていた。3勝を記録している1400mには1分19秒0(上がり33秒0)の京都外回りのタイレコードがあり、1分31秒7(新潟)の圧勝のあるマイル戦までは平気。1200mのリズムに慣れてくれば、スプリント戦の内容もさらに進展するはずだ。種牡馬クロフネの送った平地GI(JpnI)馬は9頭目。うち7頭が牝馬となった。
そのクロフネと同じザテトラーク(1911)を経由した芦毛を持つマッドクールは惜しかった。好位で巧みに流れに乗ると、内ラチ沿いを進んでコースロスを防ぎ、直線もイン寄りに突っ込んだのが大正解。迫力あふれる532キロの馬体から力強く伸びた。ママコチャよりキャリアは浅く今回がまだ10戦目。名種牡馬となったダークエンジェルは伝統の英ミドルパークS(芝6F)の勝ち馬。マッドクールの背景は欧州タイプのスプリンターながら1分06秒9の勝ち鞍があり、今春の中山では重馬場の1200mでキミワクイーンを封じて勝っている。タフな芝コンディションは大歓迎と思える。
1番人気で3着にとどまったナムラクレア(父ミッキーアイル)は、途中でなんとか外に回ろうと苦心していたが、ライバルが人気のナムラクレアに進路を空けるわけもなく、道中せまくなるなど厳しい展開が待っていた。今回の内枠はかなり不利、かつ苦しかった。
これでGI通算【0-1-2-3】。早くから頭角を現していたのでベテランのような印象もあるが、今回がまだ15戦目の4歳牝馬。たしかに運の強い馬ではないが、母サンクイーンIIはタフな産駒を送る種牡馬バゴのいとこ。まだチャンスは再三あるはずだ。
ダッシュで上回り、テイエムスパーダ(父レッドスパーダ)が引く形になったので途中から単騎逃げになった4着ジャスパークローネ(父フロステッド)は、比較的楽なペースになったため、逆にママコチャ以下に早めに来られる形になったが、粘って0秒4差。もう一歩の粘りを欠いたが、現時点の能力はほぼ出し切っている。
2番人気のアグリ(父カラヴァッジオ)を筆頭に、後半を33秒台でまとめた馬はキミワクイーン、エイシンスポッターの3頭だが、ともに流れに恵まれなかったと同時にソフトな芝に切れ味を削がれた結果か。期待したアグリの場合は、セントウルSから中2週。ふつうはとくに無理のないローテーションだが、セントウルSが激走だっただけに、今回は心持ち気配が落ちていたように映った。
5着メイケイエール(父ミッキーアイル)、8着ピクシーナイト(父モーリス)の2頭はともに今回のデキは上々と見えた。馬体も良かった。ただ、メイケイエールは前半ずっと口を割ってのロスが最後の詰めを欠いた要因だろうし、ピクシーナイトもあの位置から伸びなかったあたり、完全復活はまだだった。だが、ともにまだ5歳。巻き返しの可能性は十分に残っている。