▲はしゃぐ子供たちの本心とは(撮影:桂伸也)
障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、昨夏の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く新連載。
落馬入院後初めて子供たちを連れて病院に面会へ行くと、感動の再会に感極まる雄造騎手を横目に、自由な子供たちはひっちゃかめっちゃか(笑)。
病院の職員さんも爆笑してしまうほどの大騒ぎでしたが、由紀子さんはそんな子供たちの本心がわかっていました──。
「ママひとりで行ってきて! オラは止めとく!」
夫の帰宅願望は転院願望へと変わり、リハビリへのモチベーションも高まったようでした。モチベーションを保ってくれるのはとてもいいことなのですが、「回復したい」という気持ちではなく、「自宅近くに帰りたい」という気持ちだけでリハビリに取り組んでいる様子でした。
あと5カ月間も続く長い入院生活──。はたして、今の思考のままでモチベーションを保ち続けることができるだろうか…。とても心配になりました。
子供であれば、「回復<帰宅」という思考になることも仕方がないと思うのですが、夫は43歳の男性で、ましてやJRA騎手。プロとして回復のためにリハビリに取り組み、有意義な入院生活を送ることができなければ、望むものを手に入れることは難しいのではないかと思いました。
白浜雄造一個人としては、家に帰りたいと思ったり、モチベーションを保つのが難しいと感じることもあるかもしれません。でも、夫はプロの騎手なのです。ほかの騎手のみなさんがそうであるように、どんなに苦しくても立ち向かい、プロとして強固な精神力を持ち、乗り越えようと努力をしてほしいと私は思っていました。たとえ願いが叶わなくても、そのストーリーを通して、勇気を与える存在であってほしいとも思いました。
10月27日、木曜日。
この日は入院してから初めて子供たちを連れて面会に行くことにしました。脳に刺激を与えることが大切だと聞いていたので、子供たちに会うことで何かいい変化があるのではないかと思ったからです。病院側はさまざまな配慮をしてくださり、2日間の面会許可をいただきました。
面会時間内に小倉に到着しなければならないため、普段よりずいぶんと早い時間にこども園に子供たちを迎えに行きました。
息子は私の顔を見ると「まだ帰りたくない!」と言い、なかなか教室から出てきませんでした。仕方がないので、「今から小倉に行きます!! パパに会いに行きます!! パパが会いたいって言ってるよ!!」と大きな声で叫ぶと、「小倉は遠い…。テレビ電話で話せるよ! パパに我慢するように伝えたら? ママひとりで行ってきて! オラは止めとく!」と…(苦笑)。
思いのほか、乗り気ではない子供たち(笑)。テレビ電話でいいなんて現代っ子やなぁと感心していると、お友達数人も息子に加勢し、収集がつかない事態に。
これからひとりで幼い子供をふたり連れて新幹線に乗るのか…とうんざりしていると、その間に担任の先生たちが子供たちを説得してくれました。そして、「お父さんと会えるんだね! よかったね!」と目に涙を浮かべながら、「いってらっしゃい!」と送り出してくださいました。
余談ですが、息子のクラスの担任の先生は、幸さん(幸英明騎手)の娘さんの幼馴染なんですよ。
こども園では乗り気ではなかった子供たちですが、家に到着する頃にはパパに会うことが楽しみになったようで、自分のリュックにいろいろなおもちゃを詰め込み、ワクワクしながら準備を始めました。
落馬の一報を受けたときは、飲み物さえ持たずに新幹線に飛び乗ったので、子供たちは小倉に到着するまで騒ぎ続け、そのテンションのまま病院へ…。とても大変でした。ですが、今回はお菓子やジュース、暇つぶしアイテムもたくさん用意して新幹線に乗車。とてもスムーズに小倉に到着することができました。
小倉駅からはタクシーで病院へ。受付で手続きを済ませ、指定された場所で待っていると、車椅子に乗った夫がやってきました。子供たちの姿を見て、感極まった夫──泣き出してしまいました。