▲妻・由紀子さんが素直に転院を喜べなかった理由とは?(撮影:桂伸也)
障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、昨夏の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く新連載。
壮絶な落馬事故から2カ月経ち、この日は主治医面談の日。“希望と現実”が入り混じる15の報告を受けたのち、具体化した関西への転院時期を伝えるべく夫・白浜騎手のもとに向かいます。
以前から強く希望していた「転院」という事実を素直に喜ぶ夫。その姿を見た妻・由紀子さんは強い違和感を覚えて…?
転院報告を喜ぶ姿にクギを刺したワケ
11月2日、水曜日。
子供たちを連れての面会から6日後のこの日、受傷2カ月、入院1カ月が経過した時点の見解と現状報告ということで、主治医との面談がありました。私は、「自分の足で歩く姿が見られるといいな」という希望を胸に小倉に向かいました。
主治医と担当の療法士、ソーシャルワーカーさんと私の4人で面談がスタート。以下に箇条書きでまとめてみましたが、たくさんの報告がありました。
◎傾眠傾向はかなり改善され、回復曲線は急上昇している。
◎ただ、夜になると意識障害が出ることもあり。
◎手足を含め、かなり回復をしている。
◎骨折箇所もよくなっている。腰のコルセットもそろそろオフしてもよさそう。
◎麻痺に関しても、日常生活を送るぶんには問題のないところまできている。
◎椅子からひとりで立ち上がることもできている。
◎筋肉が落ちているので、できないこともある。筋力を徐々に元に戻していきましょう。
◎身体のバランスを取る機能に後遺症が出ている。細かな動きや、高度な動きをするためのリハビリが必要。このあたりの改善が今後の課題。
◎お風呂や着替えなどは、安全のために見守りがついているが、自立できている。完全自立も見えてきている。
◎脳の損傷による後遺症で、頭を使うと疲れやすい。さまざまな能力が落ちているため、リハビリで改善を目指さなければならない。
◎たとえば、何か問題が起こったとき、それを解決するために必要な問題解決能力。人は、さまざまな案のなかから一番合理的な方法を瞬時に考え、判断をする。計画力は脳の働きのなかでも高度な能力で、エネルギーが必要。今は問題解決のために適切な方法を考えて選び出す、深いところに思考が行きつくまでに疲れてしまい、到達できていない。
◎現状、どこまで深い思考力を持っているのかのテストで、「騎手の方は怪我が多いですか? みなさんご苦労なさってますか?」と質問した。「怪我は多いけど、程度も回復度合いもそれぞれ。人と比べるものではない。今の僕はできないことが多く、落ち込んでしまうことも多い。でも、できるようになるために頑張ります」と返答があった。この答えは非常に高度。
◎「今は〇〇ができないから、〇〇をしないといけない」と知能として高度な先を見据えた話をすることもあり、今後の回復にかなり期待ができる。
◎先週から面会が続き、回復曲線が上昇した。面会が回復を促したように感じる。面会をしやすくするためにも、このあたりで転院を。11月末に転院できるよう、調整に入る。
◎関西へ転院する前に、救急で運ばれて1カ月入院していた九州労災病院へ診察に行き、転院の許可を得てきてほしい。
元々の運動能力が高いこともあり、先生方が思っていたより回復スピードが早く、今後にも期待が持てるとも言っていただきました。私にとって、これ以上ないうれしい報告です。そして、転院の話も具体的になり、夫も喜ぶだろうと思いました。
医師との面談の後は、夫との面会です。ロビーで待っていると、向こうから自分の足で歩いてくる夫の姿が目に入りました。