単勝オッズ2.4倍(1番人気)のブレイディヴェーグが優勝(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝二桁人気の馬はここ11年連続で馬券に絡んでいない
AIマスターM(以下、M) 先週はエリザベス女王杯が行われ、単勝オッズ2.4倍(1番人気)のブレイディヴェーグが優勝を果たしました。
伊吹 完勝と言って良いのではないでしょうか。今回もスムーズなスタートを切ることができず、ゲートを出た直後に内ラチ側へヨレてしまいましたが、その後はすんなりとスピードに乗り、1コーナーを最内の5番手で通過。道中もハーパー(3着)のすぐ後ろにつけ、インコースをキープしたまま3〜4コーナーを通過しています。
ゴール前の直線でハーパーや後続勢が馬場の外めに持ち出す中、ブレイディヴェーグはやや内め、馬場が荒れていた部分からわずかに外れた絶妙なコースを進路に選択。残り200m地点を過ぎたところで先頭のアートハウス(13着)を捕らえ、内から迫ってきたルージュエヴァイユ(2着)の追撃も凌ぎ切り、セーフティリードを保ったまま入線しました。C.ルメール騎手の手綱捌きは最初から最後まで完璧だったと思いますし、単勝1番人気馬にこんな競馬をされてしまったら、他の馬はなす術がありませんよね。
M ブレイディヴェーグはGIどころか重賞を勝ったことすらなかった3歳馬。デビュー5戦目での古馬GI制覇は、2022年天皇賞(秋)のイクイノックスと並ぶJRA史上最少タイの記録だそうです。
伊吹 デビュー後に2回骨折していることもあって3歳牝馬クラシックの2競走には出走できず、ローズS(2着)で優先出走権を獲得した秋華賞も大事を取って回避することになりましたが、デビュー戦からずっと単勝1番人気の支持を集めているように、もともと素質は高く評価されていました。
とはいえ、古馬GIともなればレース経験の豊富さが明暗を分けることも多く、キャリア4戦、さらにGI初挑戦の立場で勝ち切るというのはとんでもないこと。そんなディスアドバンテージが問題にならないくらい、この馬自身のポテンシャルが高かったということでしょう。もし万全のコンディションで秋華賞に臨んでいたら、かなりの確率でリバティアイランドとも良い勝負ができていたのではないかと思います。
M そうなると、今後も目が離せませんね。
伊吹 短距離向きの産駒が多いロードカナロア産駒ではあるものの、京都芝2200m外を問題なくこなしたわけですから、距離適性の影響でパフォーマンスが落ちる心配はあまりないタイプと見て良さそう。ヴィクトリアマイルが施行される東京芝1600mにも難なく対応してきそうです。
強いて懸念材料を挙げるならば、大阪杯が施行される阪神芝2000m内、宝塚記念が施行される阪神芝2200m内といった、ゴール前の直線が短いコースでどこまでやれるかといった部分。まぁ、次走以降に関しては海外遠征を含めて様々な選択肢があると思いますし、目標が定まってからじっくり扱いを考えていきましょう。
M 今週の日曜京都メインレースは、現役トップクラスのマイラーが一堂に会する注目の一戦、マイルCS。昨年は単勝オッズ9.2倍(6番人気)のセリフォスが優勝を果たしました。なお、その2022年は単勝オッズ26.0倍(8番人気)のダノンザキッドが2着に食い込んだこともあり、3連単14万2650円の好配当決着となっています。
伊吹 ただ、3連単の配当が10万円を超えたのは2014年(19万3290円)以来で、実に8年ぶりだったんですよね。2015〜2021年の計7回に限ると、3連単の配当は2017年の5万5890円が最高。2020年は3連単4480円、2021年も3連単5460円の低額配当決着でしたし、堅く収まりがちなレースと見ておいた方が良いかもしれません。
M 単勝人気順別成績を見ても、7番人気以下の馬は3着内率が4.4%どまり。超人気薄の馬が馬券に絡む確率はかなり低い──と言ってしまって良いのではないでしょうか。
伊吹 ちなみに、単勝7〜9番人気の馬が2013年以降[1-1-3-25](3着内率16.7%)だった一方、単勝10番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-84](3着内率0.0%)でした。単勝10番人気以下だったにもかかわらず3着以内となったのは、単勝オッズ32.6倍(11番人気)の低評価を覆して2着に食い込んだ2011年のフィフスペトルが最後。波乱の決着を期待して手広く押さえたり、前評判が極端に低い馬を狙ったりするのは賢明でないと思います。
M そんなマイルCSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、レッドモンレーヴです。
伊吹 話の流れからすると、ちょうど良い塩梅の馬かもしれませんね。単勝二桁人気ということはまずないでしょうし、その一方で上位人気グループの一角を占めるということもなさそう。
M レッドモンレーヴは主要な前哨戦と位置付けられている前走の富士Sで2着に食い込んだ馬。3走前には京王杯スプリングCを勝ち切っているうえ、2走前の安田記念でも勝ったソングラインから0.6秒差の6着に健闘しました。コース替わりを不安視する向きもありますが、この距離自体はまったく問題ありませんし、右回りのレースもこれまでのところ3戦2勝。妙味十分と見ている方も多いのではないでしょうか。
伊吹 中心視しているかどうかはともかく、明確な理由をもって買い目から外そうと考えている方はそれほどいないはず。ある意味、買い目作りのポイントになる一頭かもしれません。Aiエスケープが高く評価しているという事実を踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。
M 真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 まずは安田記念以降の戦績を素直に評価したいところ。2015年以降の3着以内馬24頭中16頭は“同年6月以降の、JRAの、出走頭数が13頭以上の、GI・GIIのレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M なるほど。条件クラスやオープン特別のレースはもちろん、GIIIでしか好走していない馬も強調できませんね。
伊吹 ちなみに、表Bで「なし」に該当していた馬のうち、“JRAの、1600m超の、GIのレース”において3着以内となった経験もなかった馬は2015年以降[0-0-0-85](3着内率0.0%)。中長距離のビッグレースで馬券に絡んだことがあるくらいの実績馬でない限り、ここ半年の戦績が物足りない馬は疑ってかかるべきでしょう。
M 厳密に言うと、レッドモンレーヴはこれらの条件をクリアしていないのですが……。
伊吹 まぁ、12頭立てだった前走の富士Sで2着に来ているうえ、同年5月中旬のレースである京王杯スプリングCを勝ち切っているわけですから、大きく評価を下げる必要はないと思います。そもそも、マイルCSは前走好走馬が強いレース。同じく2015年以降に限ると、前走の着順が6着以下だった馬は一頭も馬券に絡めていません。
M こちらもわかりやすい傾向。大敗直後の馬は大胆に評価を下げて良いのではないでしょうか。
伊吹 前走の着順が6着以下だったにもかかわらず3着以内となったのは、2014年1着のダノンシャークが最後でした。今年もこの傾向が覆る可能性は低いと見ています。
M レッドモンレーヴにとっては、強調材料のひとつと言えそうです。
伊吹 さらに、同じく2015年以降は、いわゆる“社台グループ”以外のブリーダーによって生産された馬がほとんど上位に食い込めていません。
M こちらもノーザンファーム生産馬のレッドモンレーヴにとっては心強い傾向と言えるのではないでしょうか。
伊吹 おっしゃる通り。私自身、不安要素が比較的少ない有力馬の一頭と見ていました。
M 積極的に狙っていきたいところですね。
伊吹 より楽しみな馬もいる分、◎を打つかどうかは決めかねていますが、Aiエスケープも中心視しているわけですし、相応のシルシを打った方が良さそう。オッズを含めた直前の動向をしっかりチェックしていきましょう。