スマートフォン版へ

「出走表の情報から選手の強さや特徴がわかる」競馬と競輪の違いを大解説・後編

  • 2023年11月21日(火) 12時00分
競馬と競輪の違いを通して、競馬大好き競輪ビギナーの一瀬恵菜さんが競輪をゼロから学ぶ対談企画。後編では競輪予想には欠かせない「ライン」と選手の特徴を掴むための「出走表の見方」を、競輪実況アナウンサーの加奈山翔さんが解説します。

「競馬と競輪の違いを大解説・前編」を読む

(構成・編集:netkeirin編集部)




レースを有利に運ぶためにはチームの力「ライン」が必要


一瀬 パッと見の枠番の色とか言葉とか近い部分もあるかなと思ったんですが、細かく見ると競馬と競輪は結構違いますね。

加奈山 そうなんです。次は競輪を理解する上で大事なラインについてお話しします。

一瀬 ライン…言葉だけは何となく(笑)。

加奈山 最初にざっくり言うと、競輪は最終周回の最後の直線まではチーム戦、4コーナーを回った最後の直線は個人戦です。チームと個人が融合しながら戦う特殊性を持っています。そのチームをラインというんです。

 実際のレースで説明しますね。1番の深谷、6番の大石、4番の和田はライン(チーム)です。選手名の下に選手登録がされている府県が表示されていますね。ラインは同じ府県や府県を包括する地区で組みます。1番の深谷と6番の大石は静岡、4番の和田は千葉と府県は異なりますが、ラインを組むのは、静岡と千葉は大きな括りで「南関東地区」だからです。

▲出走表の下に表示されているライン。大石・深谷・和田は南関東ライン、松本・大塚は四国九州ライン、松村と岡本は2人とも追い込み選手のため単騎に。脚質「逃」の選手がラインの先頭を走る


一瀬 静岡と千葉が同地区…なんですね(笑)。

加奈山 競輪独特の地区分けです。レースは南関東ラインの1番の深谷選手が勝ちましたが、走行中に先行した大石選手との間を、敵ラインの選手に分断されてしまいました。深谷選手は勝ったんですが嬉しくないでしょうね。

一瀬 仲間を守り切れなかったからですか?

加奈山 そうです。深谷選手は自分が優勝しても申し訳なさがあると思いますよ。

一瀬 義理というか気を遣うんですね。

加奈山 競輪の車券はラインから売れるので、最後の直線まではラインを崩さず、確定板(1着〜3着)を独占するのが最上と言われています。

一瀬 賞金ってラインのみんなで分配されるんですか?

加奈山 いやいや! 同じラインでも1着選手は1着の賞金、最下位選手は最下位の賞金しかもらえません。ただ、「借り」は出来るでしょうね。彼のおかげで自分は優勝出来たから、次は勝利に貢献出来るように…と考えても不思議ではないですよね。

一瀬 競輪を長く見ると、A選手はB選手に借りがあるはずだから、今回A選手はこう走るだろうと考えることが出来そうですね。

加奈山 おっしゃる通りで、予想の重要なファクターになります。

一瀬 ラインが無い選手もいるんですか?

加奈山 いますよ。単騎と言われます。同じ府県や地区が誰もいない場合や、敢えて自分で単騎を選ぶ場合もあります。

一瀬 やっぱりラインはあった方が良いんですか? 気を遣わない分、単騎の方が自由に走れそうな気もします。

加奈山 競輪は展開がモノを言うギャンブル。個の能力が抜けていても、味方が多い方が勝つチャンスは上がります。有利な展開を作るためにはラインがあった方が有利なんです。

▲競輪と競馬の実況を務めるアナウンサーの加奈山さん


一瀬 勝負事なので、ラインがあっても自分だけ勝つ競走をしないのかな〜と考えていたんですが、ラインがないと有利な展開が作りにくい、勝つことが難しくなるんですね。

加奈山 そうです。競輪の場合は基本1人だと個の力が高くても、勝つのは難しくなりますね。

似ているようで異なる競馬と競輪の「先行争い」



一瀬 競馬はゲートを出て位置を確保した後は落ち着きますが、競輪は見ていると残り2周から動きに変化が出ますよね。

加奈山 ゴールまで残り1周半になると鐘が鳴り、スピードアップします。後方のラインが先頭に出てきたり、ラインの中に別のラインが割り込んだり…競馬に慣れていると何が起きているかわからず、僕も最初は翻弄されました…。

一瀬 自分の買った選手がわからなくなりそう(苦笑)。誰と誰がラインを組むのは、いつわかるんですか。レース中に見極めるんですか?

加奈山 ラインとそのラインの中でどの位置を走るか。これを「並び」と言いますが、ラインも並びもレース前日に選手がコメントを出すんです。

 スタートしてからは、コメント通りにラインを作らないといけません。事前の作戦によっては、ライン同士で前の位置を取る争いはありますが、競馬のようにスタート後すぐにスピードが上がる激しい先行争いってないんですよね。競輪の先行争いは残り2周あたりからです。スタートして周回走行をしながらラインと並びを整えていきます。

一瀬 残り2周から…だからスタートがゆっくりな選手もいるんですね。レース映像を見た時に「出遅れた!」と思ったんですが、あれは出遅れじゃないんだ(笑)。並びは選手が決めるんですよね。揉めたりしないんですか?

加奈山 ほとんどは選手の脚質で決まります。逃げ選手は先頭、追い込み選手は番手以降を走ります。選手同士が話し合って決めますね。

 同じ脚質の選手が揃った場合は、直近成績だったり、時には年齢で前後が決まります。誰と誰がラインを組むか、そしてどの順番で並ぶか…これは予想に欠かせない情報で、競輪ファンはラインと並びを見て盛り上がるんです(笑)。

出走表の情報から選手の強さや特徴がわかる


一瀬 競馬だと戦績だったり、レース中の位置取りから先行馬、この血統だから距離が持ちそうとか、馬の強さや特徴を掴めるんですが、競輪はどうやって把握するんですか?

加奈山 出走表を見れば掴めます。まず、強さは競走得点が示しています。競輪には1着から9着まで賞金のほかに点数がもらえるんです。例えば1着100点をもらえるレースがあって、2着95点、3着93点…着順によって競走得点がもらえます。4カ月間の平均が競走得点になるんですよ。

一瀬 競馬のレーティングに少し似ていますね。

▲選手名の隣に表示されている「競走得点」「脚質」「S・B」「逃・まくり・差し・マーク」から選手の強さや得意戦法が見えてくる


加奈山 次に特徴ですが、競輪には「逃」「追」「両」の3つの脚質があります。「逃」は、競馬のようにハナに立つという意味ではなく、自力があるという意味。「追」は「逃」の後ろを走る選手、両は「逃」「追」のどちらも出来る選手と覚えておいてください。

一瀬 えっーと…じ、自力ですか?

加奈山 自分でペースを作れる脚がある、ラインの先頭で走れる脚がある、ということです。

▲競馬との違いに終始驚く一瀬さん


一瀬 その隣のSとBは、Bはブリンカーじゃないですよね(笑)。

加奈山 Sはスタンディング数、Bはバック線の通過数。Sは発走機から25m線に到達するとSが付きます。Sが多い人は出足がある選手ですね。

一瀬 ゲートが速い人みたいな。

加奈山 競輪は前の位置を取ると、敵のラインがどう動くかわかるので選手は展開を組み立てやすい。だからS数も予想の上で重要ですね。内枠でS数が多い選手がいるラインは注目です。

 B数は残り半周のところにバックストレッチラインという線があるんです。この線の通過数が多い選手ほど、先行意欲の高い選手ということがわかります。

一瀬 展開を考える時に使えそうな数字ですね。

加奈山 B数が多いのはラインの先頭を走る選手なので、車券はその選手の番手から売れますね。

一瀬 逃げの直後の先行を買うイメージですね。

加奈山 最後に覚えて欲しいのが「逃げ」「まくり」「差し」「マーク」の4つ決まり手です。どんな走りをして結果を残したのかがわかります。結果というのは1着か2着のことです。得意な戦法と考えて良いでしょう。

一瀬 マークはどんな意味なんですか?

加奈山 同じラインの前を走る選手を追走して2着になった時の決まり手です。

 質問します。例えば、脚質は「両」、B数2回、差し7回、マーク2回の選手だと、どんな選手をイメージしますか?

一瀬 差しが得意で割りと器用な人?

加奈山 そうですね。ラインの先頭でも走れるし、人の後ろでも走れる。差しは最後の直線で先頭選手を抜くと付く決まり手なので、鋭い脚を持つ自在型ですね。

 では、脚質は「逃」、B数19回、逃げ11回、まくり2回だと?

一瀬 これはジャックドールやパンサラッサのような純粋な逃げタイプ!

加奈山 その通りです。Bを19回取って、決まり手が13回ということですから、直近4か月の調子が悪くないということもわかりますね。

一瀬 選手のキャラクターが少し見えてきたような気がします。

6つある中の最後のGI競輪祭、注目は古性選手と犬伏選手



一瀬 競輪の基礎知識がわかってきたところで、競輪祭についておうかがいします。そもそも競輪祭とは、競輪界ではどういう位置づけのレースなんですか?

加奈山 競輪最高のグレードレース・KEIRINグランプリの出場権を得られる最後のチャンスが競輪祭。とても重要なレースです!

一瀬 そうなんですね。

加奈山 KEIRINグランプリの出場権は、GIレースで優勝者と、11月の競輪祭が終わった日までの獲得賞金ランキングの上位者に与えられます。全部で6つあるGIレースの最後が競輪祭なんですよ。

一瀬 なるほど。競輪祭の見どころを教えてください!

加奈山 注目は古性優作選手。今年のGIレースで既に3勝していて、そのうち寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメントでは完全優勝を収めています。

一瀬 すごく強いんですね!!

加奈山 GIを年間で3つも優勝するなんて、めったにないこと。その寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメントを制して年間GI・V3というのは史上6人目の快挙でした。すでに2億1800万円の獲得賞金を積み上げていますから、もし優勝すれば2億5000万円超! 古性選手が4つ目のGIタイトルを獲得するかどうか、見ものです。

▲古性優作(写真提供:チャリ・ロト)


一瀬 優勝候補を挙げるなら誰でしょう?

加奈山 やはり、古性優作選手でしょうか。近畿地区で連係することの多い脇本雄太選手が故障中に行われた寛仁親王牌(GI)で、4日間自分でやっても「勝てる」ということを改めて証明しました。

 競輪予想の性質上、決勝メンバーが確定し、ラインと並びが決まらないと予想をするというのは難しいですけれど、こういった背景もあって、優勝への道のりが一番近い選手だと言えると思います。

一瀬 古性選手の実力は本物ですね。能力がずば抜けているという感じがしました。他に、期待の新星枠で注目選手はいますか?

加奈山 犬伏湧也選手です。まだデビュー3年目の若手選手ですが、恐ろしく強く、破壊力抜群。ダッシュ力が本当にすごくて、ラインを組んでいる選手が千切れて追えなくなってしまうぐらい。まさに規格外の脚力の持ち主ですね。

 グランプリ出場へは背水の陣ですが、犬伏選手はグランプリへの出場を諦めていないと思うんです。獲得賞金ボーダー付近の選手の動向も大きく影響をもたらしそうですが、持ち味の速攻力で競輪祭を優勝して、グランプリへの切符をつかむことが出来るか、注目です!

▲犬伏湧也(写真撮影:北山宏一)


一瀬 古性選手に犬伏選手。決勝当日に公開される加奈山さんの見解や予想も参考に車券を買ってみようと思います。ジャパンCと競輪祭ダブル的中させるぞ!

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

netkeiba豪華ライター陣がお届けするエンタメコーナー。今まで味わったことのない競馬の面白さを体感してください!

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング