日本馬にとって強敵となる可能性があるアメリカの芝のニュースター
快進撃がどこまで続くか
アメリカの競馬と言えば、主戦場はダートで、ピラミッドの頂点にあるレースは、ケンタッキーダービーもBCクラシックもダート戦である。
従って、アメリカの芝路線というのは、どうしても水準を低く見てしまいがちで、個人的な印象としては、アメリカの芝のG1には、その基準を満たしているとは思えないものも少なからずあるように思う。あるいは、中東などで行われる芝の国際競走で、アメリカ調教馬が上位に来ることは難しい。
その一方で、今年のG1BCターフ(芝12F)で、欧州におけるこの路線の最強馬オーギュストロダン(牡3、父ディープインパクト)に3/4馬身差まで迫ったのは、12Fを走るのはここが初めてだったアメリカ調教馬アップトゥザマーク(牡4、父ノットディスタイム)だった。アメリカの競馬場が舞台であれば、アメリカ調教馬が世界のトップと互角に戦う可能性もあることを示したわけである。
来年、再来年と、ブリーダーズCの舞台は西海岸のデルマーで、芝のレースを中心に日本からも少なからぬ数の参戦が見込まれる。そんな日本馬にとって、ひょっとすると強敵になるかもしれない、アメリカにおける芝のニュースターを、今週のこのコラムではご紹介したい。
11月18日にニューヨーク州のアケダクト競馬場で行われたG2ヒルプリンスS(芝9F)を制した、インテグレーション(牡3、父クオリティロード)がその馬である。G1デルマーオークス(芝9F)勝ち馬ハーモナイズの2番仔という良血馬で、ファシグティプトン・サラトガ1歳セールに上場され、70万ドル(当時のレートで約7795万円)という高値でウェストポイント・サラブレッズ社と、ウッドフォード・レーシング社のジョイントヴェンチャーに購買されたのが、インテグレーションだ。東海岸の名門C.マゴーヒーIII厩舎に入厩した同馬は、じっくりと仕上げられ、今年8月12日にコロニアルダウンズ競馬場のメイドン(芝8.5F)でデビュー。道中3番手から抜け出した同馬は、ここを6.1/2馬身差で快勝し、緒戦勝ちを飾った。マゴーヒー師が同馬の2戦目に選択したのが、同じコロニアルダウンズ競馬場で9月9日に行われたG3バージニアダービー(芝9F)で、ここで見せたパフォーマンスをもってして、インテグレーションの名が一躍全国区となった。
デビュー2戦目にして、いきなり重賞というのは大胆な戦略に見えたが、大御所マゴーヒーは確信をもって、ここへインテグレーションを送り出したという。9頭立ての7番手を追走した同馬は、3〜4コーナー中間から馬群の大外を捲って進出。直線でも着実に脚を伸ばした同馬は、残り80m付近で先頭に立つと、そこから1.1/4馬身抜け出す快勝。無敗の連勝で、重賞初制覇を果たした。しかも、勝ち時計の1分46秒41は、フリッパンツが21年8月にマークした時計を0.06秒更新するトラックレコードで、関係者もファンも、これは相当な大器であると認める存在となった。
インテグレーションの3戦目となったのが、先週土曜日のG2ヒルプリンスSで、1.8倍の圧倒的1番人気に推された同馬は、9頭立ての3番手を追走。前走同様、3〜4コーナー中間からスパートしたインテグレーションは、直線残り250mで先頭に立つと、最後の1Fを10秒85という驚速の時計で駆け抜け、2番手以下を5馬身突き放す快勝。無敗の3連勝を飾った。上がり1Fだけでなく、全体の走破時計も優秀だった。アケダクト競馬場内回り芝コース9Fのトラックレコードは、今から38年前の85年にスルーザドラゴンがマークした1分47秒0。当時は1秒以下は5分の1秒単位の表示で、正しくは1分47秒0/5になる。一方、インテグレーションの走破時計は、1分47秒06。公式記録上ではトラックレコードにならないものの、ほぼトラックレコードに匹敵する好時計だったのである。
こうなると大きな焦点となるのが、快勝続きで無敗3連勝を飾った芝のニュースターの次走が、どこになるか、である。マゴーヒー師は、「少し間隔を空けたい」としながらも、1月27日にガルフストリームパーク競馬場で行われるG1ペガサスワールドCターフ(芝9F)参戦の可能性に言及した。インテグレーションの快進撃がどこまで続くか、24年の米国競馬の大きな見どころの1つとなりそうである。