ジャパンCに出走予定のイクイノックス(撮影:下野雄規)
創設当初、国内最強級の馬たちが束になっても通用せずあっけにとられていた時代から約30年。今年で43回目を迎える国際招待競走・ジャパンCは、当時を知る者にとっては夢のようなレースとなっています。何せ日本の馬が強すぎて、あれほど強く見えた外国馬たちがまったく上位に食い込めない時代なのです。
1981年の創設から17年ほど猛威を奮ってきた外国馬も、1998年以降は2002年ファルブラヴ(中山芝2200m施行)と2005年アルカセットの2勝だけ。とくにディープインパクトの2006年以降は、延べ56頭が走って1度も馬券(3着以内)に絡めず、掲示板(5着以内)どころか、一桁着順(9着以内)なら健闘したと言えてしまう部類。ジャパンCという名称や、東京芝2400mという舞台設定は同じであっても、昔と今では別物のレースであると考えられます。
ではその当時と今のジャパンC、何が違うのかと言うと馬場(競馬場の芝コース)の速さ、上がり3ハロン(ラスト600m)の速さが圧倒的に違います。初期ジャパンCは“勝ち馬の上がり3ハロン平均”が35秒4,1998年〜2005年の過渡期も平均は35秒4だったのですが、不良馬場施行の2003年を除くと35秒1。そして2006年以降は明らかにそれまでとは違うタイムの平均34秒3。
外国の馬が勝てるジャパンCは今も昔も“上がり3ハロン34秒8”辺りまでが限界。勝ち馬が33秒台で上がってくるような流れになると、外国馬はまったく手も足も出ないような状態になっています。
このように、ディープインパクトの2006年以降は『極端に上がりの速いレース』となっているジャパンC。傾向の変わってきた2006年以降の勝ち馬を調べてみると、そのほとんどが『上がりの速いレースを得意とする馬』であったことが確認できます。
■歴代ジャパンC勝ち馬、レース前勝利時の上がり3ハロン中央値
2006年 ディープインパクト 33秒8
2007年 アドマイヤムーン 35秒1
2008年 スクリーンヒーロー 34秒3
2009年 ウオッカ 34秒0
2010年 ローズキングダム 34秒0
2011年 ブエナビスタ 33秒9
2012年 ジェンティルドンナ 34秒1
2013年 ジェンティルドンナ 34秒2
2014年 エピファネイア 34秒3
2015年 ショウナンパンドラ 34秒2
2016年 キタサンブラック 34秒7
2017年 シュヴァルグラン 34秒3
2018年 アーモンドアイ 33秒5
2019年 スワーヴリチャード 34秒2
2020年 アーモンドアイ 33秒5
2021年 コントレイル 34秒9
2022年 ヴェラアズール 33秒9
※該当年ジャパンC前の成績で算出。芝のレースのみ集計
※中央値とは、順位が中央である値。中央値とは、データを小さい順(または大きい順)に並べ、真ん中に来る値のこと。こういった場合には平均値よりも中央値が相応しいのではないかと。たとえば『2、3、85』の平均値は30、中央値は3になります。
ということで、今年もジャパンCに出走を予定している馬の“勝利時の上がり3ハロン中央値”を算出してみましょう。この数値を起点として考えるのが現代ジャパンC予想の正攻法であると考えています。
■2023年ジャパンC出走予定馬、勝利時の上がり3ハロン中央値
イクイノックス 34秒4
イレジン 外国馬
インプレス 34秒0
ウインエアフォルク 36秒5
クリノメガミエース 芝勝利なし
ショウナンバシット 35秒2
スターズオンアース 33秒7
スタッドリー 34秒7
タイトルホルダー 35秒9
ダノンベルーガ 33秒4
チェスナットコート 34秒0
ディープボンド 35秒2
トラストケンシン 34秒6
ドウデュース 34秒0
パンサラッサ 37秒3
フォワードアゲン 35秒3
リバティアイランド 33秒6
ヴェラアズール 33秒8
この数値が“速ければ速いほど良い”という話でもないのですが、毎年一応の基準値と考えているのが34秒3という数値。(傾向が変わってきた)2006年以降の勝ち馬17頭のうち14頭が34秒3以下の数値を残していましたし、その17頭の平均が34秒2なので、この辺りをボーダーラインと考えるのが妥当なのではないかと思います。
しかし34秒3。そこを基準・ボーダーラインとした場合、なんと今年のイクイノックス(圧倒的な1番人気想定)は勝ち馬条件から外れてしまうということにもなるのです。現在のところ同馬の中央値は34秒4。正確には34秒35なのですが、どちらにしてもギリギリ。本当にギリギリのところで足りていないのです。イクイノックスが今まで走ってきたレースは、その大半が上がりの速くなりやすい競馬場、距離での良馬場であり、ここに関しては情状酌量の余地がありません。
たとえば2022年の日本ダービー。残り300mの地点でスッと伸びる瞬発力を見せたドウデュースに対して、イクイノックスは瞬間的に2馬身ほど引き離されています。その後瞬発力(というオプション能力)を使い切ったドウデュースに対してジリジリと差を詰めますが、結局クビ差及ばずのゴールイン。イクイノックスはイメージほど速い脚が使える馬ではないという映像的証拠にもなります。
とは言え、快速馬・パンサラッサの出走表明、それを追いかけるタイトルホルダーの存在もあって、今年のジャパンCは大逃げハイペースを想定する向きもあります。ハイペースとなれば、上がり3ハロン(ラスト600m)のタイムも遅くなり、そのぶん“34秒3の基準”を少しオーバーするイクイノックスに有利な流れになるという見解も得られるところでしょう。
しかし2012年ビートブラック、2015年カレンミロティック、2018年と2020年のキセキや2021年のアリストテレスなど、ジャパンCはわりと“後続を引き離す大逃げを試みる馬が多いレース”なのですが、それでも上記の傾向は変わらないというのが歴史的事実。それらも含めての基準値34秒3なのです。
闇雲にデータだけを見るのではなく、まずは仮説を立て、そこから裏付けとしてのデータ・リサーチ。ウマい馬券では、ここから更に踏み込んでジャパンCを解析していきます。印の列挙ではなく『着眼点の提案』と『面倒な集計の代行』を職責と掲げる、岡村信将の最終結論にぜひご注目ください。
■プロフィール
岡村信将(おかむらのぶゆき)
山口県出身、フリーランス競馬ライター。関東サンケイスポーツに1997年から週末予想を連載中。自身も1994年以降ほぼすべての重賞予想をネット上に掲載している。1995年、サンデーサイレンス産駒の活躍を受け、スローペースからの瞬発力という概念を提唱。そこからラップタイムの解析を開始し、『ラップギア』と『瞬発指数』を構築し、発表。2008年、単行本『タイム理論の新革命・ラップギア』の発刊に至る。能力と適性の数値化、できるだけ分かりやすい形での表現を現在も模索している。
1995年以降、ラップタイムの増減に着目。1998年、それを基準とした指数を作成し(瞬発指数)、さらにラップタイムから適性を判断(ラップギア)、過去概念を一蹴する形式の競馬理論に発展した。『ラップギア』は全体時計を一切無視し、誰にも注目されなかった上がり3ハロンの“ラップの増減”のみに注目。▼7や△2などの簡単な記号を用い、すべての馬とコースを「瞬発型」「平坦型」「消耗型」の3タイプに分類することから始まる。瞬発型のコースでは瞬発型の馬が有利であり、平坦型のコースでは平坦型に有利な流れとなりやすい。シンプルかつ有用な馬券術である。