▲楠調教助手(右)からイクイノックスへの手紙(撮影:下野雄規)
引退が発表された“世界ナンバーワンホース”のイクイノックス。今春、ドバイシーマクラシックを制覇した後から世界ランク1位として歩み続け、栗東滞在からの宝塚記念、同世代のダービー馬・ドウデュースと再戦した天皇賞(秋)、そして三冠牝馬リバティアイランドと対決したジャパンCと、全てにおいて勝利を収めました。そのプレッシャーたるや想像に難くありませんが、共に歩んだ日々は陣営にとってかけがえのない日々でもありました。
一番近くで寄り添ってきた人たちは同馬の引退、種牡馬入りをどんな思いで迎えたのでしょうか。担当の楠友廣調教助手(前編)、調教担当の阿部孝紀調教助手(後編)がこれまでの思い出を手紙にしたためました。
(取材・構成:大恵陽子)
イクイノックスへ。
これまで本当にありがとう。
振り返ると、一番思い出に残っているのはこの春に行ったドバイと、初夏の栗東滞在です。新しい環境になると不安がることが多かったけど、まずは何に対して不安がっているかを理解してあげて、その対処法を木村哲也調教師や阿部くん(調教担当の阿部孝紀調教助手)と相談して取り組んでいました。栗東滞在時には木村哲也先生が最大で6頭も一緒に連れて行ってくれて、いわば“イクイノックス布陣”。もちろん、その馬たちも関西圏で出走があるなど栗東滞在のメリットがあったわけだけど、そういった支えもあって一番難しかったメンタルケアも何とか上手くフォローできたかなと思います。
寂しがり屋な面は馬房でも見せていて、誰もいない時間帯にふと厩舎に行くと、イクイノックスだけが馬房から顔を出していましたよね。こういう時間帯って、自分の時間だからみんな馬房内で寛いだり好きに過ごしているのに、イクイノックスだけは顔をずっと出して、いつでもみんなを見られるポジションにいて、可愛いなと思ったよ。そういえば、馬が全くいない状況では、人が近くにいると寂しさが少し和らいだこともあったっけ。人のことも好きだったんですね。馬房に僕が入ると、やんちゃな男の子の場合は噛んだり攻撃してくることもあるけど、イクイノックスはただ近づいてきて、何をするわけでもなくそばにいたこともよくあったよね。