単勝オッズ5.9倍(3番人気)のアスコリピチェーノが優勝(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
高額配当決着となった年はあまり多くない
AIマスターM(以下、M) 先週は阪神JFが行われ、単勝オッズ5.9倍(3番人気)のアスコリピチェーノが優勝を果たしました。
伊吹 概ね順当な決着だったと言って良いのではないでしょうか。
前回の当コラムや
一週前予想でも指摘した通り、2014〜2022年の阪神JFは、“東京・中山のレース”において“着順が3着以内、かつ4コーナー通過順が2番手以下”となった経験のない馬が[1-0-2-98](3着内率3.0%)。近年の2歳牝馬路線は、阪神JFより前の時期に限ると、関東圏の方がハイレベルなメンバー構成になりがちなんですよね。
アスコリピチェーノは東京芝1400mの新馬を快勝していましたし、ステレンボッシュ(2着)は前走の赤松賞を、コラソンビート(3着)は前走の京王杯2歳Sを勝ち切っている馬。この3頭やサフィラ(4着)を重視し、関西圏ならびにローカル場のレースでしか好走していなかった馬の評価を下げることで、私自身も妙味ある配当を仕留めることができました。おそらく来年以降も同様の傾向が続くのではないかと思います。
M アスコリピチェーノは前走の新潟2歳Sでも優勝を果たしていた馬。出走馬18頭のうち、オープンクラス、かつ1600mのレースを勝ったことがあるのはこの馬だけでした。そんな状況だったにもかかわらず単勝支持率は14.1%どまり。こういった点からも、さすがに過小評価され過ぎだったと言って良いかもしれませんね。
伊吹 そもそもアスコリピチェーノは、POG絡みでデビュー前から相応の注目を集めていた馬。ノーザンファーム生産馬のダイワメジャー産駒はPOG期間中の勝ち馬率や一頭あたり賞金が非常に高く、当然ながら私自身もこの馬を狙っていたのですが、さまざまな媒体で取り上げられてしまったこともあって、残念ながらプライベートのドラフトでは獲得できなかったのです。
そういう馬がこの大一番で過小評価されてしまうというのも面白い話。こんなケースもあり得るのだと、改めて肝に銘じておきます。
M 来春の桜花賞も、今回と同じ阪神芝1600m外が舞台。上位争いを期待して良いのではないでしょうか。
伊吹 右回りのコースや多頭数を難なくこなしたわけですし、少なくともこの馬自身のレース適性に関しては、これといった不安要素が見当たりません。4コーナーを周り切ったところで並びかけてきたコラソンビートや、ゴールの直前で内から迫ったステレンボッシュに対し、最後の最後まで逆転を許さなかった点も好印象。北村宏司騎手の手綱捌きもお見事でしたが、この馬自身の勝負根性も高く評価して良さそうです。
あとは、残念ながら阪神JFを回避することになったチェルヴィニアやボンドガール、そして年明け以降に台頭してくる新興勢力との力関係次第。場合によっては再び過小評価されそうですから、引き続きしっかり動向をチェックしていきたいと思います。
M 今週の日曜阪神メインレースは、牡馬を中心に争われる今年2つ目のJRA2歳GI、朝日杯FS。昨年は単勝オッズ3.1倍(1番人気)のドルチェモアが優勝を果たしました。なお、その2022年は単勝オッズ3.6倍(2番人気)のダノンタッチダウンが2着を、単勝オッズ6.5倍(3番人気)のレイベリングが3着を確保し、3連単4570円の低額配当決着。堅く収まりがちな一戦と見ておいた方が良いのでしょうか?
伊吹 過去10年の3着以内馬30頭中18頭は、単勝3番人気以内の支持を集めていた馬。2017年以降の過去6回中5回は3連単の配当が6万円未満でしたし、近年は特に上位人気馬の活躍が目立っている印象です。
M 単勝7番人気以下の馬は3着内率が6.8%どまり。積極的に狙いたくなる数字ではありませんね。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4〜7番人気の馬は2013年以降[3-2-2-33](3着内率17.5%)、単勝8〜14番人気の馬は2013年以降[0-2-3-65](3着内率7.1%)、単勝15番人気以下の馬は2013年以降[0-0-0-23](3着内率0.0%)でした。魅力的な人気薄は躊躇わずに狙って良いと思うのですが、前評判が高い馬を安易に嫌ってしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんな朝日杯FSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ジューンテイクです。
伊吹 思い切ったところを挙げてきましたね。少なくとも、上位人気に推される可能性はかなり低いはず。
M ジューンテイクは前走のこうやまき賞を勝ってオープン入り。実績面で明らかに見劣りするということはありません。ただし、デビュー2〜4戦目でいずれも4着以下に敗れてしまったこともあり、既にキャリア5戦。今回は無敗の馬や既にオープンクラスで善戦してきた馬がいますし、高く評価している方はそれほど多くないと思います。
伊吹 前走のこうやまき賞が7頭立ての少頭数だった点も不安視されていそうですね。Aiエスケープの評価が高いことを踏まえたうえで、この馬のプロフィールと好走馬の傾向を見比べていきましょう。
M 真っ先にチェックしておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 暑い時期のレースしか勝ち切っていない馬や、先行力の高さを活かして勝ち上がってきた馬は割り引きが必要。2018年以降の3着以内馬15頭は、いずれも“同年10月以降の、JRAの、芝のレース”において“着順が1着、かつ上がり3ハロンタイム順位が2位以内”となった経験のある馬でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 実績上位であっても、この条件に引っ掛かっている馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M こうやまき賞で出走メンバー中トップの上がり3ハロンタイムをマークしたジューンテイクにとっては、心強い傾向と言えそうです。
伊吹 あとは、出走数やこれまでの実績も素直に評価したいところ。出走数が3戦以上だった馬は2018年以降[2-2-1-45](3着内率10.0%)と期待を裏切りがちですし、キャリア3戦以上だったにもかかわらず3着以内となった5頭のうち4頭は、既に格の高い重賞を勝ち切ったことのある馬でした。
M 京王杯2歳S、デイリー杯2歳S、東京スポーツ杯2歳Sあたりを制した馬でない限り、キャリア3戦以上の馬は強調できませんね。
伊吹 おっしゃる通り。今年も基本的にはキャリア2戦以内の馬を重視するべきだと思います。
M 先程も触れた通り、ジューンテイクは残念ながらキャリア5戦です。
伊吹 さらに、同じく2018年以降の朝日杯FSはノーザンファーム生産馬が[4-3-2-13] (3着内率40.9%)と堅実。一方、生産者がノーザンファーム以外だった馬のうち、1マイル以上の重賞やオープン特別を勝ち切ったことのない馬は苦戦していました。
M ジューンテイクはヒダカファームの生産馬。こちらの傾向からも強調しづらい一頭ということになります。
伊吹 特別登録を行った馬のうち、ノーザンファーム生産馬はシュトラウス・ダノンマッキンリー・ミルテンベルクの3頭だけ。確率の問題として、この3頭がそのまま上位を占める可能性はそれほど高くないでしょう。ただ、距離適性に不安のない実績馬が他にいる以上、ジューンテイクを殊更高く評価するわけにはいきません。
M 今回は伊吹さんとAiエスケープの見解が割れました。
伊吹 ジューンテイク自身に関して言えば、前走の内容自体は悪くなかったと思いますし、今後もどこかで狙う機会がありそうです。私は買い目から外すかもしれませんが、この人気なら押さえておくに越したことはないはず。枠順なども踏まえたうえで、最終的な取捨を判断したいと思います。