障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、昨夏の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く新連載。
ついに関西の病院への転院当日。3カ月ぶりに外の世界に出られた雄造騎手はハイテンションで、以前とは立場が逆転したような空気感を感じつつ小倉駅に到着。
新幹線の出発時刻までの15分程度の時間で、雄造騎手が自発的に行った感動的な行動とは…?
小倉駅では夫をあえてひとりにして、遠くから見守ることに
落馬事故から約3カ月。いよいよ関西の病院へ転院する日がやってきました。
ホテルを出て病院へ向かっていると、夫から「いよいよ退院。主治医の先生やスタッフの皆さんとの別れが寂しい。病院を出るときに泣いてしまうかも」というメッセージが届きました。冗談だと思った私は、「泣くのはおもろい。笑う」と返信。すると夫は、「ほんとに泣きそう。泣くと思う」と返してきました。まさか冗談ではないとは…。自分の感情を抑えることが難しくなる脱抑制の影響なのかな? と思いました。
病院の先生方との別れが悲しくて涙を流す43歳の男性はそうはいないでしょうし、自分の夫がそんなことで泣くシーンなんて見たくありません(苦笑)。このときの夫は、自分の社会的立場を客観視すること、そしてそれに見合った行動や言動をする能力が弱くなっていたのかもしれません。
「43歳の男性が、医師たちとの別れが寂しいからって泣き出したら、先生方やたまたま通りかかった人はどう思うかな? 社会のなかでどう振舞うのがベストなのか考えてみない?」と返信しました。
すると、「確かに。泣くのは違うね(笑)」と返ってきました。ちゃんと伝えれば、納得してくれる。この返信を見て、私は少し安心しました。
入院が続き、社会から離れた生活を続けるうちに、いろいろな感覚が鈍っていたのかもしれません。脱抑制はリハビリと時間薬で回復することが多いと聞いていたので、気になることがあったときは、このようにひとつひとつ説明することが回復につながるんだろうと感じました。
病院に着いた私はロビーの一角を借り、病室にあった荷物をスーツケースや段ボールに梱包する作業に没頭。そうこうしていると、晴れ晴れとした表情で夫がエレベーターから降りてきました。私と目が合った夫はニッコリとして売店へ行き、コーヒーを買い、ソファーに座りコーヒーブレイク。
思わず「ニッコリちゃうねん! 荷物! 自分の荷物!!」と突っ込みそうになりましたが、ここは何とか我慢。生死を彷徨い、無事に地元に帰るまでに回復したこの日の夫に言うことではないと、グッと耐えました(笑)。