▲きさらぎ賞に出走予定のビザンチンドリームに騎乗するR.ピーヒュレク騎手(C)netkeiba.com
初めてJRAの短期免許を取得し日本で騎乗をしているピーヒュレク騎手。
2021年の凱旋門賞をトルカータータッソで勝利するなどこれまで数々の競馬場で騎乗をしてきましたが、ジャパンCに遠征したドイツ馬アイヴァンホウ、イトウの調教担当として来日した経験もあり、日本の競馬場には特別な印象を持っているそう。
そんな日本との接点をつくってくれたF.ミナリク騎手の思いも背負い、ビザンチンドリームときさらぎ賞に挑戦します──。
(取材・文:ハツミ☆オカ)
「武豊騎手はヨーロッパでも伝説的な存在で、近くにいるというだけで緊張しました」
──初めての短期免許を取得し、3週間の騎乗を終えました。日本競馬の印象はいかがですか?
ピーヒュレク 日本のペースはとても速く、ヨーロッパはとてもスロー。日本のスタイルに変える必要がありましたし、最初はペースの違いに戸惑いましたね。もっとも、変えるのは技術的なことではなく、気持ちの部分を変えるという意味です。
──日本の競走馬に対するイメージは変わりましたか?
ピーヒュレク ヨーロッパの馬よりもスピードがありますね。なので、ドバイやアメリカ、ヨーロッパと言った世界中のどこでも活躍できる。ヨーロッパにも素晴らしい馬はいますが、日本は素晴らしいスピードを持った馬がとても多い。ヨーロッパはまずまず、日本はたくさん。こんな感じでしょうか。日本の競馬はとにかく“速い”ですよ。
──ジャパンC(2014年アイヴァンホウ、2015年イトウ)で来日したときの体験が、短期免許取得の一番の理由と聞きました。
ピーヒュレク 地下馬道からコースに出て、スタンドにいる多くの観衆を見たときの光景と感動を忘れることはできません。これほどの人の前で騎乗することができたら、どれほど素晴らしいだろうか。そのように思いました。すでに日本の競馬に騎乗し、その素晴らしさを実感していますから、東京に開催が替わって何かを変えるということはありませんが、東京競馬場で騎乗できることは素直に嬉しいですし、不思議な感覚でもあります。東京競馬場は本当に大きくて、まるでドイツのデパートのよう。競馬場内にある店の数も種類も豊富ですよね。私もターフィーショップでたくさんのお金を使いました(笑)。
──交友関係を教えてください。B.ムルザバエフ騎手は友人でしたね?
ピーヒュレク 彼はベストフレンドです。C.ルメール騎手も友人と思っています。でも、彼らとの関係を作ってくれたのはF.ミナリク騎手です。彼は日本の写真を送ってくれるだけでなく、鞍や腹帯などの色々な馬具をドイツに持って帰ってきました。ミナリクさんの持ってきたソメスサドルの鞍に乗ったとき、「こんなにいい鞍があるんだ」と。このような素晴らしい鞍をたくさん持てるジョッキーになりたい。そんな話もしました。ミナリクさんは単に日本で騎乗した外国人ジョッキーでなく、日本と日本競馬を愛した人です。それは僕も同じ気持ちです。
▲日本のファンからも愛されたミナリク騎手(撮影:下野雄規)
──日本のジョッキーはいかがですか?
ピーヒュレク 調教で栗東に行ったときに川田さんとお会いし、競馬の話をたくさんしてもらいました。英語がすごく上手な方ですね。美浦では調教にたくさん乗るため、交流する時間をあまり作れないのですが、戸崎さんからは色々なアドバイスをもらっています。武豊騎手はヨーロッパでも伝説的な存在で、どのような経緯で名前を知ったかさえも覚えていないくらい。トルカータータッソの凱旋門賞で一緒に騎乗すると知ったときは興奮しましたし、武豊騎手の近くにいるというだけで緊張しました。
▲トルカータータッソで凱旋門賞を勝利したピーヒュレク騎手(C)netkeiba.com
特別な思いを胸に重賞挑戦「エピファネイアの勝ち方は衝撃的でした」
──きさらぎ賞で騎乗するビザンチンドリームの話を聞かせてください。1週前調教に騎乗していましたね。
ピーヒュレク ムルザバエフさんは「素晴らしい馬ではあるが、まだまだ馬が若い」と言っていたようですが、その言葉通りの馬でした。走ることはわかっていますが、前の馬を交わしたら「僕の仕事はそこで終わり」と思っている。なので、そうではないと彼に教えなければなりません。併せた相手を突き放した理由もそれで、1頭になってからの彼がどのような感じになるのかを見てみたかったですし、どれくらいの長さを耐えられるのかを確認したかったのです。確かに子どもっぽい部分はありましたが、同時にポテンシャルの高さを感じました。
──ビザンチンドリームの父はエピファネイアです。同馬のことは覚えていますか?
ピーヒュレク もちろん。アイヴァンホウで参戦したジャパンCの勝ち馬がエピファネイアでしたから。ジャパンCは世界最高峰のレースと私は思っているのですが、エピファネイアの勝ち方は衝撃的で昨年のイクイノックスのようでした。ディープインパクト、ジェンティルドンナなど多くの馬を知っていますが、私にとって最初の接点となった日本の馬はエピファネイア。その産駒に乗って重賞に挑戦できることに繋がりのようなものを感じています。
▲エピファネイア産駒ビザンチンドリーム(C)netkeiba.com
──重賞制覇のチャンスと言えるレースです。
ピーヒュレク 私はミナリクさんが勝てなかったレースを勝ちたいと思っていて、凱旋門賞でもミナリクさんの鞍を使わせてもらいました。あの鞍は凱旋門賞を勝ったので引退。現在は凱旋門賞のカップと一緒に飾っていますが、今回の鞍もミナリクさんが買ってくれた鞍です。ミナリクさんは日本で重賞を勝ったことがありませんから。仮に結果を出すことができれば、感慨深い気持ちになるでしょうし、このようなチャンスを頂いたことを光栄に思っています。
(文中敬称略)