▲社台スタリオンより初年度の種付け料が2000万円と発表されたイクイノックス(撮影:下野雄規)
昨年11月、“世界一”の称号を手に電撃引退したイクイノックス。その売却金は50億円とも言われ、想像を絶するほどの莫大な金額が動く種牡馬ビジネスの世界。
そこで今回は、30頭(※取材日時点)の種牡馬を繋養しているアロースタッドの運営や種付け権利の売買、斡旋などの事業を展開する株式会社ジェイエスを取材。
種牡馬シンジケートの仕組みや種付け料の決定経緯、一般市民にも手が届く(!?)異例のシンジケートなどについてたっぷりとお話を伺いました。
(取材・文=松山崇)
「シンジケートを組んでリスク分散」種牡馬ビジネスの全体像
──「シンジケート」とは何かを教えてください。
ジェイエス社 簡単に言うと、複数人で1頭の種馬を所有する仕組みですね。1頭の種牡馬を数十株に分けて分配し、1株につき1頭分の種付けができる権利と、「余勢」と呼ばれるシンジケートの株を有しない方から得た種付料を配当として受け取る権利を持ちます。
種牡馬を購入して所有するというのは非常に高額なので、複数人で持つことによって一人当たりの負担を減らし、リスクを分散するというのが主な目的です。
種牡馬になるために必ずシンジケートを組む必要はなく、個人所有という形で一人のオーナーがそのまま所有し続けるというパターンもあります。実際、アロースタッドで繋養されている種牡馬は30頭いますが、シンジケートを組んでいるのは12頭です。
その起源について、詳細は定かではありませんが、競馬の歴史を考えると、おそらくイギリス辺りではかなり昔からシンジケートのような仕組みはあったのではないでしょうか。日本では、浦河の団体がヒンドスタン(シンザンの父)導入にあたって組んだのが、初めてのシンジケートだったそうです。
──シンジケートの株数に決まりはあるのですか?
ジェイエス社 日本では60株が主流になっています。ただ、厳密な決まりはなくて、海外では40株が多いと聞きますし、日本もかつては40株が多かったと聞いています。株を欲しい人が多ければ60株より増やすケースもありますし、逆に「この種牡馬の種付け権は、あまり外部に出したくない」という意向から、株数を抑えるケースもあるでしょう。
──シンジケートの価格はどのようにして決まるのでしょうか?
ジェイエス社 競走成績をベースとして、主流な種牡馬の系統であるかとか、母系がどのくらい優秀かといった血統の要素も加味されます。素晴らしい競走成績を収めた馬を種牡馬にしたいと思えば、ある程度プレミアムを見込んだ金額でオファーする必要もあるでしょう。20年以上前の話ですが、浦河、荻伏、静内、新冠、門別とそれぞれの地区で種牡馬を競って導入していた時期があって、それぞれが競い合ってオファーを出していたようです。
その馬の購入価格をベースにシンジケートの総額は決められます。大体3〜5年かけて分割してシンジケートの権利代を払うのですが、その間にも繋養経費や広告宣伝費、保険料等もかかってくるので、これらを全てひっくるめた金額=シンジケートの総額ということになります。一般的には、購入価格の1.6倍ぐらいになるケースが多いのではないでしょうか。
「多いのは〇〇の比較」種付け料の決定プロセスは?
──シンジケートが組まれるまでの手順を教えていただけますか?
ジェイエス社 導入したい馬については、様々なコネクションを通じてオーナーさんにオファーを出します。例えばモズアスコットの場合は、矢作調教師に同行してアメリカのセリで購入した馬だったので、アロースタッドに迎え入れたいという思いがありました。グランプリボスを預からせていただいたことからオーナーサイドともコネクションがありましたので、調教師とオーナーサイドと両方に対して働きかけた結果、アロースタッドでの繋養が決まったという経緯があります。今年、初年度産駒がデビューしますが、芝・ダートのどちらでも走れそうな馬が多いので、楽しみにしています。
シンジケートを組むことが決まったら、メンバーの募集になります。問い合わせがくる場合もあれば、現在、運営しているシンジケートのメンバーにこちらから声を掛けることもあります。割と“情”のようなものが優先される世界でもあるので、過去に組成するのに苦労した種牡馬のシンジケートにも入ってくださっている方に優先的に声を掛けることはありますね。
▲アロースタッド期待の新種牡馬モズアスコット(撮影:下野雄規)
──シンジケートの株を買うのは、どのような人が多いのでしょうか?