▲いよいよ最後のGIを迎える安田隆行師(撮影:大恵陽子)
別れの季節が近づいてきました。2月末は調教師が定年を迎える季節。今年、惜しまれながら引退する一人に安田隆行調教師がいます。
騎手時代にはトウカイテイオーで日本ダービーを勝ち、調教師としては短距離界を席巻した「世界のロードカナロア」を管理。奇しくも、最後のGI・フェブラリーSにはそのロードカナロア産駒のレッドルゼルで挑みます。
(取材・構成:大恵陽子)
「寒い時期は調子がいい」重賞3勝すべてが秋冬に
──レッドルゼルは近年、ドバイ遠征後に休養し、秋は東京盃→JBCスプリントというローテーション。ところが昨年は両レースをスキップして11月の武蔵野Sが秋初戦でした。
安田 去年の夏は熱中症にかかってしまって、ちょっと大変でした。夏はめっきりダメなタイプなんです。2021年にJBCスプリントを勝った時も、前走の東京盃(10月6日)ではまだ夏負けが尾を引いていたんですけど、JBCを前に状態が上向いていました。
──寒い季節が得意なんですね。たしかに、重賞3勝はすべて秋冬です。
安田 寒い時は調子がいいですね。いつもこの時期にきたら、状態はすごくいいです。
──熱中症から回復しての昨年11月の武蔵野Sは振り返っていかがですか。
安田 体調面がまだひと息でしたけど、3着と結果を残してくれました。もっとしまいの脚がキレると思ったんですけど、キレ負けしてしまいましたね。
──3コーナー手前で前向きな面が見られましたが、それも影響したのでしょうか?
安田 すごく掛かるタイプの馬で、調子がいい時ほどジョッキーが抑えきれないくらいにもっと引っ掛かります。武蔵野Sであれなら、今はもっと掛かると思います。
▲フェブラリーSに向けて調整されるレッドルゼル(撮影:大恵陽子)
──調子のバロメーターでもあるんですね。2月末に定年を控える安田調教師にとってはこのフェブラリーSが最後のGIで、かつて管理したロードカナロアの産駒と臨みます。ちなみに、現在もロードカナロア産駒では安田厩舎がリーディングを独走しています。
安田 カナロアはオンオフがすごくハッキリしていて、厩舎や調教では大人しいんですけど、競馬に行けばそれがすごい爆発力に変わる馬でした。久しぶりの1600mでどんな競馬をするのかな? と見ていた安田記念はすごく印象に残っていますね。カナロア産駒のレッドルゼルとフェブラリーSに出られるだけでも嬉しいですし、何とか結果を残してほしいなと思います。
▲レッドルゼルの父で、世界のスプリント界を席巻したロードカナロア(撮影:高橋正和)
「あと4勝ですか」間近に控えた引退までに達成したい記録
──安田調教師は騎手時代にはトウカイテイオーで1991年日本ダービーを制覇されました。当時の気持ちや競馬場の雰囲気はどうでしたか?
安田 いま思い出しても鳥肌が立つくらいすごかったです。1着でゴールに入って馬を止めた時に安田コールが聞こえたんですよね。「いやぁ、スタンドに帰るのが恥ずかしいな」っていう心境でした(笑)。
──いざ引き揚げてくると、スタンドはもっと沸いたでしょう。
安田 本当にもう最高でしたね。
▲騎手としてトウカイテイオーと制した1991年日本ダービー(撮影:高橋正和)
──素敵な職業ですね。
安田 そうですね。勝った時はすごく嬉しいです。それ以上に負けた時の悔しさも多かったですけど、それがあるからこそ、勝ったときの喜びがひとしおになって返ってきます。
──以前、ご子息の兄弟対談を行った時、長男・景一朗調教助手が「定年までに安田厩舎1000勝を達成したい」とおっしゃっていました。
▼『安田景一朗助手×安田翔伍調教師』対談の様子は
こちら安田 JRA通算965勝(2月7日時点)なので、それはちょっと無理になりました。ただね、地方競馬も入れたら。あと何勝かな?
──あと4勝なんです。
安田 あと4勝ですか。うん、4勝。やりたいですね。
──まだ引退まで1カ月弱ありますが、周囲の方々にはどんな思いがありますが?
安田 オーナーはいい方がたくさんいらして、厩舎スタッフにも恵まれてみんなよく頑張ってくれました。騎手として20年、調教師として30年の約50年間、ファンの方に応援していただいて、本当に感謝しても感謝しきれません。ありがとうございます。
──フェブラリーS、そしてJRA地方通算1000勝の達成を楽しみにしています。最後にフェブラリーSへ意気込みをお願いします。
安田 レッドルゼルは8歳で年齢的には割引材料になるかもしれませんけど、元気いっぱいです。寒くなって、前走の武蔵野Sより状態はいいので応援よろしくお願いします。
(文中敬称略)