単勝オッズ16.1倍7番人気のマテンロウスカイが中山記念を優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
堅く収まりがちなので買い目もその傾向に合わせたいところ
AIマスターM(以下、M) 先週は中山記念が行われ、単勝オッズ16.1倍(7番人気)のマテンロウスカイが優勝を果たしました。
伊吹 陣営はもちろん、手綱を取った横山典弘騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。好スタートを決めてスムーズに内ラチ沿いのポジションを確保し、道中は3番手を追走。4コーナーで2番手に上がり、残り200m地点のあたりで逃げたドーブネ(2着)に並びかけ、そのまま後続を突き放しています。後方からレースを進めた単勝1番人気のソールオリエンス(4着)、マテンロウスカイよりやや外めのコースを追走していた単勝2番人気のエルトンバローズ(7着)が優勝争いに絡めなかったことを考えても、結果的に最高の位置取りだったと言って良さそう。ベテランジョッキーの好判断とこの馬の潜在能力が綺麗に噛み合った形です。
M マテンロウスカイは重賞初制覇。2走前にオープン特別のリゲルSを制しているほか、昨年のエプソムCでも3着に食い込んだ実績のある馬ですが、デビュー17戦目で念願のタイトル獲得に至りました。
伊吹 3歳時は惜敗続きでなかなか2勝目を挙げることができず、昨春のオープン入り後もケフェウスS(9着)やカシオペアS(4着)で単勝1番人気の支持を裏切っていましたから、陣営の苦労やもどかしさが偲ばれますね。ただ、5着どまりだった前走の東京新聞杯を含め、ここ3戦はいずれも成長を感じる好内容。競走馬として完成の域に達しつつあるのかもしれません。
M 今後もまだまだ活躍を期待できそうですね。
伊吹 昨春に格上挑戦の身で3勝クラスの難波Sを勝っている馬ですし、今回も別定競走のGIIを完勝したわけですから、強敵相手の方が自身の持ち味を活かせるタイプなのかも。もしそうであれば、今春以降のビッグレースでも面白い存在となっていくのではないでしょうか。おそらくですが「先週のような馬場がベスト」「中山芝1800m内がベスト」ということはないはず。実績面やコース適性を不安視される場面があったら、激走を警戒しておきたいと思います。
M 今週の日曜中山メインレースは、今春の大舞台を目標に据えた3歳馬が皐月賞への優先出走権をかけて争う一戦、弥生賞。昨年は単勝オッズ4.2倍(3番人気)のタスティエーラが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ2.9倍(1番人気)のトップナイフが2着、単勝オッズ4.2倍(2番人気)のワンダイレクトが3着だったこともあり、3連単の配当は4010円、3連複の配当は800円どまり。今年も堅めの決着をイメージしておいた方が良いのでしょうか?
伊吹 過去10年の弥生賞における3連単の配当を振り返ってみると、昨年を含む半数の5回は5千円未満。2019年に45万7370円の高額配当が飛び出しているとはいえ、大きな波乱は期待しづらいレースであると言わざるを得ません。
M 単勝人気順別成績を見ても、上位人気グループの馬がそれなりに優秀な成績を収めています。
伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝2番人気以内の馬は2014年以降[6-6-3-5](3着内率75.0%)、単勝3〜4番人気の馬は2014年以降[3-2-4-11](3着内率45.0%)、単勝5〜10番人気の馬は2014年以降[1-2-3-54](3着内率10.0%)、単勝11番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-10](3着内率0.0%)となっていました。今年も少頭数になりそうですし、無理に伏兵を狙うのではなく、買い目を絞り込む方向で予想を組み立てていくべきでしょう。
M そんな弥生賞でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、シンエンペラーです。
伊吹 話の流れからすると妥当なところではありますが、意外と言えば意外な馬を挙げてきましたね。今回のメンバー構成だと、相当に人気が集中するはず。
M シンエンペラーは昨年の京都2歳Sを制している実績馬。前走のホープフルSでも、勝ったレガレイラから3/4馬身差の2着に健闘しています。出走メンバー中唯一の重賞ウイナーですし、おそらく単勝1番人気の立場でレースを迎えることになるでしょう。
伊吹 どちらかと言えば穴党であるAiエスケープがこの馬を挙げてきたということは、妙味ある伏兵が見つからなかったということなのかもしれません。私はレースの傾向からシンエンペラーの信頼度を見極めていきたいと思いますが、もともと荒れにくいレースである点や、Aiエスケープも荒れないと見ていそうな点を踏まえたうえで、各項目を参考にしてみてください。
M 最大のポイントはどのあたりですか?
伊吹 近年は基本的に大手ブリーダーの生産馬が優勢。20年以降に3着以内となった馬の大半は、生産者が社台ファームかノーザンファームでした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 ただし、生産者がNorthern Farm・社台ファーム・ノーザンファームでなかった馬のうち、ホープフルSにおいて5着以内となった経験がある馬は2020年以降[1-1-0-1](3着内率66.7%)。能力やコース適性の高さを十分に証明している馬であれば、生産者を気にする必要はありません。
M なるほど。先程も触れた通り、シンエンペラーはホープフルSで2着に健闘している馬です。
伊吹 そもそもノーザンファームで育成された馬なので、外国産馬である点を不安視する必要はないでしょう。あとは、直近のパフォーマンスを素直に評価したいところ。同じく2020年以降の3着以内馬12頭は、いずれも前走の着順が5着以内、かつ前走の条件が新馬・未勝利以外でした。
M 大敗を喫した直後の馬や、初勝利を挙げたばかりの馬は、まったく上位に食い込めていませんね。
伊吹 前走で大きく崩れてしまった実績馬、新馬や未勝利の勝ちっぷりを高く評価されている1勝馬などは、疑ってかかるべきだと思います。
M ホープフルS2着を経て参戦してきたシンエンペラーにとっては、心強い傾向です。
伊吹 さらに、同じく2014年以降の3着以内馬12頭中11頭は、父にサンデーサイレンス系種牡馬かノーザンダンサー系種牡馬を持つ馬でした。
M 血統が重要、と。
伊吹 サンデーサイレンス系種牡馬の産駒はまずまず堅実ですし、昨年の弥生賞は父にノーザンダンサー系種牡馬を持つ馬のワンツースリーフィニッシュ。逆に言うと、ミスタープロスペクター系種牡馬やロベルト系種牡馬の産駒は強調できません。
M シンエンペラーはノーザンダンサー系に属するSiyouniの産駒。レースの傾向からも素直に信頼して良さそうな一頭と言えるのではないでしょうか。
伊吹 Aiエスケープと同じく、私もこの馬を中心視することになりそう。特別登録を行った馬のうち、今回挙げた条件を綺麗にクリアしているのは、シンエンペラーとサンライズジパングだけですからね。妙味ある伏兵を的確に押さえつつ、ギリギリまで絞った買い目で勝負できればと思います。