▲阪神大賞典に出走予定のサヴォーナを管理する中竹和也調教師(左)と先週デビューした柴田裕一郎騎手(右)(C)netkeiba
阪神大賞典に出走予定のサヴォーナ。前走・日経新春杯ではゴール直前で先頭に立つシーンもあっての2着など、距離が延びて強さを発揮します。
そのサヴォーナと同馬主のアリスヴェリテが先週、ルーキー・柴田裕一郎騎手とのコンビで勝利を挙げました。柴田騎手にとってはデビュー日に嬉しい初勝利。そこには、オーナーへのご挨拶に連れて行った師匠の愛情、そして快く騎乗を許してくださった加藤誠オーナーの懐の深さがありました。
サヴォーナ、そして弟子の柴田裕一郎騎手について、中竹和也調教師に伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
「動きたいタイミングで動いても、途中でまた待てる」最大の武器
──サヴォーナの前走・日経新春杯は1000m通過58秒3と緩みのない流れから2着でした。
中竹 この馬の長所である操縦性の高さが見られて、改めて能力があることを感じました。ペースが速い中で、あの位置から辛抱してくれました。
──4歳馬です。中竹調教師としては成長度合いをどう感じていますか?
中竹 去年の菊花賞の時にほぼ完成したかなと思っていたんですけど、池添謙一騎手は「まだ来年」と話していました。見た感覚と乗った感覚はまた異なりますからね。今回は1週前追い切りに乗った後に「すごくいいです。出来上がっています」と言っていました。雨で重たくなったウッドチップコースでも一度もノメることなく、しまいまでしっかり走れていました。池添騎手の感覚としても芯ができて、体幹もしっかりしてきた、ということなのでしょう。
▲池添騎手を背に1週前追い切りを行ったサヴォーナ(手前)(撮影:大恵陽子)
──性格はどんな馬ですか?
中竹 普段は後ろから抜かされると反応するんですけど、レースでは操縦性が高いです。競馬ではみんなで同じ方向へだいたい同じペースで走りますけど、普段のトレセンでは歩いて抜かされたり、走って抜かされたりと変化が大きいので、反応するんじゃないかなと思います。
──レースでの操縦性の良さは、長丁場で武器になりますね。
中竹 大きな長所ですね。この馬は途中の動きたいタイミングで動いて、そこで「待て」と言われたら、それができるんです。多くの馬は途中で動いたら一気にバーンって行っちゃうんですけど、一旦待てるところが一番すごいですね。
──阪神大賞典に向けて見通しをお願いします。
中竹 この馬のお母さんは芝1400mで勝っていて、最初の頃は体形を見て「短いところかな?」と思ったんですけど、調教をしていくにつれてストライドが大きく、性格もゆったりしていて長めの距離を使うようになりました。菊花賞(5着)でもあれだけのパフォーマンスを見せてくれましたし、距離が長い分にはいいんじゃないかなと思っています。
▲母の距離適性に反し2400m以上の長距離で2勝、2着4回の成績を挙げるサヴォーナ(撮影:小金井邦祥)
デビュー前にオーナー宅へ挨拶に。単勝1倍台で初勝利の舞台裏
──ところで先週、中竹厩舎からは柴田裕一郎騎手がデビューしました。デビュー3戦目、アリスヴェリテで嬉しい初勝利を挙げました。3戦続けて2着にきていた馬で、単勝1.9倍。見ている方もかなり緊張されたのではないですか?
中竹 だいぶどころじゃなかったです(笑)。私の調教師初出走よりも緊張しました。レース前は「馬の後ろにつけて、リラックスして走らせるように」と伝えていましたが、ゲートがポンと出たので、あの形になったら他のジョッキーでも抑えるのはなかなか難しいです。勝った時は安堵しかなくて、ゴールに入った瞬間はホッとしすぎてしばらく立ち上がれませんでした。
──これだけの有力馬への騎乗を承諾してくださって、懐の深いオーナーですね。
中竹 デビュー前に本人(柴田騎手)を連れてオーナーのご自宅までご挨拶に伺ったんですけど、加藤誠オーナーが非常に応援してくださり、本当に感謝しかありません。レース後も私が「下手くそに乗った」と言っている中、オーナーは「いやぁ、上手く乗った」と言っていただき、本当に素晴らしいオーナーです。
▲加藤オーナーの期待に応え、勝利を挙げた柴田裕一郎騎手とアリスヴェリテ(C)netkeiba
──加藤オーナーと中竹厩舎のタッグでは、今年の京都金杯を勝ったコレペティトールなど多くの活躍馬がいますね。
中竹 加藤オーナーが馬主になられて初めて買った馬がアリスヴェリテのお母さん(ルミエールヴェリテ)でした。私がアメリカで選ばせていただいた馬で、未勝利で引退してしまいましたが、なんだか個人的に物語があるな、と感じています。
──15年以上の時を経てのストーリーですね。柴田騎手はデビューしたばかりでまだまだ課題も多いとは思いますが、いい点は?
中竹 マイペースなところです。すごくいいと思います。もしかしたら内心は動じているのかもしれないですけど、それを表に出さないのか動じていないのか、常にマイペースです。
──これからどんな師匠でありたいですか?
中竹 一生怖い存在でいたいです。できることなら、「あまり近寄りたくない」と思われるくらいの存在でいたいですね。優しくする方が簡単だし、その方がエネルギーもいらないですけど、仕事をする上では誰か一人、怒ったりする嫌われ役がいないといけません。嫌いだから厳しくするわけではないので、裕一郎に優しいと思われないように頑張ります。
(文中敬称略)